9月FOMCのMinutes-Two sided risks
はじめに
政策金利の据え置きを決定した9月のFOMCでは、メンバーは足元の経済活動の強さに拘わらず、今後の下方リスクを共有した。もっとも、物価は上方リスクが強いとの認識も共有し、高水準の政策金利の維持にはリスクマネジメントが重要との理解を示した。
経済情勢の判断
FOMCメンバーは米国経済が予想以上に底堅く拡大している点を認めつつ、今後の減速を予想した。このうち家計は、労働市場バランスシートの強さにより、力強い消費支出を行ったと評価した。
もっとも、多く(many)のメンバーは、一部の家計が高インフレと貯蓄の減少に伴って借入れに依存し始めていると指摘したほか、数名(several)は、金融環境のタイト化、財政支援の縮小、学生ローンの返済猶予の終了も消費を下押しするとの見方を示した。この間、2名(a couple of)のメンバーは、金利上昇に拘わらず住宅需要が底堅いとの見方を示した。
この間、労働市場はタイトながら需給は改善を続けていると評価した。このうち需要は、ほとんど(most)のメンバーが強いと評価し、未充足求人の減少、離職率の低下、平均労働時間の減少等を挙げた。同時に、多く(many)のメンバーは労働参加率の上昇を指摘し、なかでも数名(several)は、女性の労働参加率の顕著な上昇を指摘した。もっとも、こうしたメンバーもchildcareの利用可能性がこうした傾向の継続を阻害しうるとの懸念も示した。
その上で、数名(some)は、雇用の増加が高水準ながら足元で減速したとの理解を示し、現在のペースは失業率を安定させるのに十分との見方を示した。
一方、企業活動は、総じて力強いが、軟化の兆候もみられると評価した。多く(many)のメンバーは、雇用の容易化、供給制約の改善、コスト上昇圧力の緩和といった好条件を挙げた。一方、数名(a few)は、企業によるコスト上昇の価格転嫁が困難化する兆しがあるとしたほか、数名(several)は金融環境のタイト化による影響を指摘した。
これらの議論を踏まえて、FOMCメンバーは、経済見通しの不透明性が高いとの見方を共有し、下方リスクとして、金融環境の想定以上のタイト化、中国経済の減速による世界経済への影響、政府機関の閉鎖に伴う一時的な経済活動の下押し等を挙げた。
物価情勢の判断
FOMCメンバーは、過去数か月にインフレ率が総じて減速した点を確認しつつ、潜在成長率以下の経済活動と労働市場の幾分かの軟化を通じて、2%目標の達成に向けて一段の前進が必要との見方を共有した。
このうち、財価格の上昇率は供給制約の改善によって減速し、住居費の上昇率も減速したと指摘したほか、エネルギー価格の最近の上昇に拘わらず、前年比上昇率の低下がインフレ率全体への寄与を縮小していると指摘した。もっとも、住居費を除くコアサービスの価格上昇率の減速は依然として不十分との理解を共有した。なお、中長期のインフレ期待は安定し、短期のインフレ期待は減速したとの見方を示した。
この間、賃金については、ほとんど(most)のメンバーが上昇率の減速を確認したほか、数名(a few)は転職者による賃金プレミアムも減少したとの見方を示した。もっとも、現在の賃金上昇率は、 2%のインフレ目標の達成と整合的なペースを依然として上回るとの理解も確認した。
これらの議論を踏まえて、FOMCメンバーは物価に関する上方リスクとして、自動車産業の労働者によるストライキを新たな要因として指摘したほか、大多数(a vast majority)は、足元のエネルギー価格の上昇が、高インフレを想定以上に持続させることへの懸念を表明した。
政策金利の運営
9月のFOMCは、経済や物価に関する上記の評価に加えて、既往の金融引き締めの累積的効果とその時間的なラグを考慮した上で、政策金利の据え置きを全会一致で決定した。また、政策金利の据え置きによって、2%のインフレ目標に向けた前進度合いをより良く評価しうるとの理解を共有した。
もっとも、議事要旨にはほとんどすべて(almost all)のメンバーが同意したとの表現があり、議論の途上では利上げの継続を主張する意見があったことも窺われる。ただし、今後の政策運営に関しては、多数(a majority)が1回の追加利上げが適切との意見を示した一方、数名(some)は追加利上げは不要との見方を示した。
その上で、すべて(all)のFOMCメンバーは、FOMCは慎重な立場で政策運営を行うべきであり、毎回の会合では、新たな経済指標の全体像、それらが経済見通しに与える意味合い、リスクバランスの各要素に基づいて判断を下す方針に合意した。
同様にすべて(all)のFOMCメンバーは、インフレが目標に向かって十分に減速しているとの確信が持てるまで、しばらくの間は金融政策を引締め的に維持すべきとの方針にも合意した。
この点に関しては、数名(several)が、金融政策が十分に引締め的かどうかは、インフレ率の目標に向けた収斂ペースに影響を受けると見方を示した。また、数名(several)は、政策金利がピークの近傍にあるだけに、政策判断や情報発信の焦点は、政策金利をいつまで高水準に維持するかにシフトすべきとの考えを示した。さらに、数名(a few)は金融政策のスタンスを評価する上で実質政策金利を注視すべきとの見方を示した。
その上で、大多数(a vast majority)は、経済の先行きに不透明性が高い点を確認し、追加利上げの必要性を判断する上では、経済データのvolatilityの高さや改訂の可能性、自然利子率の推計の困難さのために、慎重さが支持されるとの見方を示した。
最後に、FOMCメンバーは政策運営におけるリスクマネジメントを議論し、金融政策が引締め領域にあるだけに、政策目標の達成リスクもより二面的になったとの見方を概ね共有した。
もっとも、ほとんど(most)のメンバーは物価の上方リスクを確認し、総需要と総供給の不均衡の想定以上の継続、原油市場からのリスク、食品価格への追加的な上方ショック、住宅市場の強さによる住居費への影響、財価格の下落の限定といった要素を指摘した。一方、多く(many)のメンバーは経済の下方リスクを確認し、金融環境のタイト化の時間的ラグや労組のストライキの影響、世界経済の減速、商業不動産の弱さ等を要素として挙げた。
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