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日本銀行のYCC撤廃観測は行き過ぎか

2023/01/16

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YCCの利回り変動幅再拡大の時期は新体制下がメインシナリオ

13日(金)の海外市場では、一時1ドル127円台と7か月ぶりの水準まで円高が進んだ。日本銀行が1月17・18日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の利回り変動幅再拡大など、追加の政策修正を行うとの観測が強いためだ。

10年国債利回りが変動幅の上限である+0.50%前後に達する中、利回りの上昇を抑えて上限を守るために、日本銀行は大量の国債を買い入れることを強いられている。日本銀行は13日に、5兆83億円の国債を買い入れた。1営業日当たりの購入額は前日の4兆6,144億円を上回り、連日で過去最大を更新している。

これは、国債買い入れを抑制してバランスシートの急拡大に歯止めを掛ける、あるいは国債買い入れによる国債市場の機能度低下のリスクを軽減するという、日本銀行が目指す政策の柔軟化、正常化の方向に全く逆行している。この点から、現状は持続可能とは言えず、いずれは変動幅再拡大などYCCの見直しを日本銀行が強いられる可能性は相応にあるだろう。

1月18日に日本銀行が2会合連続でそうした措置を決める可能性は完全に排除はできず、注視しておく必要はあろうが、それでも、実施の時期は4月に新体制に移行してからとなる可能性の方が高く、それがメインシナリオと引き続き考えておきたい(コラム「YCCの利回り変動幅再拡大の時期は新体制下がメインシナリオ」、2023年1月13日)。

そもそも、10年国債利回りが新たに設定した上限に張り付き、日本銀行が大量の国債買い入れを一定期間強いられることは、昨年12月20日に変動幅拡大を決めた際に、日本銀行は覚悟していたことであり、いわば想定内なのではないか。

ただし、金融市場の力を利用して、大量の国債買い入れや国債市場のさらなる歪み、市場機能の低下を理由に、黒田総裁を説得して任期終了前にYCCの枠組みを大きく崩してしまうことを事務方が画策している場合には、18日にも変動幅の再拡大が実施されるだろう。

変動幅再拡大は±0.75%か±1.0%か

仮に変動幅の再拡大が実施される場合には、現状の±0.5%と±0.75%、あるいは±1.0%に拡大することが見込まれる。±0.75%まで変動幅を拡大しても、直ぐに10年国債利回りが上限に張り付き、同様の事態が繰り返されるリスクがあることに配慮すれば、変動幅は±0.75%ではなく一気に±1.0%まで引き上げることも考えられるところだ。

ただし、10年国債利回りの均衡水準は0.8%程度と考えられる(コラム「2023年の利回り上昇幅は限定的:10年国債利回りの均衡水準は0.8%程度か」、2022年12月29日)。さらに、インフレ懸念が後退する中で、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ幅縮小観測が強まっており、さらに利下げ観測が早晩強まる可能性がある。その場合には、日本の長期国債利回りに大きな影響を与える米国の長期国債利回りがこの先もう一段低下することで、日本の10年国債利回りにも低下圧力がかかることも考えられるところだ。

この点を踏まえれば、変動幅を一気に±1.0%にまで拡大しなくても、日本銀行は国債買い入れを減らし、正常化を進めることができるのではないか。

YCCは問題の多い政策の枠組み

他方で、変動幅を再拡大しても、利回りは直ぐに上限まで上昇し、その水準に張り付いてしまう恐れがあることから、18日にも日本銀行がYCCの変動幅を廃止する、あるいはYCC自体の撤廃を決めるとの観測も出ている。この場合、10年国債利回りの天井は一気に外されることになることから、利回り急上昇への懸念が市場に強く燻る背景となっている。

ただし、日本銀行が一気にYCCの撤廃を決める可能性は、4月の新体制の下でさえも年内は高くないのではないか。YCCは国債市場の機能を低下させるととともに、日本銀行の国債買い入れの削減を妨げる問題の多い政策の枠組みであり、筆者自身もそれをできるだけ早期に撤廃することが望ましいと考えている。

YCCは、日本銀行としては、新体制下で進めていく正常化策の最大の山場であるゼロ金利解除を混乱なく実行していくために必要な枠組み、と位置付けているのではないか。

金利解除まで温存か

長期国債の利回りの安定を確保するには、政策金利の先行きの方針を示して金融市場の期待をコントロールするフォワードガイダンスと国債買い入れの増減の2つの手段を組み合わせることが必要となる。ただし、マイナス金利解除の際に、金融市場が先行き大幅な政策金利の引き上げを予想すれば、長期国債利回りが大きく跳ね上がってしまうリスクがある。フォワードガイダンスだけで、長期国債利回りの安定を維持できるかどうかは不確実だろう。

そこで日本銀行は、マイナス金利解除を円滑に実行するためには、YCCの下での国債買い入れという枠組みを残しておき、必要に応じて「指値オペ」などを通じて機動的に国債を買い入れて長期国債利回りの上昇を抑えることが必要、と考えているのではないか。

YCCを撤廃してしまえば、特定の水準で「指値オペ」を実施する根拠を失ってしまう。また、変動幅を一度撤廃しても、マイナス金利解除時に特定の水準で「指値オペ」を実施すれば、その時点で事実上、上限が設定されることになってしまうだろう。

こうした点から、YCCの変動幅撤廃、あるいはYCCの撤廃を、正常化の最大の山場となるマイナス金利解除を終えるまで、日本銀行は温存するとみておきたい。

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