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中国の信託会社の最近の状況について

2023/08/30

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中国では不動産市場の悪化に伴い、一部の信託商品でデフォルトが生じ話題となっている。ここでは信託商品の近年の動向について整理しておく。

既存リスクの処理

信託商品のデフォルトは近年頻発していた。2020年では310件余り、22年は約200件である(報道による)。信託会社の投融資が回収できなかった分野は、主に不動産、インフラ建設、商工業企業である。なお、信託商品は私募商品であり、資産・所得等が一定の水準を満たす適格投資家向けである(注1)。適格投資家の方が一般の投資家よりもリスク許容度は高いはずである。

こうした中で、21年5月には銀保監会(当時。現国家金融監督管理総局)が、信託会社がAMC(資産管理会社)等の専門機関と協力してリスク資産を処理することを推進する旨の通知を出した。しかし、信託会社に財務的な余裕がないため、不良資産を損切りして売却する等の措置を採ることが難しい点が指摘されていた。

また、一部の信託会社では信託商品で調達した資金をどんぶり勘定で運用する問題(資金プール)が残っており、これもリスク資産の処理を遅らせる一因となっている模様である。最近話題となった中融信託のデフォルトも直接的な原因は、資金プールによる運用と、同信託を傘下に持つ中植集団への資金プールからの資金流用と報道されている。

資金プールは、シャドーバンキング抑制と資産管理業の正常化を目指すいわゆる資産管理の新規定(18年。金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見、以下指導意見)で禁止された。当然、これまでも取り締まりが進んでいたはずであるが、同意見実施の過渡期(21年末まで)も経過しが現在、いまだに一部の金融機関で資金プールが残っていることが明らかになった。

23年5月には、経営難から20年に当局の公的管理下に置かれた9金融機関のうちの一つの新華信託(21年7月以降は交銀国際信託の管理下)が破産を宣告された。2001年の信託法実施後初の信託会社の破産である(中国の信託会社数は68社から67社となった)。このように基本的には、市場メカニズムと法治に基づいて信託会社の整理を進めている方針とみられるが、既存の投融資先(不動産会社、地方政府融資平台)の状況悪化の中では、さらに処理を加速する必要があると思われる。

今後は本業回帰へ

今後については、23年3月に銀保監会(当時)が、信託会社の信託業務分類の規範化に関する通知を発表した(23年6月実施)。シャドーバンキング等で本来の信託業務と離れてしまった業界を正常化する狙いがある。

通知により信託会社の業務は、資産サービス信託、資産管理信託、公益慈善信託の3種類に分類される。資産サービス信託は家族信託、資産証券化信託などを含む。資産管理信託は、上述の指導意見に基づき、固定収益(フィクストインカム)類、権益(エクィティ)類、商品・金融デリバティブ類、バランス類に分けられる。これまで不動産会社等を支えていた貸出等(「取引市場で取引される標準化された債権資産」以外のいわゆる非標準化債権)は、今後3年間と設定されている過渡期を経て表舞台から去ることになると思われる。また、通知は、シャドーバンキングの際に見られたチャネル業務や上述した資金プールを改めて禁じており、今後もリスク解消に向けた動きが続くと見られる(注2)。

  • (注1)

    指導意見により、私募商品の適格投資家の条件は統一されたが、信託会社については指導意見に則した関連弁法が実施されていないため、異なった条件が使われている。但し、今回の通知を見ると、指導意見に沿った方向へ向かうと思われる。ちなみに、指導意見の適格投資家の条件は以下の通り。(1)2年以上の投資経歴があり、かつ以下のいずれかを満たす。家計の金融純資産が300万元を下回らず、家計の金融資産が500万元を下回らない。または直近3年の本人平均年収が40万元を下回らない。(2) 直近年末の純資産が1000万元以上の法人。(3)金融管理部門が適格投資家とみなすもの。

  • (注2)

    2018年の指導意見以降は、迂回融資のチャネル業務は45%程度減少しており、全体の信託資産に占める割合も約6割から約4割になっている(17年12月と23年3月の比較)。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフ研究員

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