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7月FOMCのMinutes-Two sided risks

2023/08/17

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はじめに

25bpの利上げを決定した7月のFOMCでは、労働需給の緩和や物価上昇圧力の低下を歓迎した。もっとも、物価目標の達成には上下双方のリスクが残るとし、今後の政策金利の運営では双方のリスクのバランスが重要との考えを共有した。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは米国経済が底堅く推移し、顕著なモメンタム(considerable momentum)を発揮したと評価した。

なかでも家計は、バランスシートの強さ、雇用と所得の力強い増加、低位な失業率、マインドの改善等により、顕著に底堅い消費を行ったと指摘した。

もっとも今後は、金融環境のタイト化に加え、貯蓄の減少、労働市場の軟化、物価上昇への感応度の上昇等によって、消費は鈍化するとの見方を維持した。

この間、労働市場にはタイトながら需給に緩和の兆しがあるとして、未充足求人や離職者の減少、労働時間の増加ペースの鈍化、賃金上昇率の減速といった需要側の要因と、prime-ageの労働参加率の上昇といった供給側の要因の双方を挙げた。

もっとも、足元の雇用者の増加ペースや賃金上昇率は、物価目標の達成とは整合的でない点も確認した。

企業については、供給制約の緩和や投入コストの低下、労働確保の改善等によって、コスト構造が改善したとの理解を示した。

その上で、今後については、在庫の低位さや急激なリセッションへの懸念の後退といった好材料と、商業不動産市場の脆弱性や製造業の弱さといった悪材料の双方を指摘した。

これらを踏まえて、今後の経済活動には、既往の金融引締めの効果による不確実性が高いとの見方が幅広く(generally)共有され、銀行与信のタイト化等の要因を指摘した。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、物価上昇圧力が低下している兆しとして、コア財価格の軟化、企業による値上げ幅の縮小、家賃上昇率の鈍化、短期インフレ期待の低下などを指摘した。

また、様々な(various)のメンバーは、中長期インフレ期待の安定や、金融引き締めの効果を評価した。

もっとも、FOMCメンバーは、足元のインフレ率が物価目標に比べて顕著に高い点も確認し、中期的な物価目標の達成に自信を持つのに十分な程に総需要と総供給のバランスが改善したと確認するには、さらに多くのデータが必要との考えを確認した。

今後の物価に関しては、主として上方リスクを議論した。

つまり、足元での供給制約の改善や商品価格の望ましいトレンドが継続しない可能性や、総需要が物価安定に十分な程度に減速しない可能性を指摘し、それらが高インフレの継続やインフレ期待の不安定化を招くリスクを指摘した。

金融安定の評価

FOMCメンバーは、銀行システムが頑健であり、(一連の銀行破綻に伴う)ストレスも足元で沈静化したとの評価を確認した。

もっとも、様々な(various)メンバーは、一部の銀行に影響しうるリスク要因を議論した。

具体的には、金利上昇に伴う保有資産の評価損、預金保険対象外の預金への顕著な依存、資金調達コストの上昇等を指摘した。また、商業不動産の評価が顕著に調整された場合、そうした資産へのエクスポージャーの大きい銀行や保険会社等への影響が生じうる点も付言した。

政策金利の運営

今回(7月)のFOMCは、既往の金融引締めが経済活動や物価に影響を与えつつあるが、その程度には不確実性があり、かつ足元のインフレ率は物価目標より顕著に高い点を踏まえて、 25bpの利上げを決定した。

具体的には、ほとんどどすべて(almost all)のメンバーが25bpの利上げを支持し、政策金利をより引締め的にすることで、総需要と総供給のバランスを改善し、物価安定の回復を支援する考えを示した。

これに対し、2名(a couple of)のメンバーは、政策金利の据え置きを主張、ないしそうした提案に合意した可能性を示唆し、現状維持でも、物価目標の達成に前進しうるとの考えを示した。これらの議論を踏まえ、最終的には25bpの利上げが全会一致で決定された。

今後については、中期的な物価目標の達成のために、金融政策を十分に引き締め的とすることが不可欠(critical)との理解を共有した。

その上で、経済見通しは極めて不透明であるとの認識も共有し、今後の政策決定は、経済データの全体像(totality)、それらが経済や物価の見通しとリスクバランスに及ぼす意味合いに依存するとの方針を確認した。

さらに、FOMCメンバーは、今後数か月のデータによって、物価上昇圧力の減速の継続や、財・サービスと労働の双方での需給の改善の動向を確認することに期待を示した。また、こうしたデータは、中期的に物価目標を達成する上で、どの程度の追加引き締めが必要となるかを決定する上で有用との見方を示した。

最後にリスクマネジメントの観点では、数名(some)のメンバーが、足元では経済活動が底堅く、労働市場が強さを維持しても、今後には下方リスクがあるとの考えを示し、その理由として、昨年来の金融環境のタイト化がマクロ的に想定外の影響をもたらす可能性を指摘した。

これに対し、多く(a number of)のメンバーは、金融引き締めの維持の下でも、FRBの政策目標の達成には上下双方のリスクが存在するとの見方を示し、今後の政策運営では引き締め過ぎのリスクと不十分な引き締めのリスクとをバランスさせることが重要との見方を確認した。

なお、FOMCメンバーは、保有資産の削減を継続することも全会一致で決定したが、多く(a number of)のメンバーは、FRBが政策金利の引き下げに転じた後も、保有資産の削減を停止する必要はないとの考えを示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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