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年明け後の人民銀行の金融政策動向について

2023/02/20

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人民銀行は、今年1月29日、2022年末に期限を迎えた3種類の構造的金融政策ツールの実施期間を延長すると発表した。

具体的には、以下の通りである。

  • 炭素排出量削減を支援するツール(21年11月導入)を24年末まで継続する。一部の地方金融機関や外資系金融機関を炭素排出削減支援ツールの金融機関の対象に加える。
  • 石炭のクリーンで効率的利用を支援する専項(特別)再貸出(21年11月導入、限度枠3000億元)を23年末まで継続する。
  • 交通・物流向け専項再貸出(22年5月導入、1000億元)を23年6月末まで継続する。中小・零細の物流・保管企業を支援対象に含める。

構造的金融政策ツールとは、マクロ経済全体に影響する政策金利操作等とは異なり、特定の分野にターゲットを絞って資金を供給する方法である。人民銀行によれば、同ツールは、金融機関の貸出先を導き、資金を正確に供給し、他の資金も呼び込む作用を持つ。再貸出あるいは資金インセンティブ方式によって金融機関が特定分野・業界への貸出を拡大し、企業の資金調達コストを低下させることを支援するものである(人民銀行2022-8-19)。なお、再貸出とは、人民銀行が商業銀行に低金利(現在1.75%)で資金を供給し、商業銀行がさらに特定分野に資金を貸し出すものである。

上述の継続が決まった3つについて見ると、炭素排出量削減支援ツールでは、商業銀行の貸出元本の60%に対して人民銀行が低金利の資金を提供、石炭のクリーンで効率的利用の再貸出と交通・物流向け再貸出では貸出元本の100%に対して低金利の資金を供給する。

中国では、マクロレベルで金融緩和しても信用力の高い国有大企業や不動産市場に資金が流れやすい傾向がある。このため、以前から農業や中小企業向け等を対象にした構造的金融政策ツールが利用されていたが、特にコロナ禍以降、同ツールはターゲット分野を拡大しながら多用されている。22年には、上述の交通・物流以外にも科学技術革新(4月、2000億元)、金融包摂養老(4月、400億元)、設備更新改造(9月、2000億元以上)に対する専項再貸出が導入されている。なお、22年末時点の同ツール全体の残高は6.4兆元である。

昨年12月の中央経済工作会議は、今年は穏健な金融政策を的確でしっかり行い、金融機関が小・零細企業、技術革新、グリーン発展等の分野への支援を強化するよう導くとした。また、人民銀行は構造的金融政策ツールに関して、重点的にめりはりをつけて利用するとしており、具体的な対象としてグリーン発展、金融包摂、科学技術革新、インフラ建設等、国民経済の重点領域と弱点領域を挙げている。今回の3つの構造的金融政策ツールの実施期間延長は、こうした方針に沿ったものである。

また、足元で、人民銀行は新たな構造的金融政策ツールも考慮中である。具体的には、不動産引き渡し確保、賃貸住宅に関する貸出に対する支援で、不況下で悪循環に陥りつつある不動産業界を安定させる意図が見える。このように、今年も人民銀行によるターゲットを絞った形での重点領域・弱点領域への資金供給が続くと見られる。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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