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中国は5%前後に政府成長率目標を引き下げ:成長率の低下傾向が進む

2023/03/08

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かなり保守的な2023年「5.0%前後」の政府成長率見通し

中国の第14期全国人民代表大会(全人代)第1回会議が、3月5日に北京で開幕した。李克強首相は政府活動報告で、2023年の実質GDP成長率の政府目標を「5.0%前後」と発表した。これは昨年の目標よりも0.5ポイント低い水準だ。コロナ禍の影響で発表を見合わせた2020年を除き、中国政府が成長率目標を発表し始めた1991年以降で最も低い水準でもある。事前にブルームバーグが調査した見通し中間値は5.3%であったが、これを下回る、いわば予測の下限でもあった。

この数字については、現実的であり、積極的な財政・金融政策で無理に景気刺激を図らないことから、安定成長への期待を高めるもの、と前向きに評価する声も聞かれる。他方で、日本、韓国など周辺国では、中国の成長率の低下が自国の経済に与える打撃を懸念する声もある。株式市場では、やや失望を持って受け止められた。

実際、5%前後というのはかなり保守的な目標水準と言えるが、そのように設定された理由の一つは、2022年は5.5%という政府目標に対して、実績値は3%とそれを大幅に下回ってしまったことだろう。ゼロコロナ政策の影響が大きかったのである。そのため、2年連続で政府目標を下回ることで政府が信頼を失うことを回避したい、との狙いがあったのではないか。

昨年末にゼロコロナ政策を撤回し、経済の再開(リオープン)が年末から年初にかけて進んでいるのであれば、2023年の成長率はかなりプラスの下駄を履く形となるはず(ベース効果)である。この点から、今年の政府目標を達成することはかなり容易であるようにも見える。

ゼロコロナ政策撤回による景気のV字型回復は過大な期待か

ただし、当面の中国経済に不確実性が高いことは確かであり、ゼロコロナ政策の撤回で中国経済がV字型回復すると考えるのは楽観的過ぎるだろう。中国経済の下振れリスクの一つは、輸出環境の悪化である。中国の輸出(ドルベース)は、1-2月も前年同期比6.8%減と減少を続けている。

輸出入統計でそれ以上に注目されたのは、輸入の弱さである。1-2月の輸入は前年同期比10.2%減の2桁減少となった。事前予想の平均値は5.5%減程度であった。この予想外の輸入の大幅減は、内需の弱さを反映しているのだろう。ゼロコロナ政策は撤回されたとはいえ、その傷跡はなお深く残っているのではないか。

李克強首相の政府活動報告では、新型コロナ感染症対策では決定的な大勝利を収めたと自画自賛する一方、直面する課題として、貿易の成長率が弱まっていること、一部の地方政府の財政難が深刻になっていること、不動産市場が数多くのリスクを抱えており、一部の中小金融機関のリスクが顕在化していること、科学技術のイノベーションの能力が伸び悩んでいること、などを列挙している。

5年後には3%程度と先進国並みの成長ペースまで低下も

2023年の実質GDP成長率を5年移動平均で見ると、5%を下回る可能性が高そうだ。習近平体制が始まった10年前の5年移動平均の成長率は9.0%だった。この10年間で、5年移動平均で測った中期成長率は、4%ポイントも低下したのである(図表)。仮にこのペースで中期成長率が下がっていけば、5年後には3%程度と、もはや先進国並みの成熟経済の成長ペースにまで落ちてしまう。

人口減少、ゼロコロナ政策、不動産不況、民間企業への統制強化など過去数年間で集中して生じた中国経済の強い逆風は、中国経済の中長期の成長期待を大きく低下させ、政府による民間企業への統制強化の影響と相まって、企業の設備投資意欲を慎重にさせた可能性があるのではないか。その場合、成長率のトレンドの低下は従来よりも加速してしまう可能性もあるだろう。

中国経済の中期的な成長率の下振れは、日本を含む周辺国の経済にかなりの逆風となるだろう。また、海外から中国への直接投資や現地ビジネスのリスクともなるのではないか。また、世界全体では商品市況を押し下げる方向に働くだろう。

図表 中国の実質GDP成長率の推移

成長率低下で中国は外に目を向ける

成長率トレンドの下振れ傾向が続くと、中国政府は、国内で安定した雇用を維持することが難しくなり、それは社会、政治の不安定化につながるリスクを持つのではないか。長らく中国の政治・社会の安定に貢献してきた高成長という前提が、崩れていくのである。

そうした下で、中国政府が国内の社会、政治の安定を維持しようとすれば、新たな市場、成長の源泉を海外に求める他なくなり、それは、先進国との間での地政学リスクを高めることになるのではないか。またそれこそが、中国がロシアに接近していく大きな原動力となるのかもしれない。

(参考資料)
"China's Exports Extend Declines, Adding Pressure to Economy", Bloomberg, March 7, 2023
「政府活動報告要旨(全人代2023)」、2023年3月6日、日本経済新聞

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