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シリコンバレーバンク破綻に見る米国信用不安の拡大リスクと金融政策への影響

2023/03/13

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急速な金利上昇、テックバブル崩壊でシリコンバレーバンクが経営破綻

米国銀行のシリコンバレーバンクの経営破綻が10日に明らかになった。採算が悪化した保有債券の売却や、増資計画を8日に発表していたが、信用不安から預金流出が加速し、破綻に至った。シリコンバレーバンクが本社を置くカリフォルニア州の金融当局は10日に、同社が流動性不足に陥り、債務超過状態にあることを認定した。これを受けて、米連邦預金保険公社(FDIC)は同日、シリコンバレーバンクが事業を停止し預金を管理下に置いた、と発表した。

米連邦準備制度理事会(FRB)によると、2022年末時点でのシリコンバレーバンクの総資産は約2,090億ドル(約28兆円)で、資産規模は全米で16位である。米銀の破綻としては、リーマンショック時の2008年9月に破綻した米貯蓄金融機関(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルに次ぐ過去2番目の規模となる。

シリコンバレーバンクは、テクノロジー関連の新興企業への融資とそこからの預金受け入れを拡大させてきた。2022年3月末の預金残高は1,980億ドルと3年間で3.8倍にまで膨張した。

そのビジネスが躓いて経営破綻に至ったきっかけの一つは、テクノロジー企業の経営悪化、それに伴う預金の取り崩しがある。さらに、金利上昇局面での同行の債券投資の損失も、経営破綻の一因だ。同行は、長期国債や住宅ローン担保証券(MBS)を中心に債券投資を行っていたが、総資産に占める債券投資の比率は57%と他行比でかなり高かった。

また、FRBの利上げが進む中で逆イールドが強まったことで、利鞘が縮小した面もある。主な資金調達手段である預金利回りと運用利回りとの差が縮小する、負債と資産のミスマッチが強まったのである。

グローバルに信用不安が広がるリスクも

シリコンバレーバンクの経営破綻を受けて、金融市場は他の銀行の経営環境に対する不信も強めている。米国では主要銀行の株価が大きく下落したが、10日には欧州でも銀行株が下落し、さらに同日には日本でも銀行株が大きく下落したのである(コラム「日米金融政策見通しの不確実性を映して両国の金融市場は連動して動揺」、2023年3月10日)。米国発のグローバルな信用不安に発展するリスクも垣間見られる。

問題は、シリコンバレーバンクの経営破綻が個社要因なのか、それとも米国の銀行全体に共通する要素があるのかという点だ。テクノロジー企業とのビジネスに偏っていた点、債券投資の比率が高かった点は、シリコンバレーバンクの個社要因と言えるだろう。

しかし、この経営破綻を個社要因だけで片づけることはできないのではないか。FRBによる急速な利上げによって、多くの銀行では債券投資の損失(含み損)が広がっている。金利上昇で預金流出は広く起こっているだろう。また、逆イールド化の進展は、すべての銀行の収益基盤を損ねている。さらに、コロナ問題後のテクノロジーバブルの反動の影響は、不良債権の増加など、多くの銀行の打撃となっているはずである。

信用不安、金融市場の動揺がFRBの利上げの制約に

シリコンバレーバンクの経営破綻を受けて、金融市場では質への逃避、安全資産への逃避の傾向が強まっている。これも信用不安が広まる際に常に生じることだ。

先行きの金融政策の見通しを反映する傾向が強い米国2年国債利回りは、9日、10日の2日間で0.3%以上の大幅下落となった。2日間の低下幅としては昨年6月以来であり異例だ。4%程度に達していた10年国債利回りは、一気に3.6%台にまで下落し、その影響から10日の米国市場でドル円レートは一時134円台前半と当日の日本市場での137円台から一気にドル安円高に振れた。リスク回避の円高の側面もあるだろう。

7日のパウエル議長の議会証言を受けて、3月の会合では0.5%に利上げ幅を再拡大させるとの見方が浮上し、その確率が50%以上市場に織り込まれていたとみられる(コラム「パウエルFRB議長の利上げ再加速示唆で米国経済のハードランディング懸念が再燃か」、2023年3月8日)。

しかし10日のスワップ市場では、0.25%の利上げ幅の確率が50%以上となり、さらに、利上げは7月に5.4%程度で打ち止めとなり、年末までに0.25%の利下げが実施されるとの見方が再度織り込まれた。信用不安、金融市場の動揺が、FRBの利上げの制約になるとの見方が浮上したのである。

2月分雇用統計も利上げ見通しを修正

先行きの金融政策の見方を修正するもう一つのきっかけとなったのは、10日に発表された2月分米国雇用統計だ。非農業部門の雇用者数は前月比31万1,000人増と市場予想の22万5,000人増を上回った。しかし、失業率は3.6%と、市場予想の3.4%よりかなり悪化している。また時間当たり賃金は前月比+0.2%と、やはり市場予想の+0.4%を下回った。

チャレンジャー・グレイ・クリスマス社によると1-2月の米企業の人員削減は18.1万人と前年同期の5.3倍にまで膨らんだ。これは、リーマンショック時の2009年以来14年ぶりの水準である。雇用統計での雇用者増加数は事前予想を上回ったが、テクノロジー企業の大量の人員削減の動きが、この先雇用情勢の悪化につながってくる可能性があるだろう。

FRBの金融政策は新たな局面か

また、FRBの大幅利上げの影響が遅れて顕在化し、米国経済を大きく悪化させる、いわゆるオーバーキルへの不安は金融市場で根強いだろう。これらが、シリコンバレーバンクの経営破綻を受けた信用不安と重なり、先行きの金融政策の見通しの修正をもたらしている。

シリコンバレーバンクの経営破綻の影響がこの先どの程度グローバルに波及していくかについては、まだ慎重に見極める必要がある。しかし、米国経済・物価情勢だけでなく、信用不安といった金融面の要因が、FRBの金融政策の見通しと金融市場に大きな影響を与える、新しい局面に入ってきたと言えるのではないか。

(参考資料)
「米銀SVBが経営破綻、米当局発表 リーマン危機後で最大」、2023年3月11日、日本経済新聞電子版

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