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シリコンバレーバンクの破綻でリスク回避傾向を強めるグローバル金融市場:米利上げ停止観測も浮上

2023/03/13

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シリコンバレーバンク破綻の影響は東京市場でも色濃く

13日の東京市場は、先週末の米国でのシリコンバレーバンク破綻の影響を強く受けたものとなっている。先週金曜日に続いて、銀行株が大きく売り込まれ、日経平均株価も一時500円を超える大幅下落となった。

またリスク回避傾向は債券市場や為替市場にも色濃く表れており、10年国債利回りは0.32%と、昨年12月20日に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)を修正し、10年国債利回りの変動幅引き上げで利回りが上昇して以来、最低の水準にまで低下したのである。また、米国金融政策の見通しの修正や、信用不安によるリスク回避傾向を映して、為替市場では円高ドル安が進み、一時1ドル133円台半ばと2月中旬以来の水準となっている。

パニック的な預金取り崩しが銀行の連鎖破綻を引き起こすリスク

シリコンバレーバンクの破綻は、米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅利上げを進める中で、米銀の収益環境の脆弱性が強まったことを露呈した(コラム「シリコンバレーバンク破綻に見る米国信用不安の拡大リスクと金融政策への影響」、2023年3月13日、「シリコンバレーバンクの破綻は米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りに」、2023年3月13日)。

米金融当局は、国民の資金を使って同行を救済することはしない一方で、同行の預金を全額保護する異例の措置を講じ、預金を失ったハイテク新興企業の倒産、それが他の金融機関に打撃を与える連鎖のリスクを封じ込める姿勢をみせた。またFRBも、流動性の供給を通じて同行を救済することはしなかったが、銀行全体に対しては緊急の融資を行うことを決めたのである。

シリコンバレーバンクの破綻が、他の米銀や日本を含めた他国の銀行の経営環境に直接的に甚大な打撃をもたらすことはないだろう。しかし、ひとたび金融システムの信頼が損なわれれば、それが連鎖的な破綻を引き起こしてしまうリスクはある。

預金取り崩しの動きを抑える積極的措置

シリコンバレーバンクの破綻を受けて最も警戒されるのは、預金保険適用の上限である25万ドルを上回る預金を他行に保有する預金者が、銀行の連鎖破綻が起こって自身の預金を取り戻せなくなることを恐れ、大量の預金取り崩しを行うことだ。不安に駆られたそうした預金者の行動が、連鎖的な銀行破綻をもたらす可能性が考えられる。当局がシリコンバレーバンク、シグネチャーバンクの2つのケースで、預金を全額保護する特例措置を決めたことを通じて、その他の銀行についてもこの特例が適用されて預金が全額保護される、との期待を醸成し、預金取り崩しの動きをけん制することを狙ったようにも見受けられる。

また、FRBの緊急融資は、健全行がパニック的な預金取り崩しによって破綻するようなことがないよう、最後の貸し手としての機能を発揮する姿勢を見せるものだ。それを通じて、やはり預金取り崩しの動きをけん制する狙いがあるだろう。

FRBの利上げ見送り観測も浮上

こうした米当局の積極的な対応にもかかわらず、週明け後の金融市場ではなお信用不安がくすぶり続けている。さらにそれは、FRBの金融政策見通しの修正を生じさせている。

注目したいのは、13日の東京市場で米国の2年債利回りが先週末の米国市場からさらに0.2%ポイント以上低下し4.35%程度となった点だ。3月8日には5.07%程度の水準にあった2年債利回りは、わずか3営業日のうちに0.7%ポイント程度も急低下しているのである。これは、金融市場での信用不安の高まり、リスク回避の傾向を反映している。

さらにこのリスク回避傾向と一体で進んでいるのが、FRBの金融政策見通しの修正である。8日(水)時点ではFRBが3月21・22日の次の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を再び拡大し、0.5%とするとの見方がおおむね織り込まれていた。

しかし、シリコンバレーバンクの破綻を受けて10日(金)には、0.25%との見方が主流となっていったのである。さらに、週明け後の13日の東京市場では、FRBが3月の利上げを見送る可能性を市場はかなり織り込んでいる。現時点でのFF金先市場は、3月のFOMCで政策金利を据え置き、5月にかけ0.25%の追加利上げを実施した後、5%程度の水準で利上げは打ち止めになる、との見方を織り込んでいるように見える。さらに今年年末にかけては、0.25%程度の利下げを織り込んでいる。

FRBの利上げ観測後退は日本銀行の政策修正の先送り観測に

こうしたFRBの利上げ観測の後退は、4月以降の日本銀行の金融政策の見通しにも影響を与える。FRBの利上げ打ち止めの時期、そして利下げの時期が前倒しになるとの見方が金融市場に広がると、日本銀行が長期利回りの更なる上昇を伴うYCCの再修正やマイナス金利政策の解除に踏み切る時期も先送りされる、との観測が強まる。そうした措置が、急速な円高を招くリスクが高まるからだ。

13日の東京市場で10年国債利回りが大きく低下した背景には、信用不安を映したリスク回避の動きに加えて、日本銀行の金融政策の見通し修正の影響があるのではないか。さらに同日の銀行株の大幅下落は、米国発の信用不安の影響に加えて、日本銀行の政策修正が先送りされることで、邦銀の利鞘改善もまた先送りされてしまう、との懸念も影響しているのではないか。

今度はFRBが金融市場を救わないとの懸念

こうしたFRBの利上げ観測の後退は、金融市場での信用不安を緩和させる効果を持つはずであるが、現状ではそれは明確には確認できない。

金融市場が懸念しているのは、経済、金融のショックが生じる際に、リーマンショックやコロナショックでFRBが見せたような、政策金利を一気にゼロにまで引き下げるといった積極措置を、今回は見せないことだろう。それは歴史的な物価高騰の影響であり、FRBは物価の上振れ傾向が定着しないように、大幅な利下げに慎重な姿勢を続ける可能性が考えられる。従来は、大きなショック時にFRBの積極的な緩和が米国あるいは世界の経済や金融市場を救ってきたが、今回はそうしたFRBの役割が期待できないとの見方が、金融市場の動揺を増幅している面もあるだろう。

米景気減速が本格的に信用不安を高める可能性

更にこの先、米国の景気減速傾向がより鮮明化していってもFRBが積極的な利下げを実施しないことで、先行きの景気への不安が一層高まり、実際に景気情勢が悪化する可能性があるだろう。

今回のシリコンバレーバンクの破綻が、一気に米国の銀行システムを揺るがす事態とはならないとみられるものの、今までのFRBの大幅利上げの影響にこの先、景気情勢の悪化が加わってくれば、銀行の収益環境の悪化、経営の脆弱性が強まるとの観測から、銀行システムへの不安や金融市場の動揺が本格的に引き起こされる可能性があるだろう。そしてそれには、グローバルな信用不安と金融市場の動揺へと発展する可能性がある。

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