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中国におけるPPP(官民連携)の最近の動きについて

2023/12/25

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中国政府は、地方政府の隠れ債務問題の解決に向けて動く中、PPP (後述)についても新たな規定を発表した。11月3日に国家発展改革委員会と財政部が発表した「政府と社会資本協力の新たなメカニズムの実施の規範化に関する指導意見」、いわゆるPPP新規定について説明する。

これまでの経緯

ここでPPPとは、都市のインフラ建設等における官民連携(PPP:Public Private Partnership)モデルのことである。中国では、政府と社会資本の連携という形を取る(後述するように国有企業も参加するため、民間資本ではなく社会資本という。2022年末、財政部にリストアップされているPPPの案件総数は約1.4万件、投資総額は20.9兆元)。

2014年以降、地方政府債務の管理が強化された。地方政府が地方債を発行可能になる一方、地方政府融資平台等を通じた新たな地方政府の借入(いわゆる「隠れ債務」)が禁止され、既存債務(本来地方政府は借入を禁止されていたが、実際は存在していた債務)の処理が始まった。同時に、都市のインフラ建設等のためにPPPが促進された。

PPP実施後10年近くが経つ中で、問題が発生していた。具体的には、地方政府がいわゆる「隠れ債務」の増加にPPPを利用するケースがあること、透明な運営がなされていないケース(審査がいい加減で、収益源や資金調達ルートが不明確、等)があることがしばしば指摘されており、今回の指導意見でもこれらの問題点が示唆されている。また、指導意見は、当初の狙い通りには民間企業が参入していないことも指摘している。

これらの問題に対処するため、2023年2月以降、財政部、国家発展改革委員会はPPPを一時停止させ、プロジェクトを徹底的に調査し改革を行ってきた。今回の指導意見はこうした動きを受けたものである。

指導意見のポイント

指導意見のポイントは以下の通りである。

第一に、今後、PPPは利用者が料金を支払うプロジェクトに注力する。PPPモデルを採用するで、地方政府の将来の支出責任を余計に増やさない。地方政府は、プロジェクトの建設期に政府投資支援を提供できるが、プロジェクトの赤字(利用者料金収入だけでは不足する部分)補填や最低収益率の保障などによって、財政資金でプロジェクト建設や運営コストを補填してはならない。

言うまでもなく、地方政府の隠れ債務発生を予防する措置である。これまでのPPPは基本的に地方政府財政に依存していた。これを基本的に利用者負担に転換する。運営コストの補填は法律法規・政策で決められているものに限り、特定のプロジェクト向けの補助はできないことになる。建設期の政府投資による支援(政府事業単位によるプロジェクト会社に対する資本金注入等)は、一回性の支出であり、将来的に政府支出責任を新たに増やすことはない。

第二に、PPPはすべて特許経営モデルとする。地方政府は、関連業界を主管する部門や事業単位等に、特許経営プロジェクト実施機関として特許経営案の作成・特許経営者の選択・プロジェクトの監督等を行う権限を与える。特許経営モデルはBOT(Build-Operate-Transfer建設・運営・移転)、TOT (Transfer-Operate-Transfer移転・運営・移転)、ROT(Rehabilitate-Operate-Transfer改修・運営・移転)等の方法を採る。特許経営権は、原則40年までである。

TOT、ROTについては既存資産の活性化が目的であろう。次に述べるように、社会資本は民営企業優先だが、国有企業が既存資産の活性化に参加することは奨励される。

第三に、民営企業の参加を優先する。「民営企業参加を支援する特許経営新規建設プロジェクト目録(2023年版)を制定する。具体的には、市場化の水準が高く公共性の比較的弱いプロジェクトでは、(プロジェクト会社について)民営企業の独資会社あるいは民営企業が支配株主の会社となる。国家経済・人民生活にかかわる公共性の強いプロジェクトでは民営企業の持ち株比率は原則35%以上とする。

この民営企業重視は、本来、民営企業の参加を意図していたPPPの原点回帰である。実際にはこれまで地方政府との関係が強い国有企業がPPPに参加することが多かったが、今後はプロジェクトの経営能力を重視する方向に舵を切るとみられる。

無論、民営企業は資金調達難の問題をかかえているため、指導意見では、金融機関が期待収益を担保とする方法で、特許経営プロジェクトへの資金調達支援をすることを奨励している。また、条件を満たした特許経営プロジェクトがインフラ施設の分野で不動産投資信託REITsを発行することを支援するとしている。社会資本側の特許経営者が管理強化、コスト引下げ、効率引上げ、革新等により得た超過収益は主に特許経営者に帰属するとしており、インセンティブも与えている。




このように、PPPは利用者負担、特許経営モデルや民間企業の利用を通じて、地方政府の隠れ債務発生を予防し、既存施設の利用等も図りながら、公共財・サービスの提供を目指す新たな局面に入ることになる。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフ研究員

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