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異次元の少子化対策が柱となる岸田首相の施政方針演説

2023/01/19

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「こども・子育て政策」を「最も有効な未来への投資」と位置付ける

岸田首相は、1月23日に召集される通常国会で施政方針演説を行う。1年前の岸田首相による初めての施設方針演説では、昨年年初の感染急拡大を受けて、新型コロナ問題への対応についての発言が大きな割合を占めていた。冒頭での発言(一.はじめに)も、同問題への言及に終始した。

発言の分量を文字数で計算すると、演説全体の中で新型コロナ問題についての発言部分(二.新型コロナ対応)の割合は全体の20.2%、冒頭での発言部分(一はじめに)を含めると25.5%と、全体の4分の1を上回っていた。

今年の施政方針演説では、新型コロナ問題への対応についての発言の割合は大きく縮小し、防衛費増額、防衛力強化、日本が議長を務める6月のG7(主要7か国)広島サミットでの国際秩序維持に向けた結束、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)の取り込みといった外交・安全保障問題や経済・財政運営などの議論も盛り込んで、よりバランスのとれた演説となりそうだ。

報道によると、経済政策だけでなく演説全体の中でも柱となりそうなのが、少子化対策を中心とする子ども関連の政策だ。演説では、「こども・子育て政策」を「最重要政策」、「最も有効な未来への投資」と位置付ける見込みである。4月に発足するこども家庭庁で、「今の社会で必要な政策を体系的に取りまとめる」との方針が示される。さらに、「6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに将来的な予算倍増に向けた大枠を提示する」との考えが示される方向だ。

コロナ禍の影響もあり、日本の出生率は低下を続けている。岸田首相が、少子化対策を前面に打ち出すのは、やや遅きに失した感もあり、昨年そうすべきだったと思うものの、それでも評価したい。少子化が経済・社会の安定に与える悪影響は甚大であるからだ。

「異次元の少子化対策」は本当に異次元か

岸田首相は既に、子ども関連予算を倍増し、「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明している。19日には関係府省会議の初会合が開かれ、必要な政策について3月末までに検討する。

ただし、この「異次元」というのは、現在までの議論を見る限りでは、「予算増額の規模が今までないほど大きい」ということを指しているように見える(コラム「異次元の少子化対策とはいったい何か」、2023年1月11日)。今年4月に発足するこども家庭庁の予算規模は、2023年度予算案では4兆8,104億円だ。これを2倍にするのであれば、5兆円程度の予算の積み増しとなる。その大半を、少子化対策費の増加が占めるのではないか。

今まで実施されてきた各種の少子化対策、例えば給付の拡大や待機児童対策が、出生率の向上につながってことなかったという事実を踏まえ、十分な検討を経たうえで、全く新しい視点に基づく政策を打ち出すのが、本来の「異次元」なのではないか。

しかし実際には、児童手当の大幅拡充と、非正規労働者、自営業者などを対象とする新たな給付制度の創設が柱となりそうだ。これでは、従来型の政策の延長との印象が強い。今までの少子化対策は、既婚者に対する支援が中心であったが、婚外子の権利向上や晩婚化対策なども検討テーマとなるのではないか。

少子化対策を成長戦略と一体で進めることが重要

そして、出生率の低下は、日本経済の潜在力の低下と強く連動していることを踏まえた政策の立案も重要だろう。出生率の低下は、将来の労働力と消費者の数の減少につながることから、中長期の成長期待の低下につながる。それは企業の日本における新規投資、雇用、賃金の抑制をもたらし、日本経済の潜在力の低下を加速させる。

さらに、日本経済の潜在力の低下、中長期の成長期待の低下は、国民の将来の経済的な不安を高め、出生率の低下につながるだろう。このように、出生率と日本経済の潜在力は、相乗的に悪化する可能性がある。しかし逆に、相乗的に高まるポテンシャルもあるだろう。

この点から、少子化対策を、成長戦略の一部と位置づけ、両者を一体で進めることが重要なのではないか。

防衛費増額と同じ「規模先にありき」の流れに

少子化対策を中心とする子ども関連予算の増加については、「倍増」という方針が先に打ち出され、その後に具体的な施策が議論され、最後の財源が議論されるという順番で進められているように見える。「規模先にありき」である。

岸田政権は、昨年議論された防衛費増額について、「中身と規模と財源を一体で決める」との方針を当初示しながらも、実際には規模を先に決め、財源を最後に決めるという順番となった。財源については、政府は増額分の4分の1程度を増税で賄う方針を閣議決定したものの、自民党内では反対意見が根強く、財源の議論は事実上今年以降に先送りされたのである。

子ども関連予算についても、規模が先に明示されており、防衛費増額と同じ誤ちが繰り返されることが懸念されるところだ。

国民的議論を踏まえ、「中身と規模と財源」の組み合わせの最適解を選びとる

子ども関連予算を大幅に増やしても、その財源の負担が経済の潜在力に悪影響を与えてしまう場合には、結局、出生率を押し下げてしまう可能性がある。恒久財源の確保に失敗し、新規国債の発行で子ども関連予算の増額分を賄う場合でも、それは将来世代の負担を増やし、需要を減らしてしまうことから、やはり、中長期の成長期待を低下させ、出生率を押し下げてしまうだろう。規模が大きくしさえすれば、有効な少子化対策になる訳ではない。

こうした点を踏まえると、少子化対策、子ども関連予算についても、「中身と規模と財源を一体で決める」ことが重要だ。規模を先に決めてしまうと、その有効性が十分に検討されずに中身が決まってしまい、そして、財源の議論が紛糾してなし崩し的に国債発行で賄う形となりかねない。

国民の経済的な負担や経済の潜在力への影響なども踏まえつつ、成長戦略と一体化した有効性の高い新たな少子化対策、「中身と規模と財源」の組み合わせのいわば最適解を選びとっていく作業が非常に重要となる。

(参考資料)
「こども・子育て「最重要政策」 首相、施政方針案 途上国へ関与強化」、2023年1月19日、日本経済新聞

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