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政府が自己都合離職の失業給付条件見直しを検討:三位一体の労働市場改革に期待

2023/02/20

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自己都合での離職の場合、失業給付を受けるまで2~3か月

岸田首相は、2月15日に開いた「新しい資本主義実現会議」で、「自己都合で離職した場合の失業給付のあり方を見直す」と述べた。狙いは、労働移動の円滑化である。会社都合の離職と比べて自己都合での離職の場合には、失業給付の支給までにかかる時間や失業給付の期間などで不利な条件となっており、これが、労働移動を妨げているという問題意識が背景にある。

勤務日数や年齢によって異なるが、会社都合の離職の場合、給付日数は90日から330日である。これに対して、自己都合での離職の場合には、90日から150日と短い。さらに、給付を受けるまでの待機期間は、前者の7日間に対して、後者は2か月から3か月となる。自己都合離職の場合の失業給付受給条件の悪さが労働移動を妨げている、と政府は考えているのである。

三位一体の労働市場改革

なぜ政府は、労働移動を高めることを目指すのか。それは、「構造的な賃上げ」を実現するためである。さらにその実現には、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという、三位一体の労働市場改革が必要である、としている。

仮にリスキリングを通じて労働者のスキルが向上しても、労働者が同じ企業に留まっている限り、それが産業構造の高度化などを通じて経済全体の生産性向上をもたらす効果は限られるだろう。そこで、リスキリングと同時に、労働移動を高めることが必要となる。さらに、転職を促すには、市場価値を反映した労働者の給与設定が必要となるだろう。それには、日本型職務給(ジョブ型)制度の確立が必要となる。まさに三位一体で労働市場改革を進めることが有効となる。

自己都合離職の失業給付条件見直しも、労働者が転職するインセンティブを高め、労働移動を促す措置として選択肢の一つとなるだろう。

失業給付条件見直しには課題も

ただし、制度変更の効果は、それほど大きくは期待できない可能性がある。政府は、リスキリングを通じて、労働者のITスキルの向上を図るとともに、その労働者をIT関連分野・職種などへの転職を促すことで、産業構造高度化と生産性向上、並びに賃金引上げを図る考えである。つまり対象は、比較的ハイスキルの労働者である。

ただし、そうした労働者の場合には、ヘッドハンティングなどを通じて、他社への転職を決めてから離職をするケースが多いのではないか。そのため、自己都合離職の場合の失業給付受給条件を変更しても、そのメリットを大きく受けることにはならないように思われる。

他方で、自己都合離職の場合の失業給付受給条件を変更すると、働く意欲が低い人が、失業給付の受給を目当てに就職と離職を繰り返すことを促してしまう、という問題も生じるだろう。

三位一体の労働市場改革を後戻りさせない

自己都合離職の失業給付条件見直しには、このような課題も確かにある。しかし、日本経済をより柔軟にし、環境変化に合わせて産業構造の転換が進むようにするためには、ハイスキルの労働者だけでなく、すべての労働者の労働移動を促すことが必要となるだろう。この点では、失業給付条件の見直しは、長い目で見れば有効な施策と言えるのではないか。

また岸田政権は、労働移動を促す措置として、ハローワークと民間人材会社の求人情報を共有し、ハローワークの職業紹介機能を強化することも検討している。それらは、ハイスキル以外の労働者の移動を後押しするとともに、失業対策ともなるだろう。

当初はハイスキルの労働者を主な対象とする労働市場改革であるとしても、最終的にはすべての労働者を対象にして、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を進めていくことが求められる。

そうした施策をより有効にするには、新卒一括採用、年功序列型給与体系などの日本型慣行を大幅に見直していく必要がある。それには、制度の変更のみならず、企業と労働者の意識改革も欠かせない。それを実現するにはかなりの時間を要するだろう。

岸田政権には、三位一体の労働市場改革を強く前進させるとともに、その改革が後戻りせずに定着するような制度面で工夫も求められる。

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