フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日銀新体制の課題⑥:ETF購入策に出口はあるか①

日銀新体制の課題⑥:ETF購入策に出口はあるか①

2023/02/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

変質したETF購入の狙い

4月から始まる日本銀行の植田新体制のもとでは、金融緩和の枠組みの見直しが大きな課題であり、実際、それは進められていくことが予想される。

植田新総裁は、黒田路線を全否定するのではなく、個々の政策の効果と副作用を論理的に分析し、そのうえで副作用軽減に必要な修正を段階的に施していく、といったアプローチをとるのではないか。

その対象の一つが、上場投資信託(ETF)買い入れスキームであろう。現在開かれている衆院予算委員会でも、日本銀行が大量にETFを買い入れていることの問題点が政府と野党との間で激しく議論されている。

日本銀行のETF買い入れ策は、白川前総裁が導入したものであるが、当初の狙いは、リスクプレミアムの正常化を通じて株式市場の機能回復を支援することにあった。ところが黒田総裁にもとでは、直接株価を押し上げることを通じて、経済、物価に好影響を生じさせることに、政策の狙いは変質していったのである。

ETF購入は株価市場を支えてきたか?

日本銀行のETF買入れが、果たして株価を押し上げてきたかどうかについては、はっきりしない。日本銀行は毎日漫然とETFを買入れるのではなく、株価が下がる局面で買入れてきた。そのため、一日単位でみれば、株価下落に一定の歯止めとなった可能性はあるだろう。しかし、株価のトレンドを押し上げていることを示すはっきりとした証拠はない。

価格変動リスクの大きい株式、ETFを買入れている中央銀行は、他の主要国には見当たらない。それでは、日本銀行が株式を大量に買入れている日本の株価が、2010年のETF買い入れ開始以降、米国や欧州などと比べて大きく上昇したかというと、そうではない。2009年末から2022年末までの間に、米国のダウ平均株価指数は2.84倍にまで上昇したが、日経平均株価指数は2.47倍とそれを上回ってはいない。株価は様々な要因によって決まるが、少なくとも日本銀行のETF買入れが株価押し上げに絶大な影響を与えた訳ではないことをこの数字は示しているだろう。

株式市場は、企業価値を反映する妥当な株価水準を念頭に置いて、利益を上げることを狙って売り買いする多くの投資家によって成り立っている。自身が考える妥当な株価水準よりも高いと思う投資家は株式を売り、安いと思う投資家は株式を買う。その結果、妥当な株価水準のコンセンサスで株価が決まるのである。

ところが日本銀行は、妥当な株価水準を考えず、また利益を上げることを考えずにETFを買入れる、例外的な投資家だ。そうした行動が、多くの投資家が妥当と考える水準から株価を上方に乖離させることは考えられるところだ。

日本銀行の買入れによる株価押し上げ効果は打ち消される

ただし、日本銀行によるETF買入れが市場の流動性を低下させるなど、株式市場を歪めリスクを高めていると考える投資家は、その分、妥当と考える株価の水準を切り下げるだろう。そうした投資家が増えれば、日本銀行のETF買入れによる株価押し上げ効果を打ち消してしまうかもしれない。

日本銀行のETF買入れによる株式市場への影響力が大きくないことの説明として、あと2点考えられる。第1は、株式市場全体と比べて、日本銀行が保有するETFの規模が、それほど大きくないことだ。20223月末時点で、東証時価総額730.4兆円に対して日本銀行のETF保有額(時価)は51.3兆円で、その比率は7.0に過ぎない。日本銀行はETF市場では大きなプレーヤーだが、株式市場全体の中ではそうとは言えない。そのため、ETF買入れによる株式市場への影響力は必ずしも大きくはないと考えられるのである。

個人が株式投資を控える要因にも

第2は、日本銀行がETFを買入れている分、個人が株式投資を減らし、その結果、日本銀行のETF買入れによる株式市場への影響を相殺する可能性があるということだ。日本銀行は、その収益の大半を政府の歳入となる国庫納付金として政府に収めている。株価が下がって日本銀行が保有するETFに評価損が発生すると、日本銀行は引き当てを行い、その分経常利益が減り、国庫納付金を減らすことになる。その穴埋めは、増税、歳出削減など国民の負担となる。こうして日本銀行のETF買入れによる株価下落のリスクは、実は個人が負担していると考えられるのである。

そのため、日本銀行がETF買入れを拡大すると、その分個人は、自らが保有する株式の比率を下げて、リスクを抑える行動に出る可能性がある。それも、日本銀行のETF買入れによる株価押し上げ効果を打ち消してしまうだろう。

このように、日本銀行がETFを買い入れることで、株価が上昇し、それが経済・物価に好影響を与えて2%の物価目標達成を助けるという経路は、かなり不確実なものだ。ETF買い入れの効果については、このような評価が可能である。次のコラムでは、ETF買い入れの副作用について検討したい。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn