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パウエルFRB議長の利上げ再加速示唆で米国経済のハードランディング懸念が再燃か

2023/03/08

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利上げ幅再拡大の可能性

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は3月7日に、上院銀行委員会で証言を行った。政策金利を従来の想定よりも高い水準まで引き上げる公算が大きいとしたうえで、必要であれば利上げ幅を再び拡大させる用意がある、と発言した。FRBは昨年12月以降、連続して利上げ幅を縮小させてきたが、2月に入ってから発表された経済指標、物価指標の予想外の上振れを受け、政策姿勢を修正する考えを示したのである。利上げ幅再拡大は、金融市場が恐れていた言葉だ。

3月21・22日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げ幅が2月の0.25%から再び0.5%へと拡大する可能性が、50%以上の確率となったのではないか。ただし、それはまだ確定的ではなく、今・来週中に発表される経済指標次第で決まる。特に重要なのは、10日(金)に発表される2月分雇用統計、14日(火)に発表される2月分消費者物価統計である。

1月分雇用統計では新規雇用者数が予想外の急増となったが、2月分でその反動が明確に確認されない場合、そして2月分消費者物価統計で、物価上昇率の鈍化傾向が再び確認されない場合には、次回のFOMCで0.5%幅の利上げが実施される可能性が高まるだろう。

回り回ってハードランディングシナリオが再浮上

予想以上にタカ派的であったパウエル議長の議会証言を受けて、FF金先市場は利上げが今年の秋頃まで続き、FF金利のピークの水準が5.50%-5.75%程度にまで達すると織り込んだ。財務省証券市場でも短めのゾーンの金利水準は一気に切り上がったが、他方で、10年財務省証券金利は4%弱の水準で大きくは動かなかった。これは、従来の想定以上のペースの利上げによって、米国経済は失速するリスク、それを受けてFRBがいずれ本格的な利下げを実施する可能性を金融市場がより意識したためであろう。

昨年はFRBによる大幅利上げを受けて、米国経済が景気後退局面に陥る「ハードランディングシナリオ」が相応に支持されていた。しかし、年末には、物価上昇率が鈍化し、FRBが利上げ幅を縮小させたことから、米国経済の本格的な後退は回避されるといった「ソフトランディング(軟着陸)シナリオ」が広まった。その後、予想外に経済指標が強かったことを受けて、米国経済は拡大を続けるとの「ノーランディング(無着陸)シナリオ」が、年明け後は浮上したのである。

しかし、FRBの利上げ幅再拡大の観測が出てきたことで、回り回って「ハードランディングシナリオ」が金融市場に再び意識され始めたのである。7日のダウ平均株価が-574ドルの大幅下落となったのは、その表れだろう。

FRBの金融政策は振出しに戻ったか

FRBは昨年3月の利上げを開始した後、7月のFOMCでは、経済指標次第で利上げ幅を柔軟に決定する姿勢を示した。その後は、0.75%の大幅利上げが4回連続で続いたのち、2回連続で利上げ幅は縮小された。FRBの政策姿勢は、再び、経済指標次第で会合ごとに利上げ幅を柔軟に決める姿勢となってきている。いわば、振出しに戻ってきた感がある。

今後の利上げ幅、政策金利の最終到着点(ターミナルレート)は経済指標次第であり、見通しにくいところがある。しかしながら、昨年来のFRBの利上げが終盤にあるとの認識は、変える必要はないのではないか。

年末にかけては利下げ観測が広がると予想

FF金利のピークの水準が5.50%-5.75%程度まで上昇すると、金融市場の10年予想物価上昇率から計算した実質FF金利は、この夏から秋にかけて3.5%程度に達する計算だ。これはリーマンショック直前の3%程度をさらに上回る水準である。

また、リーマンショック後は、米国経済に中立的な実質金利(自然利子率)は0%程度と長らく考えられてきた。それを踏まえると、FRBの利上げは最終的には米国経済に大きな打撃を与えることが予想され、金融市場が再び意識し始めたように、米国経済が景気後退に陥る可能性は相応にあるのではないか。

この点を踏まえ、今年の秋から年末にかけては、経済、物価の下振れを受けて、FRBの利下げ観測が金融市場で強まり、米国長期金利の低下とドル安傾向を促すものと見ておきたい。

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