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日銀新体制の課題⑦:ETF購入策に出口はあるか②:日経平均1万4千円で債務超過に

2023/02/17

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問題山積の日本銀行のETF買入れ策

日本銀行のETF買入れが日本の株式市場に与える好影響については、はっきりしない(コラム「日銀新体制の課題⑥:ETF購入策に出口はあるか①」、2023年2月16日)。その一方で、その弊害、副作用については明確だと考えられる。それは大きく分けて、①市場機能を低下させること、②日本銀行の中立性を損ねること、③日本銀行の財務のリスクを高めること、の3点である。

第1の市場機能を低下させる弊害については、日本銀行のETF買入れの影響で、株価がファンダメンタルズ(基礎的経済条件)に基づく理論値から乖離し続ける場合、市場機能、特に価格発見機能が著しく損なわれる可能性が高まる点が指摘できる。

価格発見機能とは、理論値から外れた価格を、迅速に修正する市場の力のことを言う。日本銀行のETF買入れによって理論値が分からなくなれば、価格は安定をとり戻さずにいつまでも変動を続けてしまうことになる。こうして価格発見機能の低下は価格変動リスクを高め、投資家が株式投資を控える要因にもなるだろう。そして、そのことが、取引を細らせて市場の流動性を低下させるのである。さらにそれが、価格変動リスクを高めるという悪循環に陥る可能性がある。

日本銀行がETFを多く買入れることで、株式の個別銘柄が企業収益等それぞれのファンダメンタルズを反映しなくなった、との指摘も多く聞かれる。その結果、投資家が個別銘柄の調査・分析に基づく株式投資(アクティブ運用)から撤退し、株式の取引量が減少した可能性がある。これもまた、市場流動性を低下させる要因である。

第2の中立性の問題については、まず中央銀行の金融政策は、民間銀行を通じてすべての国民や企業に効果を及ぼす、中立な形で行われることが求められる。一部企業を利するような政策は認められないのが大原則だ。そこで、日銀は個別株式の買入れではなく株価指数に価格が連動するETFを買入れ対象とすることで、買入れの影響が個々の銘柄の価格にできるだけ中立的になるように工夫した。しかしそれでも、中立性は十分に保たれない。ETFの買入れ対象となる銘柄は、株式市場全体から見ればごく一部であり、買入れが特定企業を利するという面は否めないからだ。

日経平均が1万4千円まで下がると日本銀行は債務超過に陥る計算に

第3に、ETFの買入れは、日銀の財務のリスクを大きく高める。日銀が保有するETFの時価が簿価を下回ると、財務の健全性を維持する観点から、その分、引き当てを積むことが求められ、経常利益が悪化する。

日本経済研究センターによると、2022年11月末時点で、日本銀行が保有するETFの損益分岐点は、日経平均株価で2万程度と推定される。この先日経平均がETFの損益分岐点である2万円からちょうど30%下落し、1万4千円以下まで下落すると、現時点(2月10日)の11.1兆円の自己資本が失われ、日本銀行が債務超過に陥る計算となる。日経平均で1万4千円は、10年前に現在の異例の金融緩和策を始めたころの水準だ。

そこまで株価が下落しなくても、日本銀行が経常赤字となれば、政府への国庫納付金が払えなくなる。これらは国民負担となることから、日銀はその失策を国会で強く咎められ、日銀法改正などを通じてその独立性を大きく制約される可能性が出てくるのである。

日本銀行の財務の悪化がもたらす問題には、それ以外にも、通貨の信頼性、安定性を損ねるという深刻なリスクがある。このような深刻な弊害があることから、日本以外の主要国では、中央銀行は株式、ETFを買入れの対象としていない。日本銀行にとっても、あくまでも例外的措置として、財務大臣らの認可が必要とされる扱いである。

しかし、そうした例外的措置が、いまや完全に常態化してしまっているのである。

(参考資料)
「日銀の出口戦略Q&A」、銀行研修社、木内登英

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