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景気が悪化すれば米国信用不安は次のステージに

2023/03/15

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債券投資の損失と逆イールドによる収益悪化

シリコンバレーバンク(SVB)の破綻、それをきっかけとする銀行不安の高まりの背景には、銀行の財務を取り巻く金融環境の大きな変化がある。

歴史的な物価高騰への対応として、米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年3月以降、急速な利上げ(政策金利引き上げ)を行ってきた。また、短期金利(政策金利)の先行きの大幅上昇を予想して、10年財務省証券金利は昨年年初の1.4%台から10月には4.2%台まで急上昇した。

その結果、銀行が保有する国債、政府機関債などの債券に大きな含み損が発生してしまった。そうした債券を売却すれば実現損となり、含み損を抱えたままでも大手行では規制上の自己資本が毀損される、などの財務上の問題が発生したのである。この局面を【第1ステージ】としよう(図表)。

やがて短期金利の急速な引き上げによって、長短金利差は縮小し、さらに長短金利が逆転する逆イールドが生じる。短期で資金を調達し、貸出や長期債への投資など長期で運用するビジネスモデルを持つ銀行にとって、逆イールドは利鞘を縮小させ、資金収益を悪化させる。【第1ステージ】から銀行の財務環境が一段と厳しさを増すのが、この【第2ステージ】である。現在は、この【第2ステージ】にあると考えられる。

FRBが金融引き締めを行う局面では、常に長短金利差の縮小、あるいは逆イールドは発生する。しかし今回は、SVBの破綻直前で、2年と10年の金利差は1980年代初頭以来のマイナス幅にまで達していた。

さらに、高い物価上昇率が続く中で、FRBが利下げに転じる時期が遅れ、逆イールドが長期化するとの観測が、銀行の資金収益の見通しを厳しいものとさせているのである。

図表 米国長短金利のサイクルと銀行財務環境の変化のイメージ

経済悪化で「二重苦」は「三重苦」に転化

このように、長期金利上昇による債券損失の拡大と逆イールドによる資金収益の悪化のいわば「二重苦」が、銀行全体の財務を圧迫する局面で今回のSVB破綻が生じたのである。

他行と比べて資産全体に占める債券投資の割合が高く、しかも価格リスクが大きく逆イールド下で逆鞘がより大きくなる、長期の債券投資に傾倒していたことから、SVBにとってこの「二重苦」はとりわけ大きかったのである。しかし、苦しみはすべての米銀に共通している。

この先ステージが進み、【第3ステージ】に入っていけば、銀行不安、信用不安はさらに高まる可能性があるだろう。それは、今までの大幅利上げによって、いよいよ米国経済が悪化するステージだ。

景気が悪化すれば、貸出先企業の信用リスクが高まり、銀行の貸出資産が劣化する。そこで今度は、信用コストの上昇が、銀行の収益環境を損ねる局面へと入っていく。「二重苦」は「三重苦」に転化するのである。

その際には、経営基盤がぜい弱な米国の中小、中堅銀行の経営不安や破綻が続き、信用不安が再度高まる可能性がある。当面のところは、金融市場はやや安定を取り戻す流れ、と見ておきたいが、局面がこの【第3ステージ】に進めば、信用不安、市場の動揺の第2弾が生じる可能性があるのではないか。

FRBは経済・金融を救わないとの懸念

金融市場が懸念しているのは、経済、金融のショックが生じる際に、リーマンショックやコロナショックでFRBが見せたように、政策金利を一気にゼロにまで引き下げるといった積極的な措置を、今回は見せないということだろう。今回は、FRBは歴史的な物価高騰が定着しないように、利下げへの転換、あるいは大幅利下げの実施に慎重な姿勢を続ける可能性が考えられる。

従来は、大きなショック時にFRBの積極的な緩和が米国あるいは世界の経済や金融市場を救ってきたが、今回はFRBにそうした役割が期待できない、との見方が、金融市場の動揺を増幅してしまう可能性があるのではないか。

銀行不安と証券市場の動揺が重なる新たなタイプの信用不安に

また、経済の悪化は企業の信用リスクを高める。これが、既往の金利上昇の影響と重なることで、企業の負債である証券、例えばハイイールド債(ジャンク債)、証券化商品などの価格調整を生じさせる可能性があるだろう。既に足元でも、ハイイールド債のスプレッドの急拡大がみられている。

【第3ステージ】に至れば、米国の銀行不安と証券市場の動揺が重なる、新たな信用不安となり、それがグローバルに波及していく可能性が考えられる。米国経済の動向を注視しておく必要があるだろう。

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