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ECBの6月理事会のAccounts-forceful transmission

2023/07/14

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はじめに

ECBは6月理事会で25bpの利上げを決定したが、メンバーはインフレの減速ペースが鈍いことへの懸念を引続き共有したと同時に、景気減速見通しへの言及も目立つようになった。

経済情勢の判断

理事会メンバーは、ユーロ圏経済が足元で減速しているとのレーン理事の評価に合意した。なかでも、製造業の活動が外需の減速とユーロ高によって弱い点に懸念を示し、前者に関して中国経済の減速が経済成長率見通しに反映していない可能性を示唆した。

また、当面は低成長が続くと評価したほか、高貯蓄や供給制約の緩和によって遅延していた金融引締めの効果がこれから顕在化する可能性や、信用制約の影響が見通しに反映されていない可能性を指摘した。これに対し、高水準の設備稼働率や気候変動対応が設備投資の増加に繋がる等のプラス要因も指摘された。

この間、労働市場が経済を支えているとの認識で一致し、歴史的に低位な失業率や労働時間の増加等を指摘したほか、雇用の増加と賃金上昇圧力の高さが、消費の底堅さを通じて景気後退を防いでいるとの理解を示した。もっとも、完全雇用と景気減速は両立可能でないとの指摘もみられ、離職者の増加や生産性上昇の低迷は最終的に潜在成長率の低下に繋がるとの見方も示された。

これらを踏まえ、理事会メンバーは先行きの不透明性が高いとの認識を維持し、足元の経済指標によれば当面の成長率が執行部見通しを下回る可能性が高い点を確認した。その上で、下方要因として、地政学的要因、想定以上の金融引締め効果、金融市場の不安定化を挙げた一方、上方要因として、家計や企業のマインド改善を挙げた。

物価情勢の判断

理事会メンバーは、足元でインフレ率が減速しているが、物価情勢の転換点と判断するには不十分とのLane理事の評価に幅広く(broadly)合意した。特に、コアインフレ率が想定以上に底堅い点に懸念を示した一方、品目による物価上昇圧力のばらつきが生じ、賃金や企業収益といった国内要因が重要との理解が示された。

もっとも、コアインフレ率は、今回局面では先行指標としての意味は小さいとして、基調的インフレに関するより幅広い指標に注目すべきとの指摘もみられたほか、2024年にかけての物価見通しではUnit Labor Costの動きが重要との考えが示された。

インフレの2%目標への収斂に関しては、足元のインフレ率の減速を歓迎した一方、達成までの間にインフレ期待が上昇するリスクが指摘された。さらに、2025年に関する執行部見通しは、労働者が2019年以降の生活費上昇を部分的にしか回復しえない一方、企業も賃金上昇をマージン削減で吸収することが想定されている点で、実現は困難(narrow path)との意見があった。

労働市場については、企業の最大の課題が熟練労働者の確保にある点や、契約賃金と実際の賃金の上昇率の差が残存している点で、賃金上昇圧力が維持されるとの見方を示した。

一方で、労働参加と短期雇用の増加は賃金上昇を抑制するとの見方や、足元の賃金上昇は執行部見通しに織り込まれているため、上方リスクではないとの見方も示された。しかし、賃金交渉の時間的ラグや長期契約の多さを踏まえると、賃金上昇圧力が残存する可能性や、一部の国で労働組合が生活費上昇を上回る賃金上昇を要求しているといった反論も示された。

実質賃金に関しては、景気の鈍化等を考慮すると2025年までの間に既往の生活費上昇を回復することは困難との見方を示した一方、賃金と物価のスパイラルのリスクを過小評価すべきでないとの指摘もあった。

その上で、二次的効果は企業収益によって影響され、企業がコロナ前のような価格設定行動に回帰するかどうか不透明との見方を示した。また、インフレ期待は総じて2%近傍にあるが、市場ベースの期待はリスクプレミアムの影響で2%を上回っている点を確認した。

これらを踏まえ、理事会メンバーは先行きには上下双方のリスクがあるとの認識を示し、上方要因として、食品やエネルギーの価格動向、インフレ期待の上昇、賃金と企業収益の想定以上の上昇、賃金交渉の展開、財政政策の運営等を挙げた。下方要因としては、金融引締めによる想定以上の需要減少、エネルギーや食品価格の軟化による波及効果の迅速化を挙げた。

金融環境の評価

理事会メンバーは、金融引締めによる信用条件や通貨供給への影響は大きいとのレーン理事の評価に概ね(generally)合意した。なかでも、銀行貸出の減速とECBのバランスシート縮小が通貨供給を抑制し、金利上昇と与信姿勢の慎重化が信用条件を一層タイト化したと評価した。

これに対し、迅速な利上げに関わらず信用条件は底堅いとの評価や、銀行貸出の減速は主として需要減少によるとの反論も示された。さらに、貸出需要の減少は既往のエネルギー価格上昇に伴う短期運転資金需要の剥落による面が大きいとの見方も示された。加えて、ユーロ圏の銀行システムが3月の金融危機を克服し、収益性を維持している点も確認された。

一方で、借入コストの上昇が家計や企業に影響しているとの見方も示され、そうした効果が以前の利上げより迅速に波及している可能性や、TLTRO IIIの多額の償還によって効果が強化されている可能性も指摘された。加えて、迅速な利上げ自体が企業の信用リスクを高めている恐れも指摘された。

金融政策の運営

政策反応関数の3条件のうち、①インフレ見通しは高インフレの長期化を確認したほか、2%目標に向けた収斂には困難が伴うとの見方を示した。②インフレ動向については、需要側が重要になるとともに、インフレ期待は安定しているが高水準にある点を確認した。③金融政策の波及効果については、政策金利が引締め領域にあるが、十分かどうかは不透明と評価した。

これらを踏まえ、理事会メンバーは更なる利上げが必要である点に合意し、25bpの利上げによって政策効果を見極めることで大多数が合意した(a very broad consensus)。もっとも、一部には高インフレの継続を理由に50bp利上げを支持する意見も散見された。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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