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防衛財源議論で国債償還ルール変更が浮上:岸田首相は施政方針演説で増税への理解を訴える

2023/01/20

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防衛財源確保に国債の「60年償還ルール」見直しが浮上

政府は、防衛費増額について、歳出削減策などとともに増税策を含む財源確保を昨年末に閣議決定した。岸田首相は1月23日の施政方針演説で、増税実施の決意を改めて述べるとともに、増税実施への理解を広く国民に呼びかけるとみられる。

しかし閣議決定されたにもかかわらず、増税実施への反対意見は与党自民党の中で根強く残る異例の事態となっており、財源議論は未だ決着していない。実際、自民党は19日に、防衛費増額の財源について増税以外の確保策を検討する特命委員会の初会合を開いた。その中では、一段の歳出改革や税外収入などが検討されたが、さらに、国債の「60年償還ルール」を見直すことも議論されたのである。これは国債償還費を減らし、それを防衛費増額の財源に回すことを狙った措置であるが、財政健全化の観点からは大いに問題だ。

「60年償還ルール」の80年への見直しで防衛費4兆円積み増し分を賄うことは可能

政府が発行した長期国債を、60年かけて完全に償還するという「60年償還ルール」がある。例えば10年国債を6兆円発行すると、10年後の満期には1兆円を完全に償還した上で、残り5兆円分については、10年の借換債を発行して借り換えるのである。仮に「60年償還ルール」を「80年償還ルール」に変更すれば、10年後の償還額は7,500億円と、25%減少することになる。その分を防衛費増額の財源に回すことは可能である。

政府は国債発行残高の1.6%にあたる償還費を一般会計に計上し、債務を管理する「国債整理基金特別会計」に繰り入れることが、現在法律で求められている。23年度予算案では16.3兆円の償還費が計上された。

仮に「60年償還ルール」を「80年償還ルール」に変更される場合、償還額は25%分の4兆円程度減る計算となる。その分、政府の一般会計に計上される償還費を減額するようにルールが改められる場合には、歳出を4兆円分抑制することができる。

2027年度までに、政府は防衛費を4兆円積み増し、同額の財源が必要になるが、国債の償還ルールを仮に80年に延長すれば、防衛財源すべてを賄うことができる計算となる。

「60年償還ルール」は、本来は建設国債に適用されるルール

「60年償還ルール」は、政府が公共事業で造った道路や橋などインフラ設備の平均的な耐久年数が約60年であることを踏まえて作成されたものだ。これは、インフラ設備は将来世代も利用し便益を得ることから、将来世代にもその負担を求めるのが妥当、との考えに基づいている。つまり、「60年償還ルール」は、本来、建設国債に適用されるルールなのである。

現状では、財政赤字を穴埋めするための赤字国債(特例国債)が新規国債発行の大半を占めている。2023年度の国債発行計画では、赤字国債の比率は82%である。本来、赤字国債の発行は、現在世代が受けている政府サービスの負担を将来世代に転嫁するものであり、世代間の負担の公平性の観点から問題である。また、将来の需要を減らしてしまい、経済の潜在力を損ねる恐れがあるという経済的な観点からも問題だ。

従って、赤字国債はその発行自体が問題なのである。それに重ねて問題であるのは、赤字国債についても、「60年償還ルール」が適用されていることだ。本来、赤字国債はできる限り早く完全償還することが望ましいものだ。

「60年償還ルール」の見直しは多くの深刻な問題を生みかねない

赤字国債も含めて「60年償還ルール」が見直され、期間が延長されれば、より将来世代へ負担を転嫁することになる。世代間の負担の公平性の観点、経済の観点からの問題はより深まることになる。

償還ルールの期間を延長しても、政府の国債発行額、つまり政府の債務の水準は変わらない。他方、償還費を抑えることが可能となるため、新規国債発行へのハードルが下がることで、財政の規律が一段と緩むことになりかねない。それは、潜在的な金利上昇リスクや通貨価値の信認低下リスクを高めるだろう。

さらに、償還ルールの期間延長は、償還額の減少分と同額だけ借換債の発行額を増やすことになる。つまり、国債の発行額が増えることを通じて、円滑な国債消化に支障が生じ、金利変動リスク、金利上昇リスクを高める可能性もある。

国債償還ルールを見直すことには、このように多くの深刻な問題があるため、それは実施すべきではない。政府も、財政の信頼を維持する観点から、国債償還ルールの見直しに否定的だ。

他方、増税規模をできる限り抑えるために、さらなる歳出削減に踏み切る方向で、防衛財源に関する政府案の修正議論が自民党内で進められていくのであれば、それは歓迎したい。

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