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FRBのパウエル議長の記者会見-Undesirable implication

2023/09/21

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はじめに

FRBは今回(9月)のFOMCで政策金利の現状維持を決めた。もっとも、新たな経済見通しでは、個人消費の強さを主因に今年の経済成長率見通しを大きく引き上げたほか、dot chartでは年内の25bpの追加利上げを見込む向きが大勢となった。

経済情勢の評価

パウエル議長は、住宅投資や設備投資は減速しているものの、個人消費を主因に経済活動が想定以上に強いと評価した。

実際、今回のSEPによる新たな実質GDP成長率の見通しは、 2023~25年にかけて+2.1%→+1.5%→+1.8%となり、前回(6月)に比べて、2023~24年が各々1.1pと0.4ppの上方修正となった。 FOMCメンバーは「長期」の経済成長率の推計値を1.8%に据え置いたので、今年は需給ギャップがタイト化することを意味する。

一方、パウエル議長は、雇用者の増加ペースの減速や、prime ageの労働参加率の回復、未充足求人の減少等を踏まえて、労働需給の緩和が進んでいると評価し、こうした傾向が継続するとの期待を表明した。

質疑では、複数の記者がソフトランディングの蓋然性を質したのに対し、パウエル議長は重要な目標(primary objective)であると説明した一方、実現に向けた不確実性の高さも指摘した。

実際、別の複数の記者が、政府機関の閉鎖やStudent Loanの返済猶予の終了、自動車産業のストライキ等の要素を挙げた。パウエル議長もそれらの不透明性に同意するとともに、政策運営の点では影響の持続性如何が重要との考えを示した。

その上で、一部の記者は、インフレ目標の達成には消費の顕著な減速が必要ではないかと質したのに対し、パウエル議長は顕著な利上げの下でも消費が堅調であること自体は望ましいと指摘し、明確な回答を避けた。

物価情勢の評価

パウエル議長は、インフレ率が減速している点を歓迎しつつ、なお相当に高く、目標達成への道は長いと指摘した。この間、家計や企業、市場のインフレ期待は安定していると評価した。

今回のSEPによる新たなPCEインフレ率の見通しは、2023~25年にかけて+3.3%→+2.5%→+2.2%となり、前回(6月)に比べて、 2023年と25年が各々0.1pp上方修正されたに止まった。

また、PCEコアインフレ率の見通しは、 2023~25年にかけて+3.7%→+2.6%→+2.3%となり、前回(6月)に比べて、2023年は0.2ppの下方修正、2025年が0.1ppの上方修正に止まった。

つまり、物価見通しの修正は全体として小幅に止まり、質疑でもインフレ自体を取り上げる記者の数は比較的少なかった。

そうした中で、複数の記者が足元での原油価格上昇の意味合いを取り上げた。これに対し、パウエル議長は、一般的にはエネルギー価格は短期的な変動も大きくコアインフレ率から除外されているが、ガソリン価格を通じて家計のインフレ期待に影響するため注視が必要との考えを示した。

また、別の記者は金利上昇による住宅供給の制約が、住宅価格の調整とそれに伴うレントの抑制を妨げているとの懸念を示した。 パウエル議長は、住宅供給には構造的な制約があると指摘しつつ、住宅価格の調整のレントへの波及には時間的なラグがあるとの理解を示した。

金融政策の運営

パウエル議長は、既往の利上げによって家計や企業が金融環境のタイト化に直面するなど、政策金利は引締め的との評価を確認しつつ、政策金利を据え置いたことを説明した。

その上で、インフレ目標を達成するのに十分に引締め的かどうかをリアルタイムに判断することは難しいとの考えも示し、インフレの持続的な減速を確認できるまで金融引締めを持続することの必要性を強調した。

また、今後の政策運営は、労働市場の動向、インフレ圧力とインフレ期待、金融情勢や国際情勢を含む情報が経済見通しに持つ意味合いを考慮し、会合ごとに判断する方針を確認した。

今回改訂されたdot chartによれば、FOMCメンバーの大勢(19名中12名)が本年中の25bp利上げを予想している。もっとも、2024年末の政策金利については、medianは5.1%だが、中央レンジでみても4.6~5.4%と依然として幅広く分布している。

質疑では、多くの記者が追加利上げの妥当性や蓋然性を取り上げた。パウエル議長は、FOMC内でも意見が分かれている点を求めた上で、十分に引締め的かどうかは個人消費を含む今後の経済活動にも依存するだけに、今後の情報を見極めるべきとの考えを示した。

また、一部の記者は、FOMCとして経済見通しを大きく引き上げたのに政策金利を据え置いたのは整合的でないと批判した。

これに対し、パウエル議長は、物価見通しは引き上げておらず、その点で合理的との考えを示唆した。加えて、既往の利上げによって政策金利が十分に引締め的な水準に近付いているだけに、今後の対応は慎重にすべきとの考えも確認した。

別の多くの記者は、政策金利の高止まりをどの程度維持すべきかを質した。この点に関しては、利下げのタイミングだけでなく、インフレの減速に伴う実質政策金利の上昇との関係を質す向きもみられた。

パウエル議長は、dot chartには2024年中の利下げ予想が含まれている点を確認しつつも、そのタイミングは不透明であるほか、示唆も含めて言及すべきでないとの考えを強調した。

その上で、景気が想定外に強い理由についても、家計や企業のバランスシートが健全、貯蓄率に低下余地が存在、中立政策金利が上昇といった様々な仮説があって不透明であるだけに、政策金利が十分に引締め的かどうかは、そこに至ってみて初めてわかるとの見方を示した。また、実質金利は判断材料の一つだが、政策の波及効果のラグなどの要素も考慮すべきとした。

その一方で、パウエル議長も、インフレ圧力の抑制に向けては、労働市場を含む供給制約の改善が進む下で、既往の利上げによって需要の抑制も生じ始めているとして、米国経済が物価目標の達成に向けて進んでいるとの評価を確認した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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