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日銀はYCC変動幅再拡大に動くか

2023/01/11

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変動幅再拡大の観測根強く

昨年12月20日に、日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の10年国債利回りの変動幅拡大を決め、金融市場を大いに驚かせてから3週間経つが、市場の動揺はまだ収まっていない。この決定があたかもパンドラの箱を開けてしまったかのように、金融市場は早期に日本銀行が追加措置に踏み切る、つまり、変動幅を再び拡大させるとの観測を強めているためだ。

年明け以降、10年国債利回りは新たな変動幅の上限である0.5%に貼りつく形となっている。筆者は、米国景気の減速や米連邦準備制度理事会(FRB)の政策修正観測から米国の長期国債利回りが低下していけば、日本の10年国債利回りの上昇圧力も緩和していくと予想していたが、実際にはそうはなっていない。金融市場での変動幅再拡大への観測が非常に根強いためだ。

日本銀行はこの3週間、定例の国債買い入れの増額、指値オペ、臨時国債買いオペを通じて、イールドカーブ全体の上昇を力づくで抑え込む姿勢を続けている。その結果、国債買い入れは大きく増加しているのである。

年内に変動幅0.75%への再拡大の可能性は50%程度か

国債買い入れを拡大させることでイールドカーブを強くコントロールする姿勢は、柔軟化とは逆行するものだ。変動幅拡大の狙いが政策の柔軟化であるとすれば、それと矛盾する政策を、日本銀行は不本意ながら続けていることになる。

こうした状況がさらに続けば、国債買い入れ額を抑え、また市場への介入を弱める観点から、日本銀行が変動幅再拡大の決定に追い込まれる可能性が生じるだろう。日本銀行が年内に変動幅を上下0.75%に再拡大する可能性は50%程度あるとみておきたい。

1月18日には政策変更は見込まれない

ただし、それを来週1月18日の次回金融政策決定会合で決める可能性は小さいだろう。2会合連続での政策修正となれば、12月20日の決定が失敗だったとの批判も高まりかねない。そもそも昨年春以降、長期国債利回りの上昇を強くけん制し、今回の変動幅拡大に否定的だったとも推測される黒田総裁が、それを簡単に認めるとも思えない。

昨年4月以降、10年国債利回りが従来の上限の0.25%に貼りついた状態が、夏場の一時期を除いて年末まで続いたことを踏まえても、日本銀行がわずか1か月で白旗を挙げて変動幅の再拡大に踏み切るとも考えづらいところだ。

日本銀行が変動幅を上下0.75%に再拡大するとすれば、それは4月から始まる新体制下となる可能性が高いのではないか。

一時的物価・賃金の上振れを理由に日本銀行が政策変更に踏み切る可能性

変動幅の再拡大も含めて、金融市場で日本銀行の政策修正観測は根強い。特に、海外投資家についてはそうである。

金融市場が当面注目するのは物価と賃金だ。1月20日に公表される全国消費者物価(除く生鮮食品)は、前年同月比で+4.1%に達することが予想される。またファストリテイリングが社員の年収の大幅引き上げを決めたことも受け、春闘での賃上げへの期待が高まっている。

実際には、政府の物価抑制策の効果もあり、1月以降の消費者物価上昇率は前年比で低下傾向を辿り、年後半には低下傾向がより強まるだろう。今年年末には消費者物価上昇率は前年比で1%台半ば程度まで低下することが予想される。

また今年の春闘でベアは1%超になると見込まれるが、日本銀行が2%の物価目標と整合的とする3%程度には遠く及ばない。しかも、今年の賃金上昇率の上振れは、昨年の物価上昇を反映した一時的な側面が強い。賃金と物価が相乗的に高まることで、2%の物価目標の達成が視野に入ってくる可能性は低いだろう。

それでも、こうした一時的な物価、賃金の上振れを理由づけに利用して、新体制下での日本銀行が、「2%の物価目標の達成が視野に入ってきた」として、マイナス金利解除などの本格的な正常化策に早期に着手する可能性は、完全には否定できないところだ。2024年度の日本銀行の物価見通し(中央値)は2%近くになるとみられているが、それが正常化策に着手するための布石、との金融市場の見方も少なくない。

マイナス金利解除など本格的な正常化策の着手は来年以降か

しかしそれよりも、達成可能でない2%の物価目標の位置づけを中長期の目標などに修正し、物価目標と金融政策の関係を弱めた上で、正常化策に着手する可能性の方が大きいと見たい。2%の物価目標を維持したまま正常化を実施すれば、その後も、日本銀行の政策はこの現実的ではない2%の物価目標に強く縛られ続け、柔軟性を取り戻すことができないからだ。

2%の物価目標の位置づけ修正は、政府と日本銀行の共同声明の修正を通じて、あるいは日本銀行単独で行われると予想されるが、そのプロセスには一定時間を要するだろう。そうこうしているうちに、内外の景気情勢は悪化し、FRBの利下げ観測浮上などによって円高リスクも高まれば、日本銀行は円高・株安を通じて景気悪化リスクを高めかねない本格的な正常化措置の実施を先送りするのではないか。マイナス金利解除は、内外経済が落ち着きを取り戻す2024年半ば以降にまでずれ込む、と引き続き予想したい。

ただしその間も、日本銀行の政策修正観測が後退してしまうことはなく、それが継続的な円高圧力となるのではないか。

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