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SVB破綻を巡る当局対応の功罪と政治問題化する銀行規制強化の議論

2023/03/16

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2行の破綻を巡る政府の対応の功罪

シリコンバレーバンク(SVB)とシグネチャーバンクの破綻時の当局の対応については、その巧拙、功罪を巡る議論が今後本格化していくだろう。その対応は、2008年のリーマン・ショック時の経験、教訓を強く意識したものである。

当局は、2行を救済せず、投資家の損失を容認する一方で、債権者の一部である預金者の預金は全額保護するという異例の対応を決めた。預金を全額保護しなければ、SVBに預金を持つ新興企業で給料の未払いや従業員の解雇、あるいは倒産など社会的な問題が生じることを回避する狙いが背景にあっただろう。また、預金者による預金取り崩しの動きが、多くの銀行で加速することを回避する狙いもあったとみられる。

ただし、25万ドルを上限とする預金を保護するという預金保険制度のルールを曲げた異例の対応は、モラルハザードという弊害を生む。この先、中堅・中小銀行の破綻が続く場合には、政府は、同じように預金を全額保護する対応をせざるを得ないだろう。そこで、預金は全額保護されるとの安心感が生じると、預金者は経営をしっかりと監視し、不安があれば預金を取り崩すといった行動をとらなくなる。それが経営の緊張感も損ねてしまい、銀行の経営リスクを高める。

他方で、銀行の破綻を許し、投資家を保護しないことを当局が選択したことで、投資家の不安は増幅され、その後の銀行株の下落を加速させてしまった面があるだろう。

今後の銀行破綻の処理は国民負担になり得る

バイデン大統領は13日の演説で、2つの銀行の破綻処理で国民には負担が発生しないことを強調した。これはリーマン・ショックの際には、銀行救済に国費、つまり国民の税金が投入され、それが後に強い批判を浴びたことを意識した発言である。実際、預金の全額保護には、国費ではなく連邦預金保険公社(FDIC)の預金保険基金が充てられる。

FDICの預金保険基金残高は、昨年末時点で1,282億ドル(約17.2兆円)である。これは保険の対象となる預金の1.27%に相当する。

この先、中堅・中小銀行の破綻が続けば、預金を全額保護する資金を基金では賄うことができず、国費を投入せざるを得なくなる可能性もあり得るのではないか。あるいは、そこまで事態が悪化しないとしても、預金保護の金額が膨らんでいけば、基金の水準を維持するために、加盟する銀行の保険料が引き上げられる可能性は高い。それは、預金金利の引き下げや各種手数料の引き上げなどの形で、国民である預金者に転嫁されるだろう。

また米連邦準備制度理事会(FRB)は、「銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」によって銀行に融資を提供することを決めた。仮にこのプログラムで損失が出た場合は、財務省がそれを補塡することになり、結局は国民の負担となる。

これらの点から、先行きについては、銀行破綻の処理が国民の負担にならないとは言い切れない。

政府、FRBは中堅銀行に対する規制強化を検討

バイデン大統領は13日の演説で、2010年に民主党オバマ政権のもとで、自身が副大統領として、リーマン・ショックの再発防止を目的とする金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立に尽力したことをアピールした。他方、「厳しい銀行規制の一部を前政権が覆した」と指摘し、今回の破綻に、トランプ前政権が進めた金融規制の緩和が影響したとの考えを示唆したのである。

トランプ政権のもとで、2018年に金融規制改革法が改正された。FRBによるストレステスト(健全性審査)の対象銀行の要件が、この改正で、連結総資産「500億ドル以上」から5倍の「2,500億ドル以上」まで引き上げられた。これにより、中堅銀行の財務の健全性に対するチェックが十分に働かなくなった、と民主党は主張している。

昨年末時点でSVBの総資産は約2,090億ドル、シグネチャーバンクの総資産は約1,103億ドルと、ともにFRBによるストレステストの対象となっていなかった。

バイデン大統領は13日の演説で、規制の再強化を議会に要請すると表明した。 ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、FRBも資産規模1,000億ドル~2,500億ドルの中堅銀行に対する規制の強化を検討しているという。上記のストレステストの対象銀行の要件を見直すことや、中堅銀行の資本・流動性要件を厳格化することなどが選択肢だ。

与野党の政治対立が銀行経営の健全化を阻む可能性も

FRBはすでに、金融監督担当のマイケル・バー副議長が中心となってさまざまな規制を見直していた。しかし2行の銀行破綻を受け、見直しの一部を検討し直し、より小規模の金融機関にも目を向けるようにしたという。

ただし、上院で過半数の議席を奪還した共和党は、銀行規制の強化には慎重姿勢である。FRBが独自に実施できる規制強化はこの先進むだろうが、金融規制改革法改正などの法改正は、共和党に阻まれて簡単には議会で可決されない。

2行の破綻で浮き彫りとなった、中小・中堅銀行の経営不安の問題への抜本的な対応が打たれない中、金融市場の不安定な動きは当分解消されないだろう。さらに、今後、米国経済の悪化が明らかとなり、銀行の貸出資産の劣化のリスクが高まれば、銀行不安が増幅され、いわば次のステージに入っていくことになるだろう(コラム「景気が悪化すれば米国信用不安は次のステージに」、2023年3月15日)。それを見越して、中堅銀行の健全性と信頼性を高める取り組みを、迅速に進めていく必要がある。

(参考資料)
"Biden's SVB Challenge: Prevent Financial Panic Without Stirring Populist Backlash(米銀破綻でバイデン氏に試練 国民の反発避ける)", Wall Street Journal, March 15, 2023
"Fed to Consider Tougher Rules for Midsize Banks After SVB, Signature Failures(FRB、中堅銀行の規制強化を検討へ)", Wall Street Journal, March 15, 2023
「トランプ政権の規制緩和が波紋=与野党の非難合戦に―米銀破綻」、2023年3月14日、時事通信ニュース

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