FRBのパウエル議長の記者会見-We need to do more
はじめに
FRBは今回(6月)のFOMCで政策金利の現状維持を決定したが、同時に公表したdot chartは、年内の追加利上げが必要との見方が大勢であることを示した。このため会見でも、多くの記者が追加利上げのタイミングを質した。
経済情勢の判断
パウエル議長は、住宅投資や設備投資といった金利感応度の高い分野の減速によって、米国経済の拡大が緩やかに止まっている点を確認した。また、労働市場でも、prime ageの労働参加率や未充足求人などの面で需給に改善がみられるが、依然として力強い状況が維持されていると評価した。
FOMCメンバーによる実質経済性成長率の新たな見通しは、 2023~25年にかけて+1.0%→+1.1%→+1.8%となり、前回(3月)に比べて2023年が0.6ppの上方修正となった一方、その後は微修正に止まった。失業率の新たな見通しも、2023年が4.1%と前回(3月)対比で0.4ppの下方修正となった点が注目される。
会見では、複数の記者が2023年の景気見通しの改善を取り上げた。パウエル議長は、雇用の拡大と賃金上昇によって消費が想定以上に底堅い点を指摘したほか、物価目標の達成に向けた金融引締めの下でも、急速な景気悪化は回避可能との見方を確認した。
物価情勢の判断
パウエル議長は、PCEとCPIの双方でインフレ率が減速しているが依然として水準は高く、2%目標の達成には時間を要するとの見方を確認した。また、FRBが物価目標の達成に強くコミットする姿勢を確認するとともに、市場指標とサーベイの双方をもとに、長期のインフレ期待は安定しているとの評価を維持した。もっとも、インフレのリスクは、依然として上方に傾いていると評価した。
FOMCメンバーによるPCEインフレ率の新たな見通しは、2023~25年にかけて+3.2%→+2.5%→+2.1%となり、前回(3月)に比べて2023年が0.1ppの下方修正となったが、その後は不変に維持された。 もっとも 、コアPCE インフレ率の新たな見通しは 、+3.9%→+2.6%→+2.1%と、2023年が前回(3月)対比で0.3ppの上方修正となった点が注目される(2025年も0.1ppの上方修正)。
会見では、複数の記者がコアインフレ率見通しの上方修正を取り上げた。パウエル議長は、コアサービスの価格において賃金の影響が大きい点を確認した上で、労働需給の緩和が緩やかに止まっているため、賃金上昇の減速を通じた価格上昇圧力の緩和に時間を要するとの見方を示した。もっとも、賃上げのためのストライキのような動きには、FRBとして対応しがたいと説明した。
また、別の複数の記者は住宅価格の動向によるインフレ率への影響を質した。パウエル議長は、足元で住宅価格の減速に歯止めがかかりつつある点を認めた一方、今後は価格上昇率の既往の低下が、物価指数で大きなウエイトを有するrentの上昇率低下に波及するとの見通しを確認した。もっとも、そのプロセスが想定以上に時間を要している点も認めた。
金融政策の運営
今回(6月)のFOMCは、政策金利であるFFレートの誘導目標を、 5~5.25%に据え置くことを決定した。パウエル議長は、冒頭説明で、既に顕著な金融引締めを行った点を確認するとともに、効果の時間的ラグには、金融環境を中心に不透明性が高いだけに、利上げを停止して効果を評価することに意義があるとの考えを示した。
もっとも、FOMCメンバーの大半は、物価目標の達成に向けて追加利上げが必要と予想している点も併せて強調した。
今回(6月)のdot chartによれば、2023~25年の各年末の政策金利の見通し(median)は5.6%→4.6%→3.4%となり、前回(3月)に比べ、各々0.5pp, 0.3pp, 0.3ppの上方修正となった。特に2023年末は、18名中9名が現状より50bp高い水準、4名が現状より25pp高い水準を予想し、現状より低い水準を予想するメンバーは皆無であった。
会見では、複数の記者が、上記のように足元のインフレ率見通しを上方修正したほか、一連の銀行破綻による実体経済への影響が抑制されているとして、今回(6月)のFOMCが政策金利の現状維持を決定した妥当性に疑問を示し、追加利上げが必要であれば今回行うべきと指摘した。
これに対しパウエル議長は、金融政策の正常化の初期段階では、金融引締めを迅速に実現する観点から、政策金利の引上げペースが重要であったが、今や最高到達点に近付いた以上、政策金利の水準がより重要になったとの理解を示した。
一方で、今後の利上げは、労働市場の動向やインフレ圧力とインフレ期待、金融市場の動向を含む幅広い指標をもとに、毎回のFOMCで決定する方針を確認し、次回(7月)のFOMCもliveな会合となる(無風ではない)ことも強調した。
この間、銀行破綻の影響には不透明な面が残るとの見方を確認したほか、商業不動産向けの与信が中小銀行に集中し、価格下落による損失を被っているとの認識を示した。その上で、今後の利上げでは金融環境のタイトさを考慮に入れる方針を確認したほか、その意味でも、今回の政策金利の現状維持は、より良い政策判断を行う上で有用との考えを指摘した。
また、別の記者は、政策効果の波及に時間的ラグがあることを踏まえると、本年後半の利上げが結果として過度な引締めとなる恐れを指摘した。
パウエル議長もリスクを認めるとともに、既往の利上げが金融環境のタイト化を迅速に実現した一方、実体経済への波及に想定以上に時間を要したとの理解を示した。また、インフレ率の減速に伴って実質政策金利が一層上昇するだけに、FOMCメンバーも2024年中の利上げを予想している訳ではないと説明した。
なお、今回(6月)のFOMCでは、保有資産の削減(QT)については現状のペースで継続することを決定したが、パウエル議長はその理由について特段の説明を行わなかった。
一部の記者からは今後のQTの運営に関する質問が示されたが、 パウエル議長は、超過準備の水準は極めて大きいため、連邦債務上限の引上げに伴う政府の資金繰り変更によって大きな影響を受けることはないとしたほか、リバースレポの運営にも問題はないとの見方を示した。
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