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シリコンバレーバンクの破綻は米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りに

2023/03/13

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シリコンバレーバンク破綻の背景に3つの逆風

イエレン財務長官は12日(日曜日)に、破綻したシリコンバレーバンクを、国費を使って救済することはしない、と発表した。その代わりに、後に見るように、預金の全額保護など異例の措置を決めている。

シリコンバレーバンクは、ごく短期間のうちに流動性危機に陥り、10日(金曜日)に破綻に至ったことが明らかになってきた。シリコンバレーバンク破綻の背景には、テクノロジー産業の不振、金利上昇による債券投資の損失、逆イールドの進行による利ザヤの縮小、の主に3つの逆風があったと考えられる。

シリコンバレーバンクは個人ではなく、主に新興企業やベンチャーキャピタルの預金を集めてきた。テクノロジー産業の不振を受けて、新興企業が資金手当てのためにシリコンバレーバンクから預金を引き落とす動きが強まった。そこで、金利上昇下で含み損が膨らんでいた長期国債や住宅ローン担保証券(MBS)を損切りし、売却損を計上したのである。

預金保険でカバーされない大口預金中心の構造が預金流出を加速

その結果、損失が拡大し資本不足のリスクが高まったことを受けて、格付会社のムーディーズ社は、シリコンバレーバンクを格下げすることを7日(火曜日)に同社に伝え、8日(水曜日)の引け後にそれを発表した。

格下げを受けて9日(木曜日)には預金の引き出しがさらに加速した。ベンチャーキャピタルの投資家は、シリコンバレーバンクに預金を持つ新興企業に対して、同社が破綻した場合には1口座あたり25万ドルを超える預金は保険でカバーされないことから、預金を引き出すように呼び掛けたという。ここで生じた急激な預金流出が、シリコンバレーバンクを破綻に追い込んだのである。いわゆる取り付け騒ぎ(バンクラン)だ。その時点で、同行は10億ドル規模の債務超過に陥っていたとみられている。

預金保険の上限を超える預金額は、2022年末で1,510億ドルに達していた。1,750億ドル程度とみられるシリコンバレーバンクの預金総額のうち、実に約86%が預金保険でカバーされない大口預金であった計算だ。それゆえに、経営不安が一気に大量に預金取り崩しにつながったのである。小口の個人預金が中心の銀行のビジネスモデルであれば、そのような事態にはならなかっただろう。

シリコンバレーバンク破綻に個社要因

12日には、シリコンバレーバンクの破綻の影響を受けて、ニューヨークを拠点とするシグネチャーバンクも破綻した。

当局は、シリコンバレーバンクの破綻が銀行システム全体に波及しないように、例外的に同行の全預金を保護することを決めた。シグネチャーバンクについても同様だ。この結果、預金を失ったスタートアップが連鎖的に倒産するリスクなどは低下した。預金者は13日にすべての預金を取り崩すことができる。さらに、FRBは、銀行に最長1年の資金を供給する措置を決めた。

例外的な預金の全額保護という措置は、銀行経営の緊張感を低下させるなどのモラルハザードという弊害を生む恐れがある。この点も意識して、金融当局は、経営難に陥った銀行の預金保護を強化する新たな基金の創設を検討しているとされる。今回の救済措置を、後追いで正当化するような動きにも見える。

シリコンバレーバンクは大口預金が中心であったこと、逆風にあるテクノロジー企業の取引の割合が高いこと(同行によるとベンチャーキャピタルが投資する米国のテックやヘルスケア企業の約半数が同行と取引しているという)、長めの国債、MBSを中心に債券投資を行っていたことから、金利上昇によって含み損が出やすい構造であったこと、さらに同行は、総資産に占める債券投資の比率は57%と他行比でかなり高かったこと、などが経営破綻の背景にあった。

この面でいえば、突然死のような今回の破綻劇は、同行の個社要因によるところが大きかったと言えるだろう。

異例の逆イールドなど米銀全体が抱える共通の問題も

しかし、シリコンバレーバンクの破綻は、米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りにした側面があったことも否定できない。

昨年来の歴史的な長期金利の上昇は、多くの銀行で債券の含み損を拡大させた。米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀全体で抱える債券の含み損は2022年末時点で約6,200億ドルと1年前の約80億ドルから急拡大した。また、金利上昇によって預金から資金が流出する動きが強まり、それが収益に逆風となったのである。例えば、銀行預金からMMFなどへの資金シフトだ。

また、足元で急速に進む逆イールド化は、短期で資金調達を行い長期で運用するビジネスモデルの銀行にとっては、収益を悪化させる強い逆風だ。足元では、2年債と10年債の逆イールドの幅は、1980年代以来の水準にまで達している。

さらに、FRBが急速に利上げを実施しても、景気は顕著に減速せず、高い物価上昇率が高止まりしていることから、FRBの金融緩和によって逆イールドが早期に解消される目途も立っていない。これが、銀行の先行きの収益見通しを厳しいものとしている。

このような点を踏まえれば、シリコンバレーバンクの破綻の底流には、米銀全体が抱える共通の問題があることは疑いがない。米銀だけでなく、米国債を多く保有する欧米あるいは日本の銀行も、米国債の含み損や逆イールドの問題を抱えている。この点からも、シリコンバレーバンクの破綻は米銀全体の信用不安へと発展するリスクを内在しており、さらに、世界規模で広がるリスクがあると言えるだろう。実際に先週は、日米欧同時に、銀行株の大幅下落が生じている(コラム「日米金融政策見通しの不確実性を映して両国の金融市場は連動して動揺」、2023年3月10日)。

(参考資料)
"Silicon Valley Bank Closed by Regulators, FDIC Takes Control", Wall Street Journal, March 10, 2023
「シリコンバレー銀なぜ破綻? テック金融の要、不安連鎖」、2023年3月11日、日本経済新聞電子版
「米シリコンバレー銀行破綻、FRBの利上げに影」、2023年3月11日、日本経済新聞電子版

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