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世界の金融市場に広がるインドのアダニ・ショック

2023/02/08

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不正疑惑でアダニ・グループの株価は急落

インドの巨大コングロマリットであるアダニ・グループの株価が急落している。富豪のアダニ氏が所有し、アダニという名称でインドに上場している7社には、送電、グリーンエネルギー、港湾運営会社、セメント生産会社、空港運営会社、炭鉱会社、デジタルマーケティング会社があり、まさにコングロマリットの名に相応しい。アダニ・グループはここ数年で負債を大幅に増やしつつ、事業を拡大させてきた。それを主に支えてきたのはグローバル投資家である。

ところが、アダニ・グループが公募増資に伴う24億ドル(約3,100億円)の株式売り出しを行う直前に、米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが報告書を公表して以降、アダニ氏の純資産は約40%も激減した。そして2月1日には、公募増資は撤回に追い込まれたのである。

ヒンデンブルグ・リサーチは、事業に虚偽があったり、投資家を誤認させたりしていると判断される企業を見つけ出し、その株式をショートして稼ぐ。2020年に電気自動車(EV)メーカー、ニコラの疑惑を告発し、株価を急落させたことで良く知られている。

ヒンデンブルグ・リサーチの創業者、ネーサン・アンダーソン氏は1月24日に、「恥知らずな株価操作と不正会計」を行っているとして、アダニ・グループを非難する報告書を公表したのである。そこでは、アダニ・グループが多数のダミー会社を使って株価を実態以上に膨らませるとともに、一般投資家の保有比率を最低でも25%とするインドの株式保有規則を破ったと主張している。アダニ・グループはこれまでのところ、不正を一切否定している。

海外投資家がアダニ・グループの株式、社債を敬遠

外国人投資家は近年、アダニ・グループの拡大の資金調達で大きな役割を果たすようになっていた。CLSAの推計によると、主要傘下企業5社の負債総額に占める外貨建て債券の割合は29%である。しかし、近年については、2019年度から2022年度の負債増加分の49%が外貨建て債券によるものであり、海外からの資金調達への依存度が高まっている。

不正疑惑が浮上した後、外国人投資家はアダニ・グループの株式を売却し、同社債を敬遠するようになった。社債価格の急落を受けて、スイス金融大手クレディ・スイス・グループや米シティグループが、プライベートバンク部門で証券担保ローンの担保にアダニ・グループの証券を受け入れなくなったと報じられた。世界の証券市場への影響が広まっている。

インド市場全体の信頼性を損ねる事態に発展も

不正疑惑問題は、グローバルな投資家に影響を与えているのみならず、インドの金融システム上の問題も浮上させている。アダニ・グループの一部は、財務がより健全なグループ企業の株式を借り入れの担保としている。こうした株式の価値は既に急落しており、貸し手から追加の担保を要求される事態も起こり得る状況だ。

中央銀行のインド準備銀行は国内銀行に対して、アダニ・グループへの融資状況を説明するよう求めたと報じられた。アダニ・グループのドル建て債券の償還も近づいている。仮にアダニ・グループに債務不履行などが生じれば、それは国内銀行の不良債権の拡大につながり、金融システムの安定を損いかねない。

ロイターの報道によると、インドの市場規制当局はアダニ・グループの疑惑を調査中だ。アダニ・グループの債務の大部分を保有する外国人投資家は、規制当局が疑惑を徹底的に調査したと確信するまでは、新たな資金の提供を控えるだろう。

仮にアダニ・グループあるいは当局が、不正疑惑を晴らすことができない場合には、アダニ・グループのみならず、インドの証券市場全体の信頼低下につながるのではないか。世界で権威主義と民主主義の分断化が進む中、2023年年初に人口で中国を追い抜いたとされるインドに、生産拠点や投資先で中国に代わる存在になるとの期待が、先進諸国に強まっている。

アダニ・グループの不正問題の行方は、そうした期待を一気に冷やしてしまう可能性を秘めているだろう。

(参考資料)
"Adani Crisis: How a Short Seller Wiped Out Billions in Wealth From One of India's Richest Men(空売り投資会社の報告書受け、時価総額13兆円が吹き飛んだ経緯は)", Wall Street Journal, February 3, 2023
"Adani Group's Moment of Truth(印アダニ、うたげの後の正念場)", Wall Street Journal, February 3, 2023
"Adani Group Saga Is Credibility Test for India's Markets, Institutions(アダニ不正会計疑惑、試されるインド市場の信頼)", Wall Street Journal, January 31, 2023
「インド市場、未熟と成熟 アダニ・ショックと現実的予算」、2023年2月4日、日本経済新聞電子版

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