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ECBの5月理事会のAccounts-More ground to cover

2023/06/02

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はじめに

ECBの5月理事会は25bpの利上げを決定したが、食品やサービスを中心とするインフレ圧力への懸念が共有され、50bpの利上げへの支持も示されるなど、タカ派的な議論が支配的であった。

経済情勢の判断

理事会メンバーは、エネルギー価格の下落や供給制約の緩和、域内国の財政支援が経済活動を支えているというレーン理事の評価に同意した。

また、第1四半期の経済成長が前回(3月)の執行部見通しを上回った点を歓迎し、家計や企業のマインドが改善し、家計所得が労働市場の強さに恩恵を受けているとした。もっとも、経済活動の再開によりサービス業の生産が回復している一方、消費は総じてみれば停滞感もあり、製造業の生産も、足元では受注残に対応しているが、今後は減速が見込まれると指摘した。

この間、累次の利上げによるインパクトは初期段階にあり、企業の需要見通しや設備投資には影響の兆しがあるが、インバウンド観光を含む消費への影響はみられないと評価した。これに対し、域内国の財政支出は、景気の底堅さに比して過大であると指摘したほか、物価上昇によって公共部門の給与や年金の支払が拡大する下で、今後の財政支出の抑制が「too little, too late」になるリスクも挙げられた。

これらを踏まえ、理事会メンバーは先行きの下方リスクは最早明白とは言えないと評価した。その上で、足元の金融システムのストレスやウクライナ戦争の展開等の下方要因の一方、供給制約の緩和や労働市場の強さといった上方要因を指摘した。

物価情勢の判断

理事会メンバーは、既往のエネルギー価格の高騰や供給制約の影響の波及によって、高インフレ率が継続しているというレーン理事の幅広く(broadly)同意した。

また、経済活動の再開と賃金上昇のためサービス価格が上昇している点を指摘し、後者は労働市場の強さと実質購買力の喪失を回復する動きによると評価した。企業も需給のミスマッチの下で、値上げによりマージンを回復しうる状況にあるとした

さらに、エネルギーを除く主要な品目のインフレ率が、前回(3月)の執行部見通しを大きく上回った点に懸念を示し、次回(6月)の物価見通しが再び上方修正される可能性を指摘した。これに対し、エネルギーの価格、ユーロの為替相場、利上げの影響や供給政策の緩和など、物価上昇を抑制する要因も指摘された。

主要な品目の中で、理事会メンバーは食品を取り上げ、既往の価格上昇の波及が不十分である点や、飲食、宿泊といったサービス価格への影響に懸念を示した。

加えて、コアインフレ率の高さやモメンタムの強さを確認し、賃金や価格の設定が柔軟でないだけに、インフレ率が減速に転じたとは判断しえないと評価した。また、エネルギー価格の既往の上昇を考えるとコアインフレ率の減速に時間を要するとの指摘や、コアインフレ率だけに過度に注目すべきでないとの指摘もみられた。

その上で、理事会メンバーは中期的なインフレ圧力にとって賃金動向が重要である点を確認し、足元の賃金上昇は、労働需給のタイトさだけでなく、公的部門の賃上げ圧力や労働組合の交渉力の回復によるとの理解を示した。さらに、足元の賃金上昇は、インフレ率や生産性上昇の見通しと整合的でない点も確認された。

理事会メンバーからは、賃金上昇が域内で一様ではないとか、失業率が低下する下で雇用も増加しているとの反論もあったが、これに伴う生産性の改善は確認されないとの指摘があった。その上で、2021~24年に物価が2割も上昇する下で、実質購買力の回復のための賃金上昇は不可避との指摘や、企業収益が高水準の下で、賃金が企業収益に遅行しつつ上昇する可能性が指摘された。

この間、3月の家計のインフレ期待が上昇した点にも懸念が示され、賃金や価格の設定におけるインフレ期待の重要性を確認した。これらを踏まえ、多数(a large number of)のメンバーが、リスクは明確に上方に傾いていると評価し、足元の物価上昇圧力に加え、ウクライナ戦争の影響やインフレ期待の上昇、賃金上昇等を要因として挙げた。一方、金融システムのストレスや総需要の減退を下方要因として指摘した。

金融政策の運営

ECBは「政策反応関数」に関して、①経済指標の物価見通しへの意味合い、②物価基調の動向、③金融政策の波及効果の三要素を挙げている。

理事会メンバーは、①に関して足元のインフレが再び上方にサプライズであり、インフレ見通しが長期に亘って高すぎる点を確認し、 ②に関してサービス価格を中心とするコアインフレ率の高止まりに懸念を示し、③に関して資金調達や金融環境への影響がより明確になったと評価した。

これらを踏まえ、中期的なインフレ目標の達成に更なる金融引締めが必要である点に合意した。この間、銀行の与信姿勢がタイト化している点には、足元の金融システムのストレスが影響した点を認めつつ、貸し渋りの兆しはなく、金融引締めによる効果の波及との理解を示した。その上で、金融政策と金融安定策における「分離原則」(各々別の政策手段を適用)の重要性を確認した。

5月理事会は25bpの利上げを決定したが、当初は多く ( a number of)のメンバーが50bpの利上げを主張した。その理由として、ECBによる物価安定へのコミットメントの明示や強力な引締めによる迅速なインフレ目標への回帰の重要性を指摘したほか、金融システムのストレスが短期に収束する見込みや経済活動の底堅さを付言した。

もっとも、これらのメンバーのほとんど(most)も、更なる利上げに対する明確なバイアス(directional bias)を明示し、今回の政策決定が利上げ停止の見通しと誤解されないように対外発信を行うことを条件に、25bpの利上げというLane理事の案に同意した。

その上で理事会メンバーは、今後も利上げの継続が必要である点を確認した上で、今回の25bpの利上げが、①過去9か月に350bpの利上げを行い、最終到達点に近付いている、②既往の金融引締めの波及効果のペースや強度には不透明性がある、といった点で合理性を有すると評価した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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