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YCCの利回り変動幅再拡大の時期は新体制下がメインシナリオ

2023/01/13

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日本銀行の追加の政策調整への観測は根強い

13日の金融市場では、日本の長期国債利回りが一段と上昇した。新発10年国債利回りは0.535%と2015年6月以来、7年7か月ぶりの水準に達した。これを受けて日本銀行は、午前の金融調節で、25年以下の臨時の長期国債買い入れと中期債を対象とする指値オペを通知した。同時に、10年国債を0.50%で無制限に買い入れる指値オペを通知した。

前日の米国では、12月の消費者物価の上昇率が一段と鈍化したことを受けて、米国の長期国債利回りは低下し、一時128円台まで円高ドル安が進んだ。そうした環境にも関わらず日本の長期国債利回りが逆に上昇したのは、日本銀行が昨年12月20日に続いて、来週17・18日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の長期国債利回り変動幅の再拡大に踏み切るとの観測が強まっているからに他ならない。現状では、金融市場はその確率を半分程度織り込んでいるように見える。その可能性には注意をしておいた方が良いことは確かだろう。

変動幅の再拡大は新体制下がメインシナリオ

日本銀行が年内にYCCの長期国債利回り変動幅を現状の±0.5%から±0.75%などに再拡大させる可能性は、十分に考えられるところだ。ただし、そのタイミングは、来週ではなく、4月に発足する新体制の下になる可能性の方が大きく、それを引き続きメインシナリオと考えておきたい。来週実施されるとすれば、それは国債買い入れ手法の見直しなど技術的なものにとどまるのではないか。

10年国債利回りが上限に達する中、日本銀行は利回り上昇を抑えるために、大量の国債買い入れの実施を強いられている。これは、政策の正常化を進める流れに逆行するものであり、いつまでも容認はできないだろう。そのため、年前半にもYCCの長期国債利回り変動幅の再拡大に追い込まれる可能性は相応にある。

ただし、黒田総裁はそれを認めないのではないか。黒田総裁自身は、緩和の修正を強く嫌い、本音のところでは、国債市場の歪みや日本銀行の国債買い入れ拡大を強く問題視はしていないのではないか。昨年12月20日の変動幅拡大は事務方主導であり、黒田総裁はそれを渋々受け入れたとしても、連続での変動幅拡大は受け入れないだろう。それは、任期の最後の瞬間に、金融緩和の枠組みが一気に崩れていくとの印象を与えるものであり、黒田総裁にとってそれは耐え難いのではないか。

また、黒田総裁の下で最後となる3月9・10日の決定会合でも、変動幅拡大は実施しないと見たい。黒田総裁が引き続き任期中の再拡大を許さないと見込まれることに加えて、決算期末に長期国債利回りの上昇を許せば、銀行の財務に悪影響を与えることになるためだ。

最大の注目は4月の決定会合

日本銀行の次のアクションとして最も注意すべきタイミングは、新総裁の下での初回の会合となる4月27・28日だ。ここでは、2%の物価目標を長期の目標に位置づけるなどして金融政策の自由度を高める、あるいは2%の物価目標の位置づけ修正を含め、政府と日本銀行による2013年の共同声明を見直す可能性があるだろう。つまり、ソフトな政策方針修正がなされる可能性がある。

他方、そのタイミングでマイナス金利解除を決め、金融政策の正常化に一気に舵を切る可能性も完全には否定できないところだ。総裁が交代したタイミングで政策を修正することは、自然なことでもある。2013年4月には、新総裁に就任した黒田総裁のもと、初回の会合で大きな政策転換がなされ、「量的・質的金融緩和」が導入された。

ただし、新規の緩和策を導入した10年前のこのケースと、10年間続いた異例の緩和を修正するケースとを同列に扱うことはできないだろう。緩和の修正に動く場合には、円高進行、長期国債利回りの上昇、株価下落など、金融市場の悪い反応を引き起こすことが避けられない。拙速な政策転換が金融市場の混乱を生じさせれば、新体制となった日本銀行は、再び国民などからの強い批判に晒される。そのため、そうした政策の急転換を日本銀行は避けるのではないか。

マイナス金利解除などハードの政策修正、正常化策は2024年半ば以降か

2%の物価目標の実現が見えてきたと強弁して、4月に一気呵成にマイナス金利解除にまで日本銀行が動く可能性はゼロではないだろうが、金融市場の安定に十分に配慮する日本銀行の伝統的な姿勢に照らせば、その可能性は低いのではないか。正常化に向けた政策姿勢の転換は明示しても、マイナス金利解除を実施する前には、それなりに時間をかけて、金融市場にその可能性を織り込ませていくだろう。

また、先々の金融政策の自由度を確保する観点からも、足元での一時的な物価、賃金の上昇を理由に2%の物価目標の実現が見えてきたと主張して正常化に踏み切るよりも、実現可能性が低い2%の物価目標の位置づけを明確に見直したうえで、正常化に踏み切る可能性の方が高いのではないか。

ただしそうして市場との対話に時間をかけているうちに、内外経済は厳しさを増し、為替市場では円高傾向が強まり、そして米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和観測が強まっていくとみておきたい。その場合、急速な円高など金融市場の混乱につながりかねないマイナス金利解除などのハードの政策修正、正常化策の実施は後ずれし、2024年半ば以降になると予想する。

年内に実施される可能性が相応にあるのは、YCCの利回り変動幅の再拡大と、2%の物価目標の位置づけ修正とみておきたい。

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