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FRBのパウエル議長の記者会見-patient and resolute

2023/07/27

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はじめに

FRBは今回(7月)のFOMCで25bpの利上げを決定した。パウエル議長は、米国経済が6月時点の見通しに沿って推移しているとの見方を示した一方、次回(9月)会合について、政策金利を再び引上げるか据え置くかは今後のデータ次第と説明した。

経済情勢の判断

今回の声明文は、 足元の経済活動の評価を modest からmoderateへとやや上方修正したほか、パウエル議長も、米国経済が6月時点の見通しに沿って推移しているとの見方を示した。同時に、住宅投資や設備投資の停滞に加えて、消費支出の鈍化も指摘し、これらが想定の範囲内であることを示唆した。

この間、パウエル議長は労働市場が引続き強い点を確認したほか、離職者の減少やprime-ageの労働参加率の回復に言及しつつ、労働需給の不均衡に改善の兆しがみられる点を歓迎した。また、質疑の中では、個人的意見と前置きしたうえで、労働市場への顕著なストレスを伴わずにインフレ目標を達成することは可能との考えを示し、ソフトランディングの蓋然性を支持した。

物価情勢の判断

パウエル議長は、PCEとCPIの上昇率がともに減速している点を歓迎した一方、物価目標の達成にはなお距離がある点を確認した。一方で、家計や、企業、市場のインフレ期待は安定を維持しているとの理解を維持した。

質疑でパウエル議長は、インフレ率減速の理由について、エネルギーや食品の輸入価格の下落、住宅価格の調整に伴う家賃への上昇圧力の低下を指摘した一方、コアサービス価格は賃金上昇の底堅さを背景に緩やかな減速に止まるとの理解を確認した。

また、景気が安定する下で物価が減速する現状を歓迎したほか、総合インフレ率の減速は家計の実質購買力を回復する上で有用とした。あわせて、2%目標の達成に向けて現在の物価の減速ペースは十分でないとも指摘し、コアインフレ率の明確で持続的な減速が重要との考えを説明した。

賃金上昇についても、パウエル議長は、実質面での改善が景気の下支えになる点を認めた上で、名目賃金の上昇はインフレ率と並行して減速すべきとの理解を示した。その上で、FRBは賃金上昇率を政策目標としている訳でなく、物価安定を通じて家計の経済生活の安定を目指す考えを強調した。

金融環境の評価

パウエル議長は、金融引締めによって住宅投資や設備投資など金利感応度の高い領域に効果が生じており、金融環境のタイト化が家計や企業に影響を及ぼしているとの見方を説明した。

質疑では、FRBの銀行貸出サーベイで銀行が与信姿勢を慎重化している点に懸念が示されたが、パウエル議長は、金融引締めによって当然生ずる政策効果との理解を示したほか、貸出需要も低下している点を指摘した。また、足元で株価の上昇とドル相場の下落が生ずるなど、金融環境はむしろ緩和しているとの懸念には、全体として金融環境はタイト化していると評価した。

その上でパウエル議長は、金融引締めの効果がフルに発揮されるには時間を要するとの理解を維持したほか、実質政策金利の観点で十分に引締め的だが、金融環境のタイト化から実体経済の下押しに長く不透明なラグが残るとし、波及効果の実現に粘り強く注力すること(patient and resolute)の重要性を強調した。

このほか、一部の記者は、直近の地域金融機関の買収事例をもとに、一連の銀行破綻の後遺症を取り上げた。これに対しパウエル議長は、銀行システム全体としては預金や貸出の動きは落ち着いており、資産や収益、自己資本も良好であるとして、現時点で懸念すべき状況にはないとの理解を確認した。

金融政策の運営

今回(7月)のFOMCは、物価目標の長期的達成を目指して25bpの利上げを決定した。また、パウエル議長は、今回の政策判断に関してFOMC内での異論が少なかったことも認めた。

声明文は、今後にどの程度の追加利上げが適切かを判断する上では、既往の利上げによる累積的な効果、金融引締めの景気や物価への波及の時間的ラグ、金融経済情勢を考慮する方針を確認した。また、パウエル議長は、データ依存による政策運営を行う上では、経済指標の全体像、それらが見通しに与える意味合い、リスクのバランスを重視する姿勢も確認した。

質疑では、多くの記者が前回(6月)会合で政策金利を据え置いた後、今回(7月)会合で利上げを決定した理由を質した。

パウエル議長は、政策金利の最高到達点に近付いている以上、利上げペースを減速させることは自然との考えを確認したほか、経済や物価が6月時点の見通しに沿って推移している以上、同じく6月時点でFOMCメンバーの多数が想定した通り、本年中に今回を含めて2回の利上げを遂行することは合理的との見方を示した。

あわせて、パウエル議長は、足元の物価指標だけでは2回の利上げで十分かどうかを判断できないとも付言し、まずは次回(9月)会合の政策判断に集中する考えを強調した。 その上で、別の複数の記者が次回(9月)会合の利上げの見通しを質したのに対し、パウエル議長は、それまでの間に雇用統計や物価統計が2日ずつ公表される事実に言及しつつ、政策金利を再度引き上げるか現状のまま維持するかはデータ次第との考えを強調した。

利下げの展望

筆者にはやや想定外であったが、今回(7月)の質疑では、数名の記者が利下げのタイミングや条件を質した。

パウエル議長は、インフレ率が実際に2%に収斂するまで金融引締めを続ける必要はなく、目標達成に自信が持てれば、政策金利を中立方向に調整することは可能との考えを説明した。また、 6月時点のdot chartでFOMCメンバーの多くが来年中の利下げ開始を予想している点にも言及した。

その上で、パウエル議長は、物価目標の達成には、インフレ率の水準とその減速ペースの双方に注視する必要があると指摘し、利下げに関して機械的な条件を設定することは困難との理解を示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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