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債務上限問題で米国政府にデフォルトリスク:米政府が1兆ドルのプラチナコイン発行を検討

2023/01/26

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1兆ドルのプラチナコイン発行という奇策

バイデン政権の関係者や民主党議員の一部は、米政府に1兆ドルのプラチナコインを発行させることを検討している。現在、議論が紛糾している政府債務上限問題で、上限の引き上げなどで民主共和両党が合意できず、政府がデフォルト(債務不履行)のリスクに直面した際に備える苦肉の策である。政府が1兆ドルのプラチナコインを発行し、それを米連邦準備制度理事会(FRB)が買い入れれば、政府がFRBに持っている政府預金に同額が入金され、それで政府は債務を増やすことなく、歳出を行うことができる。

過去にも、政府債務上限問題が浮上するたびに、プラチナコインの発行が議論されてきた。しかし、イエレン財務長官は、「FRBが受け入れることを前提にすべきではない」として、このプランを一蹴している。FRBは、議会の財政政策の問題に、FRBが関与すべきではないと考えているようだ。

「ねじれ議会」が背景

米議会は2021年12月に、政府の法定債務上限を約31兆4,000億ドルに引き上げた。それから2年が経過し、政府債務がこの上限にまで達したのである。イエレン財務長官は今年1月19日に、議会下院のマッカーシー議長宛ての書簡で、政府債務が法定上限に到達したことを明らかにした。

しかし、それが直ぐに米政府のデフォルトをもたらすものとはなっていない。財務省はそれに先だつ13日に、公務員退職・障害者基金などの運用を変更する特別措置を発動し、デフォルトを回避していた。これは6月5日までの措置であり、少なくともその時期まではデフォルトを避けることができるとみられる。

それでも、民主・共和両党が、債務上限の引き上げ、あるいは法定上限の適用停止で合意しない限り、いずれ政府はデフォルトに陥ることになる。現在のところ、両党がこの問題で合意する兆しは全く見られていない。

デフォルト回避は、ぎりぎりのタイミングか

このように、政府債務上限の問題が解決されず、大きな政治問題化しているのは、昨年の中間選挙で共和党が下院で過半数の議席を奪い、「ねじれ議会」が生じたことが大きく影響している。共和党は、債務上限を受け入れる見返りに、バイデン政権にメディケア(高齢者向け公的医療保険)の削減などの歳出削減を求めている。

共和党の強硬な姿勢が政府のデフォルトリスク生じさせ、国民を危機に陥れている、といった批判が高まるまで、あるいはデフォルト懸念から金融市場が混乱するまでは、共和党は債務上限を認めない可能性が高い。デフォルト回避は、ぎりぎりのタイミングとなる可能性が高い。

FRBの金融政策に影響も

過去に何度も繰り返されてきた政府の債務上限問題は、最終的にはいずれも解決されてきたことを踏まえれば、実際に米国政府がデフォルトに陥る可能性は低いだろう。

しかし、この問題は、年央以降の米国経済や金融市場の大きなリスクとなり得るのである。6月以降、特別措置の効果が切れて、政府の資金繰りが厳しくなれば、政府は債務の利払いを優先してその他の歳出を停止するだろう。それは政府機関の閉鎖であり、経済に大きな打撃を与えかねない。

また、デフォルトリスクを織り込んで、金融市場は動揺を始めるだろう。その場合には、FRBが現在進めている月間1千億ドル程度の保有証券の残高削減を中断し、また、昨年秋のイングランド銀行のように、市場の安定化を図るために緊急国債買い入れに踏み切るよう迫られる事態も生じる可能性が考えられる。つまり、FRBの金融政策の大きなかく乱要因となり得るのである。

2011年には米国債が格下げに

さらに、2011年の政府債務上限問題の際には、上限引き上げで議会が合意した後に金融市場が大きく混乱した点も、金融市場は忘れていない。

2011年には、草の根保守の「ティーパーティー」の支援を受けた共和党が、オバマ政権と激しく対立していた。デフォルトの期限である8月2日の直前、7月末にかけての与野党間の交渉で、債務上限問題はなんとか解決された。そして期限当日の8月2日に、債務上限引き上げ法(Budget Control Act of 2011)が成立したのである。

それを受けてムーディーズは政府債務格付けAaaの据え置き確認を発表した。ところがその3日後に、S&Pはアメリカの財政赤字の削減への対応が不十分であるとの認識を示し、2011年8月5日に米国の長期発行体格付けを、「AAA」から「AA+」に引き下げたのである。

世界で最も信用力が高いとされた米国債の格下げは、金融市場に大きな混乱をもたらした。株価は大幅に下落し、それは消費者心理の悪化を通じて、経済に悪影響を与えたのである。他方、格下げされた米国債自体は、安全資産としてむしろ買われた。

当時と比べても米国債市場のマーケットメイクの機能が低下していること等から、再び米国債が格下げされれば、今度は、米国債も売り込まれるとの見方がある。その場合には、世界的な長期金利の上昇が生じ、金融市場の混乱はより深まるのではないか。

6月が近づいてくると、金融市場は米国政府のデフォルトリスクや米国債格下げリスクを強く意識し始めるだろう。

(参考資料)
"Janet Yellen Dismisses Minting $1 Trillion Coin to Avoid Default(「1兆ドル硬貨」案、米財務長官が一蹴 デフォルト回避策で)", Wall Street Journal, January 23, 2023
「米政府債務が上限到達、年央に不履行も 議会は調整難航」、2023年1月20日、日本経済新聞電子版

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