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4月の電力料金値上げは先送りへ:物価高問題が再び大きな政治課題に

2023/02/28

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節目となる4月を前に物価高対策再検討の動き

1月の消費者物価(除く生鮮食品)は、前年同月比+4.2%と2か月連続での+4%台に乗せた。2月には政府による物価高対策の影響で、電気代、ガス代の一部が約2割低下することから、物価上昇率は同+3.7%程度へと下落することが見込まれる(コラム「CPI上昇率は1月がピーク:賃金と物価の好循環は起きず、日銀は2%の物価目標修正へ(1月消費者物価)」、2023年1月20日)。

物価動向を考えるうえで次の節目として注目されてきたのが4月である。4月は輸入小麦の政府売渡価格の改定時期にあたる。前回昨年10月には、政府は価格据え置きを決めたが、輸入小麦の価格を反映させれば、4月には大幅な価格上昇が生じることになる。

また、年度初めの4月には価格改定が集中しており、値上げが多く行われる可能性がある。そして、大手電力会社は、輸入燃料価格の上昇分を利用者に転嫁するために、4月に家庭向け規制料金価格の引き上げを経済産業省に申請している。

こうした中、公明党の山口代表は、食料品やエネルギー価格の高騰が続いているとして、「今年度の予備費を使い、3月中には何らかの物価対策を打ち出してもらいたい」と岸田首相に要望した。また自民党内でも、電力会社から電気料金の値上げ申請が相次いでいることを踏まえて茂木幹事長が、「負担が増えるのであればさらなる対策を検討したい」と述べている。

政府は昨年10月末に物価高対策を柱とする総合経済対策を決定したばかりであるが、早くも3月中の物価高対策が再検討され始めている。

申請通りであれば電力料金値上げで消費者物価は0.4%~0.6%上昇

大手電力会社10社中7社が、家庭向け電気料金の28~45%の値上げを申請している。東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力は4月から、東京電力、北海道電力は6月からである。値上げには、経済産業省の認可が必要となる。

政府は2月分から、電力会社への補助金を通じて家計の電気料金を実質値下げしているが、それは電力各社による先行きの2割の電気料金の値上げを予め想定したものだ。しかし、現在申請されている幅で電力料金が値上げされれば、政府の対策の効果を含めても電力料金は上昇し、家計に負担が生じることになる。

現在申請されている通りに電力料金の値上げが行われれば、4月から6月にかけて(消費者物価への影響は5月から7月にかけて)、推定で0.4%~0.6%の物価上昇要因となり、物価上昇率の低下の妨げともなる。

政府は電力料金値上げ幅の圧縮に動くか

岸田首相は2月24日の「物価・賃金・生活総合対策本部」の会合で、「4月という日程ありきではなく、厳格かつ丁寧な査定による審査を行ってほしい」と西村経済産業相に指示した。また、電気料金の抑制に向けた取り組みについて、「3月中に検討結果をまとめてほしい」と述べた。

これを受けて西村大臣は「厳格・丁寧な審査」を表明し、値上げは5月以降にずれ込む見通しとなった。また、値上げ幅が申請よりも圧縮される可能性が出てきた。

さらに岸田首相は、「あらゆる経営効率化を盛り込み、直近の為替や燃料価格水準を勘案するよう」指示もしている。これは、値上げ幅を圧縮するために、電力会社に一段のコスト削減などの経営努力を求めるものだ。また、足元では円安が修正され、原油価格などが一時期よりも低下していることから、こうした動きも反映して値上げ幅を再検討すべき、との考えを示すものである。

一方、一部の電力会社が互いに顧客獲得を制限するカルテルを結んだ疑いが発覚している。また競争相手である新電力会社の顧客情報を不正に閲覧していた問題も明らかになっており、それらも値上げへの逆風となっている。

24日に開かれた値上げを審査する経産省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)の会合では、これまでの公聴会で値上げに反対する意見が相次いでいることが紹介された。岸田首相もこうした公聴会での意見や電力料金上昇に対する消費者の不安に配慮して、値上げの再検討を指示したのである。

さらに、4月の統一地方選直前に値上げが実施されることを避ける狙いが政府にある、との指摘もある。

多くの要因が集中する4月を前に物価高問題が再び大きな政治的なテーマに

大手電力10社の2022年12月期決算では、液化天然ガスや石炭の輸入価格上昇を受けて、9社の純損益が赤字となった。値上げ幅が大きく圧縮される場合には、電力会社の財務環境の悪化が続き、電力の安定供給に何らかの支障が出るリスクも考えなくてはならないだろう。

円安修正や原油の落ち着きを背景に、日本の歴史的な物価高も山を越えようとしているように見える。しかし、物価が安定を取り戻すまでにはなお半年以上の時間は必要だろう。そうした中、春闘の行方、電力料金引き上げの行方、小麦受渡価格の改定、年度初めの各種価格改定、日銀新体制のもとでの政策修正の観測を映した為替動向、そして4月の統一地方選挙など、実に多くの要因が交錯する4月あるいはそれ以降を視野に入れて、物価高問題が再び大きな政治的なテーマとして浮上してきている。

(参考資料)
「電気4月値上げ、先送りへ 「厳格審査を」首相指示」、2023年2月25日、朝日新聞
「強気の電力に政権も異議 「燃料価格、為替も大きく変動」」、2023年2月25日、朝日新聞
「物価高対策:首相、電気代抑制指示 輸入小麦、価格上昇対策も」、2023年2月25日、毎日新聞

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