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4月以降追加修正の可能性が高いイールドカーブ・コントロール(YCC)と時間稼ぎの共通担保オペの拡充

2023/01/24

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国債買い入れの抑制を狙った共通担保オペの拡充

日本銀行は1月18日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の国債利回り変動幅の再拡大などの追加政策修正の実施を見送る一方、金融機関が日本銀行に差し入れた国債や社債を担保に、日本銀行が資金を供給する共通担保オペの制度を見直した。最大10年の固定金利方式で0%に設定していた金利を、貸し付けごとに決められるようにした。金利入札方式については、貸付期間の上限を1年から10年に延長した。

制度変更の狙いは、国債利回りの上昇を抑えることにある。今までは、国債買い入れの臨時オペや指値オペを通じた国債買い入れの拡大で、日本銀行は利回り上昇を抑えてきたが、そのため、大量の国債買い入れを強いられてきた。それは、日本銀行の国債保有及びバランスシートを拡大させ、将来の利上げ局面で日本銀行の収益を悪化させるリスクを高めてしまう。

それ以上に深刻なのは、日本銀行による大量の国債買い入れが国債市場の流動性を低下させ、市場を歪めてしまうことだ。日本銀行は昨年12月20日の決定会合で、「市場機能の改善」を理由に、YCCの長期国債利回りの変動幅拡大を決めた。この措置により、10年国債利回りが変動幅の上限を下回るようになれば、指値オペなどを通じた国債の買い入れ額を減らすことができるからだ。

23日に5年物共通担保オペを実施

ところがさらなる変動幅拡大の観測から、10年国債利回りは新たな上限に貼りつき、それまで以上に大量の国債買い入れを日本銀行は強いられるようになった。「市場機能の改善」を理由にした変動幅拡大が、国債買い入れ額のさらなる拡大を通じ、市場機能を損ねるリスクを高める、という皮肉な結果となったのである。

そこで、共通担保オペの制度を拡充し、国債を買い入れることなく、国債利回りの上昇をけん制することを日本銀行は狙ったのである。その新制度を利用した5年物共通担保オペが、23日に実施された。オファー額の1兆円に対し、応札額は3兆1,290億円となり、相応の需要が確認された。

入札方式で決まった利回りは平均で0.145%と、足元での新発5年国債の利回りは0.165%を2ベーシスポイント下回った。利ザヤを稼ぐために、共通担保オペによって調達した資金を金融機関が新発5年国債の購入に充てることで、国債利回りの低下を促す効果が期待される。

共通担保オペは当初利回り低下を抑える手段として利用された

共通担保オペは、本来、短期の低利資金を日本銀行が金融機関に供給する資金調節手段である。それを、国債利回りのコントロールに使うようになったのは、日本銀行が2016年9月に、YCCを導入した時からだ。

その際、日本銀行が指定する利回りによる国債買入れ、いわゆる指値オペと、固定金利方式による共通担保オペの期間を1年から 10 年に延長する2つの措置が決定された。

明確に説明されたわけではないが、指値オペは、目標値から大きく乖離した長期国債利回りの上振れを抑えるための手段、共通担保オペは、長期国債利回りの下振れを抑える手段として、それぞれ導入されたと考えられる。

その共通担保オペを、今は長期国債利回りの上昇を抑える手段として日本銀行は使い始めたのである。当初予想していなかった利用方法でもあり、日本銀行がいかに長期国債利回り上昇に苦しんでいるかを表している。苦肉の策とも言えるだろう。

指値オペと共通担保オペの双方で望ましい利回り水準を指し示す

今回は、金利入札方式による5年物共通担保オペが実施されたが、この場合、利回りは市場実勢で決まるため、市場で取引される国債利回りに与える影響は大きくない。日本銀行が国債利回りの上昇をより強くけん制するために、いずれ、固定金利による共通担保オペを実施する可能性がある。そこで示される固定金利は、日本銀行が誘導したい利回りの水準を直接指し示すものとなる。

日本銀行は、指値オペと固定金利による共通担保オペの双方で、望ましいイールドカーブを示していくことになるだろう。しかしながら、そうした操作自体が、市場の自由な取引を阻害し、市場機能を低下させてしまうのである。

担保の制約で共通担保オペの効果は薄れていく

共通担保オペによる国債利回りの上昇抑制が上手くいけば、日本銀行は国債の買い入れ額を減らすことができ、YCCの追加修正を回避できる。しかし、実際のところ、それは難しいのではないか。

民間金融機関が国債を買い入れる場合の調達手段としては、共通担保オペは多くの手段の一つに過ぎない。銀行預金、コールレートなど、様々な調達手段があることから、共通担保オペで金融機関に国債買い入れを促し、利回りを抑えることが確実にできる訳ではない。

また、金融機関は投資目的以外に担保として国債を一定額保有する必要性もあり、利ザヤが稼げることだけが、国債買い入れのインセンティブではない。

さらに、国債の利回り上昇(価格下落)は含み損を生じさせ、国際基準行では規制上の自己資本比率を押し下げてしまう。利回り上昇観測が広がる中では、国債の買い入れに慎重な機関も多いだろう。

こうした点から、今回の共通担保オペは、スワップ金利の押し下げには目立った効果を上げたものの、現物の国債利回りに与える直接的な影響は、指値オペなどと比べて不確実である。

さらに、民間金融機関が日本銀行に差し入れている共通担保が不足してくれば、民間金融機関は共通担保オペに応じなくなっていき、その結果、共通担保オペが国債利回りに与える影響も低下していくはずだ。

4月以降YCCの追加修正、形骸化が進む

このように、共通担保オペの見直しが、国債利回りの上昇抑制の決定打となることはないだろう。日本銀行は1月18日の金融政策決定会合でYCCの追加修正を見送り、さらに共通担保オペの拡充を決めたことで、長期国債利回りは低下し、日本銀行が大量の国債買い入れを強いられる事態はひとまず回避された。こうした市場環境が続くのであれば、黒田総裁最後となる3月の決定会合では、変動幅再拡大などの追加修正策は見送られるだろう(コラム「4月の金融政策決定会合が最大の焦点に」、2023年1月18日)。

しかし、4月から新総裁の下での新体制がスタートすれば、市場機能の低下、国債の大量買入れ、円安加速など様々な問題を生んできたYCCについては、変動幅の再拡大、変動幅撤廃など一段の修正がなされ、イールドカーブ全体をコントロールするという機能の形骸化が一気に進むことになるだろう。今回の共通担保オペの拡充も、そこまでの時間稼ぎに過ぎないのではないか。

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