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政府の小麦価格上昇抑制の経済・物価への好影響は僅か(CPI上昇を0.007%抑制):追加の物価高対策は的を絞るべき

2023/03/07

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政府は3月中に新たな物価高対策をまとめる

政府・与党は、4月の統一地方選も睨んで3月中に新たな物価高対策をまとめる方針を固めている。その財源には、2022年度予算の約5兆円の予備費の一部が充てられる可能性が高い。自民党の世耕参院幹事長は、5兆円の予備費をすべて物価高対策に充てることを主張している。岸田首相は自民党、公明党に対して、3月17日までに新たな物価高対策の提言をまとめるように指示した。

電力会社から申請されている家庭向け規制料金の引き上げを先送りすること、引き上げ幅を圧縮することが、事実上、物価高対策の一部となることが考えられる(コラム、「4月の電力料金値上げは先送りへ:物価高問題が再び大きな政治課題に」、2023年2月28日)。それに加えて、政府による小麦受渡価格の抑制策が、対策の一部に組み込まれることになるだろう。

10月からの小麦の政府受渡価格を5%の引き上げ幅に抑制

日本は国内で消費される小麦の86%程度を、米国、カナダ、オーストラリアなどから輸入している。政府はそれを、商社などを通じて買い付け、製粉会社などに売り渡している。これが、小麦の政府売渡価格となる。

政府は、輸入小麦の買い付け価格に基づき、さらに海上運賃などの変動を加味して4月と10月に受渡価格を見直している。2022年4月には売渡価格は17.3%引き上げられ、2022年10月には価格は据え置かれた。 従来は過去半年間の買い付け価格を受渡価格に反映していたが、ウクライナ問題で一時的に価格が急騰したことに配慮し、価格を平準化するために、今年4月の受渡価格は、過去1年間の買い付け価格に基いて決定する。

過去1年間の買い付け価格に基づけば、10月の受渡価格は約13%の引き上げとなる。ただし、国民生活に配慮して、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で国際価格が異常に高騰した時期(2022年4月~9月)を除いて算出することで、5%程度の値上げに抑える方向で現在調整されている。農林水産省が今週中にも価格を正式に公表する。

小麦の政府売渡価格の引き上げ、引き上げ抑制の物価への影響は小さい

ただし、小麦の政府売渡価格の引き上げ抑制は、物価高対策としては、それほど影響力は大きくない。2022年4月に売渡価格が17.3%引き上げられた際に、農林水産省は消費者物価に与える影響は僅か+0.016%程度と試算していた。小麦関連製品の小売価格に占める原料小麦代金の割合が、大きなものを取りあげても食パンの8%、小麦粉の29%などにとどまる(図表1)。政府売渡価格の引き上げ分が最終製品に完全に転嫁されても、消費者物価全体への影響は限られるのである。

従って、政府売渡価格の引き上げ幅を抑制しても、それが消費者物価全体に与える影響もまた小さい。

(図表1)小麦関連製品の小売価格に占める原料小麦代金の割合

消費者物価上昇抑制の効果は0.007%と僅か

政府が10月から小麦の受渡価格を5%引き上げる場合、消費者物価は0.005%引き上げられ、それは実質GDP成長率を0.002%押し下げる計算となる。過去1年間の政府の買い付け価格を直接反映した場合の13%の受渡価格引き上げと比べて、消費者物価の上昇抑制の効果は0.007%と小さい。また、実質GDP押し下げ効果も、0.003%抑制されるに過ぎない。受渡価格引き上げの抑制策が、物価、経済に与えるプラスの効果は極めて小さいと言える。

他方で、政府の買い付け価格の上昇を直接反映して受渡価格を13%引き上げられる場合と比べて、5%の引き上げの際の政府の受渡時の収入は141.6億円減少する。その分政府の追加負担となり、最終的には国民負担となる可能性が高い。受渡価格引き上げの抑制策では、この負担分に十分に見合った物価抑制効果は期待できないと言えるのではないか。

(図表2)小麦の政府受渡価格引き上げの経済効果

物価高対策は規模を追求せず、的を絞った弱者支援とすべき

政府は、この小麦の政府受渡価格引き上げ抑制以外に、より物価抑制に効果のある追加策を実施するだろう。ただしそれによって財政負担は一段と高まり、その負担は国民に転嫁されていく方向だ。ガソリン補助金など、時限措置として導入された今までの物価高対策は長期化し、出口が見えなくなっている。そのため、財政負担は高まる一方だ。

他方、物価高が続く中でも個人消費は比較的安定していることから、いたずらに規模を追求して景気刺激を狙った、巨額の財政支出を伴う物価高対策は必要ないだろう。それは、財政環境を一段と悪化させるという弊害の方が大きい。追加の物価高対策を実施するのであれば、物価高による打撃が特に大きい家計、企業に的を絞って支援する施策とすべきだ。

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