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年明け後一気に苦境が強まるロシアの経済・財政環境

2023/02/15

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ルーブルが再び下落へ

年明け後に、世界経済の先行きにはやや楽観的な見方が浮上している。米国でインフレ率が低下傾向を辿っていること、中国がゼロコロナ政策を撤回したこと、欧州が予想外の暖冬で冬季の深刻なエネルギー不足を回避できる見込みとなったこと、などがその背景にある。

それとは逆に、年明け後ににわかに厳しさを増しているのがロシアの経済と財政である。2022年のロシアの成長率は、最新の国際通貨基金(IMF)の見通しでは-2.3%とマイナスとなったが、当初は2桁のマイナス成長の見通しも少なくなかったことを踏まえると、予想外に安定を維持したと言えるだろう。原油、天然ガスなどエネルギーを高い価格で輸出できたことが背景にある。そのため、欧米諸国の対ロ制裁が効いていないとの指摘もなされてきた。

1年前のロシアによるウクライナ侵攻直後に、ロシアの通貨ルーブルは大幅に下落し、その後ほどなくして予想外の回復を見せた。ところが足元でルーブルは再び下落傾向を鮮明にしている。足元では昨年の4月下旬以来の低い水準にある。これは、ロシア経済の悪化と財政の悪化を受けたものだろう。

1月の財政赤字は急拡大

ロシア財務省が2月6日に発表した1月の財政収支(速報値)は、赤字額が1兆7,600億ルーブル(約250億ドル)に拡大した。歳入は前年同月比35%減の1兆3,560億ルーブルだった。これは、財政収入の4割を占める石油・ガス収入が同46%減と大きく減少したことによる。財務省は、原油価格の低下と天然ガスの輸出減が影響したと説明している。

他方で、1月の歳出は約3.1兆ルーブルと、同+59%の急増となった。ウクライナ侵攻に伴う戦費拡大がその主因である可能性が高い。歳出額が歳入額を大きく上回った結果、1月の財政赤字は1兆7,600億ルーブルと巨額となった。財政赤字は2か月連続である。さらに1月単月の赤字額は、2022年の年間財政赤字額である約3.3兆ルーブルの5割以上に達した。さらに、2023年の年間財政赤字額見通しの約6割に達したのである。

ロシア産原油輸出価格の上限設定という制裁措置が予想外に影響か

1月の石油・ガス収入が同46%減と大きく減少した背景には、先進国が12月5日に導入したロシア産原油価格の上限設定と欧州でのロシア産原油輸入の原則禁止措置、およびロシア産天然ガスの輸入大幅減少の影響があった。

ロシア産原油価格の上限設定によって、先進国以外の国も対ロ制裁に事実上巻き込まれることになった。この制裁措置に違反することを恐れた新興国が、ロシアからの原油輸入を控えた可能性がある。他方でロシアは、原油の輸出先を引き続きインドや中国に振り向けたが、その過程では、ロシアの価格交渉力が弱まり輸出価格を大幅に割り引くことを強いられたとみられる。

WTI原油先物価格は、現在1バレル78ドル程度と、先進国が昨年12月5日にロシア産原油輸出価格に60ドルの上限を設定した時点からあまり変わっていない。ところがロシア産原油の指標となるウラル原油価格は、当時の1バレル約60ドルから、1月平均では1バレル約49.5ドルと50ドルを割り込んだ。一時は46ドル台まで下落したのである。その後も、上限価格を大きく下回る水準が続いている。

ブレントとウラル原油のスプレッド(価格差)は1バレル35〜40ドルと、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始前に比べ10倍にまで広がった。これは、輸出先から大幅値引きを強いられた結果であり、それがロシアの経済、財政を苦境に陥れているのである。この点から、ロシア産原油の輸出価格上限設定という先進国の対ロ制裁措置は、予想外の打撃をロシアに与えることになった、と言えるのではないか。

財政赤字穴埋めの基金も6か月強で底をつく計算に

ロシア政府は財政赤字を穴埋めするため、国内での国債発行による資金調達を進めるとともに、エネルギー輸出の余剰収益を積み上げてきた「露国民福祉基金」を取り崩している。1月には同基金が保有する金約3.6トンや中国の人民元を売却した。同基金からの金の売却は初めてのことだという。一方、タス通信によると、2月1日時点の同基金の資産残高は約11兆ルーブルである。

財政赤字が続く中でも、当面のところは、ロシア政府はこの基金を取り崩すことで戦争を継続することが可能だろう。ところで、1兆7,600億ルーブルという1月の財政赤字拡大は、予定した支出を前倒しで実施したためとロシア財務省は説明しているが、仮にこの赤字の水準がこの先も続く場合には、同基金も6か月強で底をつく計算となる。

ルーブル安、物価高阻止の利上げで経済が悪化するリスクが再び

ロシア中央銀行は2月10日に、政策金利を7.50%に据え置くと決定した。他方で、財政赤字が一段と拡大すれば利上げを余儀なくされると警告した。ロシア中銀は、財政赤字の拡大、労働力不足、ルーブル安がインフレリスクにつながるとし、年内には利上げが必要になる可能性があると表明している。

軍事費を増加させる中での財政赤字の拡大は、ロシアが国内の生産を政府の軍事関連品により振り向けることを意味する。そして、軍事関連品の生産の増加は民生品の生産を減少させ、国民の間では深刻な物不足とそれによるインフレを生じさせる可能性がある。これがルーブル安による物価高と結び付けば、深刻なハイパーインフレが生じ得るだろう。

2月6日時点の消費者物価上昇率は前年比で+11.8%と二桁に達している。1月月中平均の物価上昇率は、昨年4月以来の水準に達した。この先、財政赤字の拡大が進み、それが一段のルーブル安を誘発すれば、ロシア中央銀行は、国内経済を犠牲にする形でインフレ抑制のための金融引き締めに踏み切ることを強いられるだろう。それは、ロシアが1年前のウクライナ侵攻直後の状況に戻ることを意味する。

ウクライナ侵攻から1年を経て、先進国による対ロ制裁の影響などから、ロシア経済、財政の環境は足元でにわかに悪化している。ロシアもいよいよ正念場を迎えていると言える。

(参考資料)
「ロシア中銀、金利据え置き 財政赤字拡大なら利上げと警告」、ロイター通信ニュース、2023年2月10日
「ロシア、財政悪化一段と 1月、原油安で収入減・戦費で支出6割増」、2023年2月8日、日本経済新聞
「露、財政赤字が拡大 3兆円、前年同月比14倍 1月」、2023年2月8日、産経新聞
「揺れるルーブル相場、対ロ制裁強化の影響は(1)」、2023年1月20、ダウ・ジョーンズ新興市場・欧州関連ニュース
「ロシア原油のさらなる下落、23年の財政を圧迫へ」、2023年1月23日、フィナンシャルタイムズ

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