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ウクライナ侵攻1年で存在感を高める陰の主役の中国:欧米は中国の二枚舌戦略を強く警戒

2023/02/27

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G7は新たな対ロシア制裁措置を打ち出す

主要7か国(G7)首脳は2月24日にテレビ会議を開き、ウクライナ問題について討議した。首脳らは声明文で、「防空システム・能力、必要な弾薬および戦車に直近の焦点をあて、ウクライナの差し迫ったニーズを満たす取り組みを調整することに引き続きコミットしている」として、ウクライナ支援の強化を打ち出した。他方、ロシアに対しては、「国際的に認められたウクライナの領土全体から即時、完全かつ無条件に部隊を撤退させるよう要求する」とした。さらに、「化学兵器や生物兵器、放射性兵器または核兵器のいかなる使用も厳しい結果につながることを改めて表明する」とロシアをけん制している。

また声明文では、「今後数日から数週間のうちにロシアへの新たな経済的行動を講じる。産業機械、工具、建設機械およびその他の技術を含め、ロシアのアクセスを阻止するための更なる措置を講じる。ロシアの違法な侵略の資金を調達するための収入を引き続き減少させる。ダイヤモンド輸出にさらなる措置をとる。迂回を防ぐため追加的にロシアの金融機関を対象とする」として、対ロ追加制裁を実施する考えを打ち出した。

中国の対ロシア軍事支援を強く警戒

他方で、今回の声明文で最も注目されるのは、「第三国にはロシアの戦争への物的支援を停止しなければ深刻なコストに直面する」とし、名指しは避けながらも、ロシアに対する軍事品の提供を検討しているとの観測がある中国をけん制したことだ。

ウクライナ問題を巡っては、当初から中国がロシアを経済面からそして軍事面から積極的に支援するかどうかが注目されており、この点から、中国が陰の主役でもあった。ここにきて、中国の存在感がにわかに高まっている。

中国が明示的にロシアに対する軍事支援を行えば、米国を中心に先進国との関係悪化は決定的となる。この点から、中国は安易にそうした行動には出ないと思われる。中国がロシアに軍事関連の支援を検討するとの観測は、偵察気球問題などで対立する米国を揺さぶるための中国の情報戦略の一環である可能性もあるのではないか。

ただし、ドイツ有力誌シュピーゲルは、中国企業がロシア軍に無人機(ドローン)を売却し、ロシアが自国で量産できるように部品や技術の供与も計画していると報じている。35〜50キログラムの弾頭を搭載でき、早ければ4月までに100機を納入する交渉が進められているとされる。

中国がウクライナの停戦の仲介に乗り出す姿勢

もう一つの側面から、ウクライナ問題を巡る中国の存在感を高めているのは、中国がロシアとウクライナの停戦の仲介に乗り出す姿勢を見せていることだ。中国外務省は24日、「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題する文章を発表した。そこでは、「すべての国の主権と独立、領土の一体性の保障」など計12項目を並べ、核兵器の使用や原子力発電所への攻撃反対を表明した。そのうえで、ウクライナとロシアの直接対話の再開を求め、中国が建設的な役割を果たす意欲をみせている。ただし、具体策は示していない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシアによる侵攻の終結に向けて独自の仲裁案を示した中国の姿勢を歓迎し、中国の習近平国家主席との会談にも前向きな姿勢を示している。ゼレンスキー大統領はこの中国の仲裁案について、「国際法の尊重や領土保全(の原則)と合う考えがある」と述べ、部分的に評価した。一方で、ウクライナ全土からのロシア軍の撤退を含まない和平案は受け入れない方針を重ねて表明し、提案は具体的な和平計画ではなく、「いくつかの考え方にすぎない」とも述べている。

欧米は中国の二枚舌戦略を批判

この中国の和平提案について、ロシアへの軍事的な支援を検討しながら、他方で仲介を装い中国の国際的なプレゼンスの向上を狙ったもの、と欧米は揃って反発している。

ブリンケン米国務長官は、中国を念頭に「いかなる理事国もロシアを支援しながら、平和を呼びかけるべきでない」と述べた。また、「一時的または無条件の停戦の呼びかけにだまされるべきでない。ロシアは戦闘を一時停止し、さらなる攻撃のために兵力を補うだろう」と訴えた。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も、「中国は信用されていない」とし、ロシア寄りとされる中国は仲裁役には相応しくないとの立場を明確にした。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長もこれに同調している。中国が仲介する形でウクライナ戦争が停戦に至る可能性は低い。

中国の関与次第でウクライナ問題は新たな局面に

仮に、中国がロシアを軍事面で明確に支援することになれば、中国と米国および他の先進国との対立は決定的になる。現状では、先進国がウクライナを軍事面で積極的に支援してることから、ウクライナ戦争はロシアと先進国との代理戦争の様相が次第に強まっている。中国が軍事面で関与を始めれば、米中の代理戦争の様相に発展してしまうのではないか。それはアジア地域にも飛び火し、世界の安全保障環境は一気に緊迫の度を増してしまうかもしれない。

中国への経済制裁は対ロシア制裁と比べて格段に大きな世界経済のリスクに

その場合、先進国は中国への経済制裁を検討せざるを得なくなるだろう。対ロシア制裁は、エネルギー価格の高騰をもたらし、世界経済に大きな打撃を与えた。他方、先進国が中国に対して経済制裁を行う場合には、その影響は格段に甚大となる。中国の経済規模はロシアの10倍に及ぶ。各国から中国向けの輸出が減る一方、現地生産分を含めて中国からの部品などの調達が滞り、サプライチェーンの寸断から、各国での生産活動に大きな支障が生じることになるだろう。

ウクライナ戦争への今後の中国の関与次第では、世界の安全保障上のリスクは格段に高まり、さらに世界経済のリスクも一気に高まることになってしまうだろう。中国が存在感を高める中、侵攻から1年となったウクライナ問題は新たな局面を迎えつつある。

(参考資料)
「米欧、中国仲裁案に懐疑的 米国務長官「だまされるな」」、2023年2月25日、日本経済新聞電子版
「G7首脳TV会議、中国などけん制…ロシア支援停止に応じねば「深刻なコスト」」、2023年2月25日、読売新聞速報ニュース
「ウクライナ大統領、習氏と会談に意欲 仲裁案「協力も」」、2023年2月25日、日本経済新聞電子版
「ウクライナ侵攻1年、G7首脳声明の要旨」、2023年2月25日、日本経済新聞電子版
「米欧、中国仲裁案に懐疑的 米国務長官「だまされるな」」、2023年2月25日、日本経済新聞電子版

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