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日米金融政策見通しの不確実性を映して両国の金融市場は連動して動揺

2023/03/10

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政策変更見送りで長期金利は低下

先行きの金融政策の不確実性を映して、日米の金融市場は、足元で予想外の動きを見せている。日本銀行は3月10日の決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の追加見直しなどの政策変更を見送った。市場関係者の多くは政策の維持を見込んでいたが、一部ではYCCの長期金利の変動幅拡大を見込んで、国債のショートポジションを形成していた向きもあったことから、決定会合後には国債が買い戻され、長期金利は低下した。指標となる10年国債の金利は、0.5%程度から0.3%台まで低下した。

1月の前回の会合後も、同様のことが生じた。前回ほどは強く政策変更が事前に予想されていなかったにもかかわらず、直後の長期金利(10年国債金利)の低下幅は同程度に達した。これも予想外の動きである。

10年国債も銘柄毎に見ると、さらに異なる動きとなっている。2032年9月満期の10年国債368回債は、決定会合の結果発表前は+0.02%台半ばあたりで推移していたが、発表後は急速に金利が低下し、一時-0.04%程度とマイナスの領域にまで落ち込んだ。急速なショートポジションの解消が起こっているとみられるが、日本銀行の政策決定が、予想外の動揺を国債市場にもたらしたのである。

銀行株などの株価大幅下落

他方、予想外の動揺は、株式市場にもみられる。政策変更の見送りを受けて、日経平均株価は一時上昇したもののすぐに下落に転じ、一時は前日比500円を超える大幅安となった。その一つの理由は、銀行株が大きく売り込まれたことにある。

昨年12月に日本銀行が突如YCCの長期金利の変動幅拡大を行ったことを受けて、先行きの政策修正への観測から銀行株は上昇基調を辿った。長期金利の上昇は、銀行の利鞘の拡大を通じて収益に好影響を与えるためである。日本銀行がYCCの追加見直しを見送ったことをきっかけに、そうした期待に水が差されたのである。

しかし、銀行株の下落の背景は、それだけではないだろう。前日の米国株式市場での銀行株急落に連動した動きもあるとみられる。米国では金融引き締めによる銀行の収益へのマイナス面が強く意識され始めたのである。その影響が、日本の株式市場にも及んだという側面もあったのではないか。

米国での銀行株急落と2年国債金利の急低下

9日の米国市場、そして10日のアジア市場で、先行きの金融政策の見通しを強く反映する、米国2年国債の金利が急落したのである。2日間で-0.32%ポイントと大幅に低下した。2日間の低下幅としては昨年6月以来である。それまで2007年以降で初めて5%台に乗せていた2年国債金利は、4.7%台まで一気に低下している。

きっかけとなったのは、9日の米国株式市場での銀行株の大幅下落だった。3月7日の議会証言で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、次回3月の会合で利上げ幅を再拡大する可能性を示唆した(コラム「パウエルFRB議長の利上げ再加速示唆で米国経済のハードランディング懸念が再燃か」、2023年3月8日)。これを受けて長期金利が一段と上昇したが、それは、銀行の利鞘をより拡大させることから、銀行株には本来追い風となるはずだが、実際には、強い逆風となってしまったのである。

背景には、長期金利の上昇は銀行の利鞘を拡大させる一方で、債券の含み益拡大など銀行の財務リスクを高める側面もあることが意識されたためだ。また、金利上昇を受けて銀行預金から他の金融商品に資金が流れるとの観測も、銀行の収益に逆風となることを意識させたのである。

さらに大幅な利上げが米国経済を悪化させれば、やはり銀行の収益に逆風となる。そこで、銀行株が利上げ幅再拡大の観測にマイナスに反応し始めると、株式市場の混乱や金融システムの不安定化がFRBの利上げの妨げとなるとの見方から、利上げ幅再拡大の期待が弱まっていったのである。それが、安全資産への資金逃避の流れと相まって、2年国債金利の急落につながった。

金融政策に関わる不確実性で日米金融市場がともに動揺

ところで、米国経済の先行きへの不安や金融市場、金融システムの不安定化リスクを受けて、FRBの利上げ観測が後退する、あるいは先行き利下げ観測が浮上すれば、それは、4月から新体制となる日本銀行の政策にも影響してくる。そのような環境のもとで日本銀行が金融緩和の本格的な見直しを進めれば、急速な円高を引き起こしてしまうリスクがある。そのため、政策の見直しは先送りされやすくなるだろう。

このように、金融政策に関連して日米の金融市場が共鳴しつつ動揺を始めているのは、金融政策の見通しとその影響に関して、不確実性が強いためだろう。特に日本では、10年ぶりの日本銀行総裁の交代は、金融市場にとって大きな不確実性である。それを踏まえれば、銀行株大幅下落といった、金融市場の動揺が生じていることは自然なことかもしれない。

今週は、日米の金融市場がそうした特殊な局面にあることを改めて意識させられた1週間となった。

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