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日銀次期総裁人事で政府が雨宮副総裁に打診との報道

2023/02/06

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雨宮副総裁の政策姿勢は黒田総裁と比べれば大幅緩和に慎重

6日の日本経済新聞電子版は、政府が日本銀行の黒田総裁の後任人事について、雨宮副総裁に就任を打診したことが5日わかった、と報じている。この報道の真偽や雨宮副総裁が実際に就任を受け入れるのかどうかについてはまだ明らかではないが、現職の雨宮副総裁は次期総裁の最有力候補であったことから、意外感はない。

この報道を受けて6日のシドニー外国為替市場では、円は1ドル132円台と1円程度円安が進んだ。雨宮副総裁が総裁となれば、金融緩和が維持される、あるいは正常化が大きく進まない、との観測があるのだろう。

しかし実際には、雨宮新総裁あるいは他の新総裁のもとでも、金融政策の柔軟化、正常化は進むと考えられる。政策の修正は、事務方主導で進められることが予想され、その際に、日本銀行出身の総裁であれば、より一体で円滑に進めやすいだろう。

副総裁経験者で総裁候補に名前が挙がっていた中曽前副総裁、山口元副総裁と比べれば、雨宮副総裁は、金融緩和にやや積極的と言えるだろうが、黒田総裁と比べればかなり慎重であり、その差と比べれば他の2人の候補との政策姿勢の差は小さいといえるだろう。

「事実上の正常化」ともいえる柔軟化策、副作用対策は既に事務方主導で進められてきた

黒田総裁が主導した積極緩和策は、2016年2月のマイナス金利政策導入までと考えられる。2016年9月に導入したイールドカーブ・コントロール(YCC)は、マイナス金利導入が生じさせた長期金利の大幅低下傾向を食い止め、金融機関の収益を安定化させる狙いと、目標を量から金利に変えることで、国債買い入れの量を抑える狙いがあったと考えられる。2021年3月に実施された金融緩和の点検も、狙いは長期化する異例の金融緩和の副作用を軽減することにあったと考えられる。

黒田総裁のもとでも、「事実上の正常化」ともいえる柔軟化策、副作用対策は既に事務方主導で進められてきたのである。金融政策運営に与える事務方の影響力は、一般に考えられているよりもずっと大きいといえる。

総裁が変われば、事務方は「事実上の正常化」を進めるのではなく、政策方針の転換の考えを明確に示して「明示的な正常化」を進めることができる。黒田総裁のもとでも、彼らはそれを長らく狙っていたのではないか。

本格的な正常化には直ぐには着手しない可能性

2%の物価目標を中期目標などに修正し、より柔軟な金融政策運営を行うことができるような環境を整えることは、4月の会合以降、比較的早期に行われるとみておきたい。YCCの一段の柔軟化も考えられる。しかし、YCC廃止、マイナス金利解除などの本格的な正常化策には直ぐには着手しないだろう。

早期に正常化策が進むとの観測が金融市場に広がれば、円高が急速に進み、経済に打撃となる可能性が出てくる。新総裁も当初は、総裁交代によって金融政策が大きく変わることはない、という点をことさら強調する可能性があるだろう。

政策修正は金融市場や金融機関に十分配慮して慎重に進めるという日本銀行の伝統的な姿勢が、10年ぶりに復活するだろう。YCC廃止、マイナス金利解除などの本格的な正常化策の実施は、2024年半ば以降になることが予想される。

それでも、総裁の交代は、金融政策が柔軟化、正常化に修正される大きな転換点となる可能性が高い。

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