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一段と鮮明となるFRB利上げ姿勢の変化:利下げ時期を巡るFRBと金融市場の戦いは続く

2023/02/02

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パウエル議長はなお複数回の利上げを示唆したが

米連邦準備制度理事会(FRB)は2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方の予想通りに0.25%の利上げを決定した。この結果、政策金利は4.50%~4.75%となった。

昨年12月のFOMCで利上げ幅をそれ以前の0.75%から0.5%に縮小したのに続き、2会合連続での縮小となった。昨年11月のFOMCまでは4会合連続で0.75%の大幅な利上げを実施していたことを踏まえると、FRBの利上げには急ブレーキがかかってきており、政策姿勢の変化は明らかである。

利上げペースが2会合連続で縮小した背景には、物価上昇率の鈍化傾向がある。声明文では「インフレは幾分和らいだ」と説明された。ただし、「依然として高水準にある」として、物価高に関して警戒心を解いていないことも強調されている。

さらに、「継続的な誘導目標レンジ引き上げが適切になると見込む」として、次回3月のFOMCでの追加利上げ実施を明確に示唆した。パウエル議長は記者会見で、なお複数回(a couple)の利上げが必要になるとして、3月の次回FOMCのみならず、その次の5月FOMCまで利上げを継続する可能性を示唆した。

3月のFOMCの政策金利見通しが重要に

3月と5月にそれぞれ0.25%の利上げを行う場合、政策金利は5.0%~5.25%となる。これは、昨年12月のFOMCで示された2023年末時点での政策金利の水準の予想の中央値と一致する。なお複数回の利上げが必要とのパウエル議長の説明は、このFOMC参加者の最新の見通しを踏まえたものだろう。しかし、それは修正されうる。

パウエル議長は「昨年12月時点で政策金利のピークの見通しの中央値は5〜5.25%としていた。今年3月の会合でその水準を改定する。3月までのデータを踏まえ、必要であればその水準をさらに引き上げる可能性もある。また、その逆もある」とした。

3月のFOMCで利上げが打ち止めになる場合には、3月の政策金利見通しでそれが示唆される可能性が高いだろう。議長は3月の経済・政策金利の見通し改定の重要性を強調しているように見受けられた。3月の次回FOMCでは、0.25%の追加利上げが金融市場のコンセンサスとなっているが、政策決定よりもFOMCの見通しがより重要になってくるだろう。

ディスインフレのプロセスが始まった

パウエル議長は、物価高への警戒を弱めていないとの姿勢を強調したが、他方で、金融市場が予想以上にハト派的な発言と捉えたのは、「初めてディスインフレのプロセスが始まったといえる」と述べた点だ。これを受けて、米国の長期金利は低下し、為替市場では128円台まで円高ドル安が進んだのである。

金融市場は3月のFOMCで0.25%の利上げが実施された後、先行きの金利見通しをさらに引き下げ、追加利上げは見送られるとの見方を織り込んでいる。さらに、年後半には合計で0.5%の利下げ実施を織り込んでいる。パウエル議長の「なお複数回の利上げが必要」との発言や年内は利下げを実施しないとの説明を無視しており、金融市場はFRBの見通しに挑んでいる。

コアPCE(個人消費)価格指数の6か月前比年率に注目か

ただし、こうした金融市場の見通しにはそれなりの勝算があるのではないか。パウエル議長は、足元の物価上昇率の低下は財価格の下落によるものである一方、賃金上昇の影響を大きく受けるサービス価格の上昇圧力は依然強い点を強調している。FRBが重視するコアPCE(個人消費)価格指数(除く食料・エネルギー)は、最新12月の3か月前比年率で見ると+2.2%と、FRBの目標値である2%にかなり接近している。しかし、パウエル議長を含めFOMCの参加者は、6か月前比年率を重視しているとみられる。それは同+3.7%とまだ高い(コラム「FRB利上げ停止のタイミング:日本銀行の正常化策も左右」、2023年2月1日)。

ただし、過去3か月のPCE価格指数の上昇ペースが向こう3か月維持されれば、3月分のPCE価格指数では、6か月前比年率も+2%程度にまで低下する。3月分の指数が発表されるのは4月下旬であることから、それを受けて、5月のFOMCでは追加利上げを見送る可能性が考えられるところだ。

FRBの年内利下げ観測は4月以降の日本銀行の政策にも大きな影響

パウエル議長は、金融引き締めによる景気後退のリスクを図る際に、FRBが重視しているのは短期金利と財務省証券18か月金利との格差である、と説明していた。これが逆転し、逆イールドとなれば、近い将来の景気後退の兆候であると議長は説明していたのである。今回の利上げにより、政策金利は4.50%~4.75%と財務省証券18か月金利の4.3%程度を初めて上回った。

こうした状況を踏まえれば、FRBが3月の次回FOMCで0.25%の利上げに動いたのち、5月のFOMCでは追加利上げを見送る可能性は相応にある。さらに、景気減速の兆候が広がれば、年後半に小幅利下げを実施する可能性はあるだろう。

次回3月のFOMCを受けて、利上げ打ち止めの見通しと、早期利下げの観測が同時に広がり、一段と円高ドル安が進む可能性が考えられる。

こうしてFRBの利下げ観測が強まる場合には、日本銀行が新総裁の下で、4月以降にマイナス金利を解除するといった正常化策を一気に進める可能性は低くなる。

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