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異次元の少子化対策で児童手当の所得制限撤廃が焦点に

2023/01/30

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自民党が児童手当撤廃を突如主張

茂木自民党幹事長は25日の衆院本会議で、「すべての子どもの育ちを支える観点から所得制限を撤廃すべきだ」と発言した。この発言が強い意外感を持って受け止められたのは、児童手当の所得制限の撤廃は、自民党が否定する一方、立憲民主党など野党が長らく掲げてきた政策だったためだ。自民党はかつて2009年から2012年の野党時代に、当時の民主党政権が所得制限を設けない「子ども手当」を創設したことを批判していた。そして、2012年の政権奪還後に、所得制限を復活させた経緯がある。茂木自民党幹事長は、自民党が所得制限を復活させたことを「反省する」と述べた。

茂木幹事長の発言を受けて、自民党の萩生田政調会長は28日に、撤廃の是非について、「一つのアイデアとして検討に値する」として、議論を進めるべきだとの認識を示した。

こうして自民党内では、児童手当の所得制限撤廃を支持する動きが一気に広まってきた感がある。主要野党が統一地方選で児童手当の所得制限撤廃を揃って訴える可能性がある中、自民党が論点つぶしを狙っているとの指摘もある。

所得制限撤廃には児童手当の効果とコストのバランスを悪化させる恐れ

現在の児童手当制度のもとでは、3歳未満の子ども1人につき月額1万5千円、3歳~小学生は1万円(第3子以降は1万5千円)、中学生は1万円が原則支給される。他方、子ども2人と年収103万円以下の配偶者の場合、年収ベースで960万円が所得制限限度額である。昨年10月からは夫婦どちらかが年収1,200万円以上の場合は、児童1人当たり月額一律5,000円の特例給付の対象外となり、所得制限が強化されたばかりである(図表)。

昭和47年に創設された児童手当は、「家庭等の生活の安定に寄与する」、「次代の社会を担う児童の健やかな成長に資する」を目的としている。国民の安心、生活の安定を支えるセーフティネット、という社会保障政策の一環との位置づけだ。現在では、少子化対策としての位置づけが強まってきている。

しかし、児童手当がどの程度、生活の安定に資するか、あるいは子供を持つことを促すのかは、家計の所得水準に大きく左右されることは間違いない。高額所得層では、定額の児童手当がもたらすこうした効果は相対的に小さくなる。

他方で、高額所得層も給付の対象とする分、子ども手当の予算は大きくなり、社会的コストも増加する。効果と副作用のバランスの観点から最適な政策とするには、児童手当の所得制限は必要であり、その撤廃には問題があるだろう。

その財源を増税、あるいは社会保険料の引き上げなどに求める場合には、経済活動に対して影響が出てくる。国債発行で賄えば、将来世代への負担の転嫁が進み、将来の経済環境の悪化懸念から、現在の経済の潜在力にも悪影響が及ぶだろう。こうしたコストも踏まえて、給付増加を伴う児童手当の見直しを議論する必要がある。

図表 児童手当制度の概要

制度見直しで児童手当予算が3倍になる可能性も

岸田政権が掲げる異次元の少子化対策では、子ども手当の見直しが最大の目玉となり、また倍増を目指す子ども関連予算の中でも、最も多くの予算積み増しがなされる分野になると考えられる。

共同通信が報じたところによると、政府は、1)多子世帯について第2子以降の増額、2)支給対象年齢を高校生までに引き上げ、3)所得制限を撤廃し、すべての子どもを支給対象とする、などを検討しており、それぞれのケースで新たに必要となる予算の試算をしている。それによると、1)のケースについては、自民党内に第2子を3万円、第3子を6万円とする案などがある。これが適用されれば、新たに最大で3兆円が必要となる。また2)については約4,000億円、3)の所得制限撤廃については約1,500億円が必要と試算される。

ただし、3)の所得制限撤廃で約1,500億円の追加予算が必要との試算は、現在の制度が前提であるとみられる。仮に、1)、2)の制度変更がそれぞれ実現したうえで、所得制限が撤廃されれば、その分、4,000億円程度の追加の予算が必要となると概算される。その場合、児童手当の予算は、2022年度の約2.0兆円から5.8兆円へと一気に3倍近くにまで膨れ上がる。

過去の検証を踏まえ、知恵を絞って最大限効果的な「異次元の少子化対策」を

岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」も、現在までの議論を見る限り、ほぼ給付の拡大であり、既存の制度の延長線上に留まる。給付を拡大させることで、どの程度出生率を引き上げることができるかについては、過去の施策も再検証して、慎重に検討してみる必要があるだろう(コラム「異次元の少子化対策とはいったい何か」、2023年1月11日、「異次元の少子化対策が柱となる岸田首相の施政方針演説」、2023年1月19日)。

人口1,000人に対する婚姻数の割合を示す婚姻率は、1971年の10.5をピークに2021年の4.1まで一貫して低下している。このことも出生率低下の背景であり、既婚者の出生率を引き上げるための給付拡大措置だけでは、出生率全体に与える効果は限られるのではないか。

婚姻率低下の背景には、個人の婚姻に対する考え方の変化以外に、労働環境の悪化など経済的要因があるとみられ、その点は政策対応を進めるべきではないか。さらに、婚外子の権利向上を図ることで、予算を積み増さずに、未婚者の出生率を高めることも可能だろう。

少子化対策は、安易に給付を拡大させるのではなく、コストと効果のバランスを慎重に検討し、効率性の高い政策を是非選び取って欲しいところだ。

(参考資料)
「児童手当拡充 第2子以降増「2兆~3兆円」 新たに必要 政府試算 対象年齢上げ、所得制限撤廃も検討」、2023年1月22日、静岡新聞

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