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4月の金融政策決定会合が最大の焦点に

2023/01/18

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2会合連続での政策修正は見送り

1月17・18日に開かれた金融政策決定会合で、日本銀行は金融政策の現状維持を決めた。前回の会合で日本銀行は、イールドカーブ・コントロール(YCC)の長期国債利回りの変動幅を拡大し、利回りの上昇を容認する政策修正を突如実施した。金融市場では追加措置への観測も事前に強まっていたが、日本銀行は変動幅の再拡大などを見送り、2会合連続での修正を避けた。為替市場では事前に政策修正の可能性を織り込んでいた反動から、円安が進んでいる。

展望レポートでは、2024年度の物価見通しが、昨年10月の+1.6%から+1.8%へと上方修正され、日本銀行の物価目標である2%に近づいた。

金融市場では、4月の新体制後に、2%の物価目標の達成が見通せるようになったと説明し、日本銀行がマイナス金利解除などの金融政策の正常化に一気に踏み切るとの観測も一部に浮上している。しかし、この観測は行き過ぎだろう。日本銀行は、2024年度の消費者物価上昇率の見通しが、2023年度の+1.6%からやや高まる背景として、政府の経済対策のよる物価押し下げの反動という技術的な要素を挙げている。

日本銀行にとって当面の最大の課題は、国債の大量買入れを強いられる状況から早く脱することである。変動幅再拡大などYCCの追加修正への市場の観測が長期国債利回りの上昇をもたらす中、変動幅の上限を守るために、日本銀行はわずか4営業日で約12兆円という過去最大規模の国債買い入れを強いられた。これは持続可能ではなく、この状況が続くのであれば、3月の次回会合でYCCの追加修正が実施される可能性が考えられる。

3月の追加修正は市場環境次第

ただし、今回日本銀行が政策変更を見送ったことで、金融市場での早期の追加修正への観測が和らぎ、長期国債利回りの上昇圧力が弱まれば、日本銀行は3月の次回会合での追加修正を見送るだろう。

追加修正は、黒田総裁が容易には受け入れない可能性が考えられる。短期間でYCCの見直しを大きく進めれば、自身の任期最後の段階で、金融緩和の枠組みが一気に崩れたとの印象となってしまう。黒田総裁は、自身の任期中は金融緩和の枠組みを維持したいと強く考えているだろう。国債の大量買入れによる日本銀行のバランスシート急拡大や国債市場の機能低下などの弊害については、日本銀行の事務方ほどには黒田総裁は深刻に捉えていないのではないか。

また、3月は年度末であり、国債利回りの上昇は民間銀行の決算に悪影響を与えることから、日本銀行としてはできれば避けたいところではないか。国債市場がやや安定を取り戻す場合には、YCCの追加修正の実施は、少なくとも4月の新体制のもとになることを、現時点でのメインシナリオとしたい。

YCC見直しの4つの可能性

今後のYCCの見直しについては、4つの可能性が考えられる。第1は、変動幅を±0.75%、あるいは±1.0%へと再拡大すること、第2に、指値オペの運用を見直して、上限を死守する姿勢を修正すること、第3に、YCCの変動幅を撤廃すること、第4に、YCCの枠組み自体を廃止すること、である。

近い将来で考えれば、第1から第4の順にその確率は下がっていくだろう。仮に変動幅の再拡大が実施される場合には、現状の±0.5%から±0.75%あるいは±1.0%に拡大することが見込まれる。±0.75%まで変動幅を拡大しても、直ぐに10年国債利回りが上限に張り付き、同様の事態が繰り返されるリスクがあることに配慮すれば、変動幅は±0.75%ではなく一気に±1.0%まで引き上げることも考えられるところだ。

ただし、10年国債利回りの均衡水準は1.0%よりも低い0.8%程度と考えられ、この点から1.0%までの上限引き上げは行き過ぎとなる可能性があるだろう(コラム「2023年の利回り上昇幅は限定的:10年国債利回りの均衡水準は0.8%程度か」、2022年12月29日)。さらに、インフレ懸念が後退する中で、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ幅縮小観測が強まっており、利下げ観測が早晩強まる可能性もある。その場合、日本の長期国債利回りに大きな影響を与える米国の長期国債利回りがこの先もう一段低下することで、日本の10年国債利回りにも低下圧力がかかることも考えられるところだ。

こうした点を踏まえれば、変動幅を一気に±1.0%にまで拡大しなくても、日本銀行は国債買い入れを減らしていくことができる可能性はあるだろう。いずれにせよ、市場環境次第である。

第2に指値オペの運用の見直しも検討に値するだろう。特定の水準に明確な目標を持つがゆえに、そこが市場の攻撃対象となりやすくなる。日本銀行が変動幅の上限の水準で、毎営業日指値オペを実施することをやめ、上限を超える利回り上昇を一定程度認めれば、攻撃対象を失った市場はむしろ安定を取り戻す可能性も考えられる。その場合、日本銀行は国債の買い入れ額を減らすことができるだろう。

しかし、市場は指値オペの運用の見直し後に、即座に日本銀行の新たな上限を探る動きを見せ、投機的な動きが収まらない中、利回りは大幅に上昇してしまう可能性も相応にある。指値オペの運用の見直しは、現状ではややリスクの高い戦略なのではないか。

YCCはマイナス金利解除まで温存か

他方で、変動幅を再拡大しても、利回りは直ぐに上限まで上昇し、その水準に張り付いてしまう恐れがあることから、日本銀行がYCCの変動幅を廃止する(第3)、あるいはYCC自体の撤廃(第4)を決める、との観測も出ている。

ただし、第4の日本銀行が一気にYCCの撤廃を決める可能性は、4月の新体制の下でさえも、年内は高くないのではないか。YCCは国債市場の機能を低下させるととともに、日本銀行の国債買い入れの削減を妨げる問題の多い政策の枠組みであり、筆者自身もそれをできるだけ早期に撤廃することが望ましいと考えている。

しかし日本銀行は、今やYCCを金融緩和の枠組みの一部というよりも、新体制下で進めていく正常化策の最大の山場であるゼロ金利解除を混乱なく実行していくために必要な枠組み、と位置付けているのではないか。

長期国債の利回りの安定を確保するには、政策金利の先行きの方針を示して金融市場の期待をコントロールするフォワードガイダンスと国債買い入れの増減の2つの手段を組み合わせることが必要となる。ただし、マイナス金利解除の際に、金融市場が先行き大幅な政策金利の引き上げを予想すれば、長期国債利回りが大きく跳ね上がってしまうリスクがある。フォワードガイダンスだけで、長期国債利回りの安定を維持できるかどうかは不確実だ。

そこで日本銀行は、マイナス金利解除を円滑に実行するためには、YCCの下での国債買い入れという枠組みを残しておき、必要に応じて指値オペなどを通じて機動的に国債を買い入れて長期国債利回りの上昇を抑えることが必要、と考えているのではないか。

YCCを撤廃し、長期国債利回りのコントロールを止めてしまえば、特定の水準でこうした指値オペを実施する根拠を失ってしまう。また、YCCの変動幅のみを撤廃しても、マイナス金利解除時に日本銀行が特定の水準で指値オペを実施すれば、その時点で事実上、上限が再び設定されることになってしまう。

こうした点から、YCCの変動幅撤廃、あるいはYCCの撤廃を、正常化の最大の山場となるマイナス金利解除を終えるまで日本銀行は実施せず、現在のYCCの枠組みを温存するとみておきたい。

政府主導での「政府と日本銀行の共同声明(アコード)」の修正

日本銀行の次のアクションとして最も注意すべきタイミングは、新総裁の下での初回の会合となる4月27・28日だ。ここでは、2%の物価目標を長期の目標に位置づけるなどして金融政策の自由度を高める、あるいは2%の物価目標の位置づけ修正を含め、政府と日本銀行による2013年の共同声明を見直す可能性があるだろう。

日本銀行としては、2%の物価目標の位置づけの見直しを独自に行いたいことだろう。政府と調整しながら、共同声明の修正を通じてそれを行えば、日本銀行が政策(方針)修正を行う前には政府との調整が必要になる、との悪しき前例を再び作ってしまうからである。

日本銀行としては、共同声明の本来の考え方に戻ることで、共同声明を修正することなく2%の物価目標の位置づけを単独で変えることができる、という解釈をしているのではないか(コラム「日銀金融政策の展望③:政府日銀共同声明の改定・物価目標の見直しはあるか」、2022年12月19日)。

ただし岸田政権は、政府が主導する形で日本銀行の政策修正を行いたい模様であり、政府と日本銀行の共同声明の修正に拘るとみられる。日本銀行は最終的にこれを受け入れさせられる可能性が考えられる。

他方、2%の物価目標の修正や金融緩和の転換については、アベノミックスの遺産を損ねるものとして、自民党内での保守層から強い反対も予想されるところだ。その結果、共同声明の修正作業は政治色を強く帯び、見直しの内容について政府側の調整が難航する可能性もあり得るだろう。日本銀行は図らずも、そうした政治闘争に巻き込まれてしまうのではないか。

4月に政策の大転換はあるか

他方、4月の会合のタイミングで日本銀行がマイナス金利解除を決め、金融政策の正常化に一気に舵を切る可能性についても、低いとはいえ完全には否定できないところだ。総裁が交代したタイミングで政策を大きく修正することは、自然なことでもある。実際、2013年4月には、新総裁に就任した黒田総裁のもと、初回の会合でサプライズの大きな政策転換がなされ、「量的・質的金融緩和」が導入された。

ただし、新規の緩和策を導入した10年前のこのケースと、10年間続いた異例の緩和を修正、正常化するケースとを同列に扱うことはできないだろう。緩和の強化に踏み切る際には、金融市場の悪い反応を強く警戒する必要はないが、緩和の修正に動く場合には、円高進行、長期国債利回りの上昇、株価下落など、金融市場の悪い反応、市場の巻き戻しを引き起こすことが避けられない。

拙速な政策転換が急激な円高など金融市場の混乱を生じさせれば、新体制となった日本銀行は、再び国民などからの強い批判に晒されるはずだ。そのため、そうした政策の急転換を日本銀行は避けるのではないか。

マイナス金利解除などの正常化策実施は2024年半ば以降か

このように、金融市場の安定に十分に配慮する日本銀行の伝統的な姿勢に照らせば、2%の物価目標の実現が見えてきたと主張して、4月に一気呵成にマイナス金利解除にまで日本銀行が動く可能性は低いだろう。正常化に向けた政策姿勢の転換は明示する一方、具体的な政策手段の修正であるマイナス金利解除などを実施する前には、それなりに時間をかけて、金融市場にその可能性を織り込ませていくだろう。

また、先々の金融政策の自由度を確保する観点からも、実現可能性が低い2%の物価目標の位置づけをまずは明確に見直したうえで、正常化に踏み切る可能性の方が高いのではないか。2%の物価目標をそのまま残しておけば、将来的にも日本銀行の金融政策がそれに縛られ続ける恐れがあるからだ。

ただしそのように市場との対話に時間をかけているうちに、内外経済は厳しさを増し、為替市場では円高傾向が強まり、そしてFRBの緩和観測が強まっていくとみておきたい。その場合、急速な円高など金融市場の混乱につながりかねないマイナス金利解除などの政策修正、正常化策の実施は後ずれし、2024年半ば以降になると予想される。

年内に実施される可能性が相応にある政策(方針)修正は、変動幅再拡大などYCCの追加修正と、2%の物価目標の位置づけ修正に留まる、とみておきたい。

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