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ミュンヘン安全保障会議と中ロ接近

2023/02/20

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ミュンヘン安全保障会議で積極的なウクライナ支援を呼びかける独仏

各国首脳らが外交・安全保障問題を話し合うミュンヘン安全保障会議が、2月17日に開幕した。この会議は毎年2月にドイツ南部ミュンヘンで開かれており、ロシアによるウクライナ侵攻後では初めてである。民間主催の会議で、外交・安保分野の「ダボス会議(世界経済フォーラム)」とも呼ばれることがある。

今年の最大のテーマは、ロシアのウクライナ侵攻への対応だ。ちなみに、ロシアは招かれていない。ウクライナのゼレンスキー大統領は17日に、ミュンヘン安全保障会議でビデオ演説を行った。同氏は、ロシアがウクライナ以外にも侵略拡大を続ける懸念があるとして、国際社会に警鐘を鳴らしたうえで、迅速な武器の追加供与を主要国に呼びかけた。

一方ドイツのショルツ首相も同日に演説し、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、「戦車を供与できる国は、今すぐに送るべきだ」と訴えた。ドイツは、ウクライナでの戦争により深く関与することになるため、ドイツ製の主力戦車レオパルト2をウクライナに提供することに慎重姿勢であったが、他国からの批判も受けて、1月下旬、製造国としてウクライナへの戦車移転を承認する方針を発表し、他国にもその供与を促した。

今やドイツは、ウクライナへのレオパルト2供与を、他の保有国に積極的に呼びかけるに至ったのである。また、同氏の発言は、スペインなど一部の欧州諸国では整備のためレオパルト2の輸送が遅れる懸念が浮上していることを踏まえたものだ。

他方でショルツ首相は「北大西洋条約機構(NATO)が直接戦争に巻き込まれないようにする」とも指摘した。つまり、ウクライナ侵攻に関与を深めることで、NATO諸国へ戦火が拡大しないようする、との考えである。

マクロン仏大統領もミュンヘン安全保障会議で演説し、ウクライナ侵攻について、「責任はすべてロシアにある。ロシアを勝たせてはならない」として、ウクライナへの支援を約束した。

中国の対ロシア戦略に2面性

中国からは外交トップである王毅・共産党政治局員が会議に参加した。現在、中国の偵察気球をめぐって米中間の緊張が続いている。この問題を受けてブリンケン米国務長官は訪中を見送ったが、ミュンヘンで両者は会談を行った。偵察気球問題について、両国は互いに批判し合ったが、米国は両国が対話を続ける重要性も強調した。

さらに王毅氏は、20日からロシアを訪問する予定だ。習近平国家主席が今春にロシアを訪問する可能性があり、その調整が主な目的とみられる。また、ロシア訪問には、気球問題で関係が悪化している米国側へのけん制の意図もあるとみられる。

ウクライナ侵攻以降、中国はロシアとの距離感に腐心してきた。中国は、ロシアに接近しすぎることで、国際社会から批判されることを恐れているのである。中国は「ウクライナの主権と領土保全を尊重する」との立場を貫いている。また、核使用にも反対している。しかし一方で、中国はロシアにも配慮を示しており、ロシアの侵略行為を明確に非難したことはない。また、対ロ制裁措置にも加わっていない。

CNNによると、米国のシャーマン国務副長官は15日に、中国とロシアの協力関係や、ロシアのウクライナ侵攻に対して中国が暗黙の支持をしていることについて米国は「懸念を強めている」と述べている。他方で同氏は、中国が「仲介役となり、この恐ろしい侵略を終わらせる手伝いをする用意があると発言することで、中国は国際社会における自国の地位を高めようとしている」と述べている。

同氏は中国がその双方を両立させようとしていると指摘する。

米中ロ3か国の思惑が交差する国際情勢に

中国は、バイデン政権からは経済面で包囲網を強化されている。その中では、中国は友好国であるロシアとの連携を強める必要がある。ウクライナ侵攻以降、ロシアにとっての貿易相手国としての中国のプレゼンスは大幅に高まっているのである。先進国が対ロ制裁を進める中、中国は欧州に代わるロシアの資源輸出先となっており、戦費調達を間接的に支える構図ともなっている。

他方、今まで多くの対ロ経済制裁を打ち出してきた先進国には、有効な経済制裁の余地が限られてきている。中国がロシアとの貿易を制限することが、ロシア経済には最も大きな打撃を与えることとなるだろう。ただしそれには、中国の協力が必要となる。

中国がロシアとの貿易を維持、拡大することで対ロ制裁逃れに加担していると先進国が中国を批判しても、中国政府は貿易に直接関与しておらず、民間の活動の結果に過ぎない、とその批判をかわすだけだろう。

先進国への対抗を続ける一方、中国との関係を強化したいロシア、ウクライナ侵攻ではロシアとの距離感を維持する一方、ロシアへの接近をちらつかせることで米国からの中国包囲網に対抗したい中国、中国包囲網を強化しつつも対ロシア制裁を強化するために中国の協力が必要な米国と、3か国の思惑は交叉している。そうした微妙なバランスの上で、現在の国際情勢は成り立っているのである。

(参考資料)
「マクロン仏大統領「露を勝たせてはならない」 ミュンヘン会議で支援約束」、2023年2月18日、産経新聞速報ニュース
「ゼレンスキー氏「武器供与迅速に」 独首相も対応呼びかけ」、2023年2月18日、日本経済新聞電子版
「中国・王毅氏の欧州歴訪、「気球」めぐり緊張高まる中、米国務長官との会談実現するかに注目」、2023年2月17日、Record China
「ロシアとの距離に苦心 対米警戒で立場微調整 中国」、2023年2月17日、時事通信

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