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日銀新体制の課題⑨:ETF購入策に出口はあるか④:日本銀行の独立性が脅かされるリスク

2023/02/21

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ETFの売却を通じた出口戦略が第1の選択肢

日本銀行が大量に買入れたETFは、ひとたび株価が大きく下落すると日本銀行の財務を悪化させ債務超過にも陥れる大きな爆弾のようなものだ(コラム「日銀新体制の課題⑦:ETF購入策に出口はあるか②:日経平均1万4千円で債務超過」、2023年2月17日)。それは、通貨の信認に悪影響をもたらすとともに、日本銀行法改正を通じて日本銀行の独立性を脅かす事態にもつながりかねない。

こうした大きなリスクを回避するための方策、いわゆるETFの出口戦略には3つの選択肢が考えられる。株式市場への悪影響を抑えるため、かなり緩やかなペースでETFの売却を進めることが第1の選択肢となる。ただし、これは現実的な対応ではない。前回のコラムで見たように、株式市場に悪影響を与えない形でETFを売却すると、実に171年の時間を要してしまう計算となる(コラム「日銀新体制の課題⑧:ETF購入策に出口はあるか③:ETF売却に170年?」、2023年2月20日)。

政府と損失の穴埋めで取り決めをする第2の選択肢

第2の選択肢は、ETFを保有し続けるなか、株価が下落して日本銀行が経常赤字に陥る、あるいは債務超過に陥る場合には、政府から損失補てんを受ける取り決めを予めしておくことである。

ただしこのスキームが採用される場合には、恐らくETFから生じる損失だけに適用されるものではなく、円高による日本銀行保有の外貨建て資産の減額や、付利金利引き上げ時の利子所得収支(いわゆるシニョレッジ(通貨発行益))悪化に伴う経常赤字や債務超過の発生への対応を含んだ、より包括的な政府補てんの枠組みとなるだろう。

しかし、こうした形で政府に補てんを求めることは、1989年の日本銀行法改正の目的、主旨に全く反してしまうことになる。それは、日本銀行は法改正によって、自らの責任で財務の健全性を維持することと引き換えに、独立性を得たためである。

仮に、政府がこのようなスキームを受け入れた場合には、金融政策の失敗によって政府補てんという国民の負担を生じさせた責任を日本銀行に強く問うとともに、日本銀行の独立性を制限する方向で、日本銀行法のさらなる改正が国会で議論される可能性が高まるだろう。

この場合、株価下落による日本銀行の財務の悪化が、通貨の信認に与える悪影響は回避できるが、日本銀行法改正を通じて日本銀行の独立性を脅かす事態につながるリスクは回避できない。従って、この第2の選択肢も現実的でないだろう。

そこで考えられる第3の選択肢が、ETFを市場で売却することなく日本銀行のバランスシートから切り離すこととなる。次のコラムでは、ETFのオフバランス化について考えてみたい。

(参考資料)
「日銀の出口戦略Q&A」、銀行研修社、木内登英

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