6月FOMCのMinutes-key factor for policy outlook
はじめに
FRBは6月FOMCで政策金利の現状維持を決定したが、メンバーの間ではインフレ率の減速ペースが想定より遅いことへの懸念が共有され、高インフレの継続に伴うインフレ期待の不安定化を防ぐために、年内の追加利上げが必要との合意が形成された。
経済情勢の判断
FOMCメンバーは、米国経済が緩やかな拡大を続けていると評価した。なお、数名(several)のメンバーは、足元でGDPとGDIが乖離している点を取り上げ、総労働時間の伸びが鈍化している点などを踏まえると、経済のモメンタムはGDP成長率が示唆するほど強くない可能性を示唆した。
このうち個人消費は想定より強いとし、数名(several)のメンバーは、住宅価格や株価が高値圏にあるため家計資産が高水準である点を指摘した。また、数名(some)のメンバーは、年初来の住宅販売や新規着工等の改善を踏まえ、高金利による住宅部門への影響が底打ちした可能性を指摘した。
もっとも、他の数名(a few)のメンバーは、家計全体としては超過貯蓄の大部分を維持しているが、一部の家計が高インフレによる予算制約に直面していると指摘した。
企業活動については、ヒアリング先の見方が、経済環境の軟化と想定以上の底堅さに分かれたと指摘したほか、多く(many)のメンバーは、銀行部門の動向が企業の資金調達に与える影響は現時点では少ない(modest)と評価した。
この間、FOMCメンバーは、労働市場が雇用の増加や低位な失業率からみて極めて強いと評価した。もっとも、prime-ageの労働参加率の改善や未充足求人と離職者の双方の減少、平均労働時間の減少等からみて、労働需給には改善の兆しがある点も認識した。
また、地区連銀総裁からは、低所得層が住居費の高騰によって就職が困難になっている可能性や、転職数の減少やlayoffの発生などからみて雇用の困難さが改善している可能性も指摘された。さらに、数名(some)のメンバーは、雇用統計の家計サーベイや雇用と賃金に関する四半期センサス等の結果を踏まえると、雇用統計が示すほど雇用の伸びが強くない可能性も指摘した。
その上で、FOMCメンバーは、既往の金融引締めによる累積的な効果や銀行部門の問題による追加的な引締め効果には、大きな不確実性があるとの認識を幅広く(generally)共有し、これらによる影響を経済の下方リスクとして指摘した。
物価情勢の判断
FOMCメンバーは、インフレ率が依然として許容しえないほど高く、インフレ率の減速ペースが想定より遅いとの評価で一致した。
このうち、コア財のインフレ率については、供給制約の改善に関わらず、足元で減速ペースが鈍化している点に懸念を示した。また、数名(some)のメンバーが住居費の減速に期待を示したのに対し、他の数名(a few)のメンバーは、住宅在庫が歴史的低水準になっている点や、新規契約分のrentの下落が想定以上に鈍い点を踏まえて、住居費の上方リスクを指摘した。
コアサービスのインフレ率についても、数名(some)のメンバーは足元で減速の兆しが見られない点に懸念を示した。もっとも、数名(several)のメンバーは、家計や企業に対するサーベイ結果を踏まえ、長期インフレ期待が十分に安定していると評価した。
この間、FOMCメンバーは、賃金上昇率に減速の兆しがみられるとの認識を示した一方、生産性上昇率を考慮すると、インフレ目標と整合的な上昇率を上回っている点も確認した。その上で、労働需給の改善が賃金上昇圧力を低下させるとの期待を示した。
物価の先行きに関しては、数名(some)のメンバーが、家計消費が想定以上に強い点や労働市場のタイトさを踏まえ、長期インフレ期待が不安定化する可能性に言及した。一方で、他の数名(several)のメンバーは、金融環境のタイト化が遅効的に生ずる結果、経済活動の減速によって物価上昇圧力が低下する可能性を指摘した。
金融環境の評価
FOMCメンバーは、3月初以来、銀行部門の状況が顕著に改善したとの理解を幅広く(generally)共有した。
その上で、本年前半の信用状況のタイト化が経済活動を下押しするとの理解も幅広く(generally)共有したが、その程度は不透明と評価した。さらに、数名(several)のメンバーは、こうした影響が金融引締めを顕著に強めた訳ではないと評価したのに対し、他の数名(some)のメンバーは、信用条件のタイト化による経済活動への影響を自信をもって評価するのは時期尚早と指摘し、今後も動向を注視すべきと指摘した。
金融政策の判断
これらの議論を踏またえ、FOMCメンバーのほとんど全員(almost all)は、政策金利の現状維持が適当と判断した。そのうちほとんど(most)のメンバーは、政策目標の達成に向けた経済の動きを評価する機会を与える点を意義として指摘した。
これに対し、数名(some)のメンバーは、25bpの利上げが適当との考え、またはそうした提案に同意した可能性を示唆した。こうしたメンバーは、労働市場が強く、経済活動が想定以上に底堅く、インフレ率の2%目標への収斂に向けた兆候がほとんど見られない点を理由として挙げた。
FOMCは、結果的には全会一致で政策金利の据え置きを決定したが、すべて(all)のメンバーは金融引締めスタンスを維持すべきとの考えで一致した。また、ほとんどすべて(almost all)のメンバーは、2023年中の追加利上げが適当との考えを示した。
その上で、ほとんど(most)のメンバーは、経済や物価の不透明性が高いだけに、政策運営においては今後のデータが重要との認識を示し、今後の毎回のFOMCでの政策決定は、新たなデータの全体像やそれらの経済見通しへの意味合い、リスクのバランスに依存するとの方針に合意した。
最後に、リスクマネジメントの観点では、ほとんど全員(almost all)のメンバーが、高インフレの継続によるインフレ期待の不安定化のリスクが政策運営のカギであるとの理解を示した。一方、銀行部門の動向による経済活動への影響や商業不動産の弱さに伴うリスクへの言及もみられた。
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