FRBのパウエル議長の議会証言(上院銀行、住宅、都市問題委)
はじめに
FRBのパウエル議長による、金融政策の半期報告に関する今回の議会証言(上院銀行、住宅、都市問題委員会)では、インフレ抑制のための利上げが経済に与える影響と、一連に銀行破綻とこれに対するFRBの責任や対応策が焦点となった。
物価情勢の判断と利上げの影響-民主党の主張
ブラウン委員長やメネンデス議員、フェッターマン議員など民主党議員の多くは、インフレ率が徐々に減速している以上、高水準の政策金利が雇用に与える影響を懸念すべきとの主張を展開した。
加えて、こうした雇用面への影響は経済的弱者に集中しやすい点や、政策効果の時間的ラグを考えると金融引締めの影響はこれから本格化すると指摘した上で、デュアルマンデートの中でも、最大雇用の達成に焦点を移していくべきと指摘した。
これに対しパウエル議長は、インフレ圧力の抑制には総需要と総供給との不均衡の是正が必要であり、その過程で雇用に一定の影響が生ずることは避けがたい点を認めた。一方で、FOMCは既往の利上げの効果を見極めるため、既に利上げペースを減速していると説明した。
さらに、現在の失業率は歴史的にみて低水準であり、直近のSEPでも今後の失業率の上昇は緩やかに止まるとの見方が強い点を指摘した。加えて、長い目で見れば、物価安定の維持が持続的な雇用拡大の前提条件であるとの考えを確認した。
なお、パウエル議長は先日のFOMC後の記者会見で、労働需給の不均衡が緩和する兆しとして労働参加率の回復に注目していると説明したが、ヴァンホーレン議員は移民流入の回復が寄与している可能性を質し、パウエル議長もそうした可能性を認めた。
また、フェッターマン議員はコロナ禍の下で企業が価格を引き上げたことを問題視したが、パウエル議長は供給制約に伴うコスト上昇を反映した動きであると反論した。
物価情勢の判断と利上げの影響-共和党の主張
一方、スコット議員やケネディ議員など共和党議員の多くは、バイデン政権による拡張的な財政政策が高インフレの根本的原因であるとの従来の主張を繰り返した。
加えて、実質賃金の伸びも最近までマイナスであったとして、労働市場の強さが人々のwelfareの改善に寄与していないとの批判を展開した。この点では、FRBSFのエコノミストが賃金はインフレの主因ではないとの分析を提示した点も引用された。
また、ケネディ議員は自ら主張する歳出の10%削減が、インフレ圧力の緩和に有効との主張を展開した。
これに対しパウエル議長は、財政支出の拡大が必然的にインフレを招くとは言えないが、deficit fundingであればインフレ圧力を伴う蓋然性が高いと説明した。
また、今回の高インフレは初期段階では供給制約の深刻化が主因であり、財政運営には直接的な影響を受けなかったと指摘しつつも、その後はPhilips Curveにスティープ化の兆しがみられるなど、総需要の動きがインフレ圧力との関係を強めていると説明した。
なお、財政の問題については、民主党のスミス議員がバイデン政権の下で非裁量的歳出はむしろ減少していると反論し、財政赤字の拡大も共和党政権の下で実施された一連の減税による影響が大きいとの見方を示した。
一連の銀行破綻の原因や影響
共和党議員の多くは、一連の銀行破綻が銀行システムに共通する構造的は問題ではなく、個別の問題に起因したとの主張を展開した。
つまり、スコット議員やヴァンス議員は、SVBが長期債を大量に保有していた結果、金利上昇に伴う評価損が同行への信認の喪失を招いたと主張したほか、ティルズ議員もより幅広い意味でリスク管理に問題があったとの見方を示した。パウエル議長もこうした見方に概ね同意した。
一方、民主党議員からは、一連の銀行破綻が経済に及ぼす影響が取り上げられ、例えば、ヴァンホーレン議員は利上げに伴う金融環境のタイト化が一層深刻化するとの懸念を示した。
パウエル議長も、銀行破綻が生じた場合には結果的に銀行貸出の収縮を招きやすいことが実証分析の結果として示されていると説明した一方、時間的なラグには不確実性が高いとの見方も付言し、利上げペースの減速はこの点で合理性を持つとの考えを示唆した。
FRBの責任や対応策
一連の銀行破綻に対するFRBの責任については、両党とも概ね一致した意見を示し、監督の見直しが必要との考えが共有された。パウエル議長も、この点を認めた上で、FRBSF固有の問題でなく、FRB全体の問題として理解すべきとの考えを表明した。
これに対し、自己資本比率規制の強化案がFRB内で検討されている点には、前日の下院(金融サービス委員会)での議会証言と同じく、共和党議員が批判を展開した。
スコット議員やデインズ議員は、銀行の自己資本比率は既に十分高いと指摘し、規制比率の更なる引上げが貸出の抑制を招くとの懸念を示したほか、ヴァンス議員も、リスクウエイトの低い国債の保有のインセンティブを増す結果、むしろ金利リスクの増加を招く恐れを指摘した。
これに対しパウエル議長は、銀行が十分な自己資本を有することの有用さは、今回の問題がシステミックリスクにつながらなかった点からも証明されているとし、米国でもバーゼルIIIの実施は必要であるとの考えを確認した。
その上で、今回の対象はGSIBsであり、中堅・中小銀行には影響がない点を強調したほか、 現時点でFRB内部の案に過ぎず、理事会で決定されたものでないと説明した。この間、前日のFRB理事の指名公聴会でクック氏が規制案の内容を知らないと説明した点についても、今後に適切なブリーフィングを行うと釈明した。
なお、ハガティ議員は、銀行破綻の際の対応としてFDICによるreceivershipは望ましくないと指摘し、合併による救済が競争政策の観点から制約されているとの懸念を示した。これに対しては、 パウエル議長も一定の理解を示した。
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