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FRB利上げ停止のタイミング:日本銀行の正常化策も左右

2023/02/01

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FOMCでは0.25%の利上げの可能性が高い

米連邦準備制度理事会(FRB)は2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利上げを決める可能性が高い。利上げ幅の縮小は、昨年12月のFOMCに続いて2会合連続となる。これは、昨年3月以来の急速な利上げが終わりに近づいてきたことを示唆しているだろう。

次の3月21日・22日のFOMCでも0.25%の利上げが実施された後、5月2日・3日のFOMCでは利上げが見送られる可能性が出てきた。12月に公表されたFOMC参加者の見通しでは、政策金利は2023年中に5.0%~5.25%でピークをつける、との見通しが最も多かった。仮に、2月、3月のFOMCで0.25%の利上げが実施され、5月の会合で利上げが見送られれば、FF金利のターミナルレート(最終着地金利)は4.75%~5.0%と、FOMCの見通しを幾分下回ることになる。

過去数か月の間に発表された物価指標は、いずれも物価上昇圧力が後退してきていることを示している。1月31日に公表された2022年10-12月期の雇用コスト指数は、前期比+1.0%と前期の同+1.2%から鈍化し、また事前予想の同+1.1%を下回った。統計開始以来の最高水準となった2022年1〜3月の前期比+1.4%から3四半期連続で上昇率は低下している。

この統計を受けて、金融市場は2月1日のFOMCでの利上げ幅が0.25%にさらに縮小することをほぼ確信しただろう。

FRBはPCE価格指数の6か月前比年率に注目か

物価の基調を判断する際に、FRBが最も注目してきたのが、コアPCE(個人消費支出)価格指数(除く食料・エネルギー)である。12月のコアPCE価格指数は前年同月比で+4.4%と、FRBの物価目標である+2%を依然として大きく上回っている。しかし、前年同月比上昇率は遅効性があり、足元の変化を捉える指標としては必ずしも適切ではない。

そこで、3か月前比年率、6か月前比年率などが注目されるが、FRB内ではコアPCE価格指数の3か月前比年率の数値に注目するか、あるいは6か月前比年率に注目するか、で議論が起こっているようだ。

12月のPCE価格指数は、3か月前比年率で+2.2%と、FRBの目標値である2%にかなり接近している。この点を重視すれば、FRBは既に利上げを停止するのが適当、との判断となる。しかし、3か月間の変化だけでは十分信頼性が高いとは言えないことから、6か月前比年率を重視する意見もFRB内にはある。6か月前比年率でみたPCE価格指数は、+3.7%とまだ高いのである。

6か月前比年率を重視していることを明言しているのが、ウォーラー理事であるが、それがFRB内でのコンセンサスではないかと考えられる。過去3か月の物価上昇率がそのまま維持されれば、3か月後、つまり3月分の数字では6か月前比年率もFRBの目標値である2%に近づく。3月分の数字が公表されるのは4月下旬であり、それを受けてFRBが利上げの打ち止めを決めるとすれば、5月のFOMCとなる。

FRBは年内利下げの可能性も

物価上昇率が目標値まで低下することが確認できれば、このようにFRBは利上げを見合わせるだろう。ただし、利下げに転じるには、物価上昇率が目標値を明確に下回るとの見通しが浮上し、また景気の減速感が一段と強まることが必要だろう。それは現時点ではまだ見えていない。

ただし、FRBの強い物価警戒感が、金融政策の転換を遅らせ、それが景気の下振れリスクを高める可能性が考えられる。

既に実質政策金利(政策金利-10年物価上昇率見通し)がリーマンショック前の3%まで上昇してきており、この先、景気減速を受けて物価上昇率見通しが下振れれば、実質政策金利はさらに上昇し、景気に打撃を与えるだろう。そうなれば、年後半のFRBの利下げの可能性も出てくる(コラム「世界経済は本格的な景気後退入りを免れるか:IMFは23年成長率見通しを上方修正」、2023年1月31日)。

FRBは年内の利下げの可能性を否定しているが、金融市場では年後半に0.25%~0.5%の小幅な利下げを予想している。

FRBの政策が日本銀行の正常化策を大きく左右

ところで、日本銀行は、早ければ4月の会合においても、2%の物価目標を中長期の目標にするなどの修正を行い、高過ぎる物価目標の強い制約から解放されてより柔軟な政策を行う方針を明らかにする可能性がある。ただし、それに続いて、マイナス金利政策の解除、イールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃などの正常化策に踏み切れるかどうかは、経済、金融市場の環境次第である。

仮にFRBが年内は利下げを実施しなくても、金融市場で利下げ観測が強まる状況であれば、日本銀行は正常化策の実施を先送りするだろう。そうした環境の下でマイナス金利解除などを無理に実施すれば、急速な円高が生じ、それが株安を誘発する形で国内経済に強い逆風となってしまう。新総裁の下で、日本銀行は金融市場や金融機関への影響を十分に配慮して政策修正を行うという伝統的な姿勢を10年ぶりに取り戻すのではないかとみられる。

日本銀行が年内に金融政策をどの程度見直し、正常化を進めることができるかは、内外経済、為替動向、そしてFRBの政策姿勢に大きく左右されるのである。

(参考資料)
"Fed Points Toward a Pause in May After Run of Hikes Sinks In", Bloomberg, January 31, 2023

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