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米国CPIショック再び:植田日銀の金融緩和見直しにも影響か

2023/02/15

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米国物価上昇率の低下ペースが鈍る

2月14日に発表された1月分米国CPIは、事前予想を上回る前月比+0.5%の上昇となり、インフレ抑制のために米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが長引く、との見方が金融市場で強まった。米国市場ではドル高、株安が生じており、米国CPIショックが繰り返された形である。

1月のCPIが事前予想を上回る上昇率となった主因は、ガソリンなどのエネルギー価格が3か月ぶりに上昇に転じたことにある。変動の激しい食料、エネルギーを除くコアCPIは、前月比+0.4%と前月と変わらない。低下傾向を辿ってきた基調的な物価上昇率のトレンドが反転したとの証拠はないのである。

ただし、物価上昇率の低下ペースが鈍ってきた可能性を示唆していると考えられるだろう。食料・エネルギーを除く財コア指数は、1月に前月比+0.1%と5か月ぶりに前月比で上昇した。1月は衣料品などの価格上昇が目立った。また、食料・エネルギーを除く財サービス指数は前月比+0.5%と、高めの上昇率が続いている。家賃や輸送サービス価格などに高い上昇率がみられる。

FRBはコアCPI、コアPCE(個人消費)価格指数の6か月前比年率の数字に注目しており、それが物価目標の2%程度にまで落ち着くことが見えてくれば、利上げを停止することが見込まれる。昨年12月にはコアCPIの3か月前比年率は+2.3%と2%の物価目標値に近づき、6か月前比年率も+3.7%と、昨年6月の同+7.7%から順調に低下してきていた。しかし1月には、それぞれ+3.6%、+4.3%と上昇に転じてしまったのである。

金融市場で年後半の利下げに懐疑的な見方

金融市場は従来、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが打ち止めとなる可能性を織り込んでいたが、12月の雇用統計が予想以上に強かったことを受けて、5月まで利上げが続く可能性を織り込み始めた。ところが、1月分CPIが事前予想を上回ったことを受けて、5月までの利上げ継続をほぼ織り込み、さらに6月の利上げの可能性も織り込み始めたのである。現時点では、政策金利であるFF金利のピーク、いわゆるターミナルレートを5.0%~5.25%と5.25%~5.5%の中間程度で市場は織り込んでいる状況だ。

さらに、金融市場は今年後半の利下げの可能性を織り込んでいたが、CPI発表後にはこの見方が揺らいでいる。従来は年後半に合計で0.5%の利下げを織り込んでいたが、現状では0.25%の利下げを6割程度の確率で織り込むところまで後退している。こうした見方が、円安ドル高が進んだ背景ともなっている。

FRBの政策見通しは植田日銀の金融緩和見直しにも大きな影響

先行きのFRBの金融政策の見通しは、4月に就任する予定の植田新総裁の政策にも大きな影響を与える。植田新総裁は金融緩和状態は維持しながらも、異例の金融緩和について、その副作用の軽減を狙って見直しを進めることが予想される。イールドカーブ・コントロール(YCC)の大幅見直しと2%の物価目標の中長期目標化などの見直しは、4月の就任から比較的時間を置かずに実施することが予想されるところだ。

しかし、それに続くマイナス金利政策の解除、YCC撤廃、国債保有残高の削減などをどのタイミングで実施するかは、内外経済や為替など金融市場環境などに左右されるだろう。とりわけ重要なのは、FRBの金融政策である。FRBの利下げ観測が金融市場に広がる中では、急激な円高を招く恐れがあることから、日本銀行はマイナス金利解除などの本格的な政策見直しを控えるだろう。

筆者は今後米国経済の減速傾向がさらに明確になり、少なくともFRBの利上げ観測が今年後半に金融市場で強まることを前提に、マイナス金利解除などの本格的な政策見直しは来年後半以降にずれ込む、との見通しをメインシナリオとしている。

ただし、米国経済の予想外の堅調、物価上昇率の予想外の上振れが生じれば、FRBの利上げがより長期化する可能性がある。それは、いずれは米国経済の更なる下振れにつながるものと考えられる。しかし、FRBの利下げ観測の浮上が後ずれすれば、日本銀行の本格的な政策見直しの時期が前倒しされるリスクが高まる可能性がある点には留意しておきたい。

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