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ファースト・リパブリックの救済策、大手行の300億ドル預金も抜本的な解決とはならず

2023/03/17

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主要行が預金を預け入れる「奉加帳」方式

シリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャーバンクの破綻を受けて、経営不安が生じている米中堅銀行のファースト・リパブリックに対して、JPモルガン・チェースなど主要米銀11行は16日、合計300億ドルの預金を預け入れるという救済策を決めた。いわば「奉加帳」方式である。これによって、同行の流動性危機は当面回避されることになるだろう。

ファースト・リパブリックは大口預金が多く、預金保険でカバーされる上限25万ドル以上の大口預金の残高が全体の7割を占めていた。預金保険でカバーされないことで破綻時に資金を失うことを懸念する顧客が、預金を一気に取り崩して流動性危機に陥ったSVBと同様のリスクがこの銀行にもあったのである。

政府や中央銀行ではなく民間の主要銀行が金融機関の救済に乗り出す「奉加帳」方式は、1998年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)でも行われた。当時は、合計36.5億ドルの出資が行われた。ただし今回は、出資ではなく預金である。

大手行は買収を通じた救済を受け入れなかったか

この救済策は、イエレン財務長官とJPモルガンのダイモンCEOが中心となってまとめ上げたとされる。財務省は、他行による買収を通じたファースト・リパブリックの救済を画策した可能性があるが、最終的に今回の救済策にまとまったのは、JPモルガンあるいはその他の銀行が、買収案を受け入れなかったためである可能性も考えられる。

2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)時には、JPモルガンがベア・スターンズとワシントン・ミューチュアルを、あるいはウェルズ・ファーゴがワコビアを買収した。ただし問題のある銀行を買収すれば、その後何年も業務面や規制面で問題を抱えるリスクがある。JPモルガンのダイモンCEOは、こうした問題を生じさせる買収を繰り返したくない、との主旨の発言をしているという。

ただし、資本力のある他行に買収されず、あるいは資本も増強されない今回のファースト・リパブリックの救済策は、抜本的な解決策とは言えないのでないか。

FRBの流動性供給と似ているが異なる

銀行の経営不安が高まるなか、体力の弱い中堅・中小銀行から破綻リスクが低い大手行に預金が急激に流れている。今回の救済策は、そうして大手行に集まった預金を、再び問題のある銀行に戻す性格のものでもある。

主要行がファースト・リパブリックに預金を預け入れるということは、自らが米連邦準備制度理事会(FRB)に持つ中銀当座預金をファースト・リパブリックの中銀当座預金に移しかえることを意味する。ファースト・リパブリックの中銀当座預金が300億ドル増えれば、同行はそれを顧客の預金取り崩しの原資に充てることができ、預金の返済に応じられなくなる債務不履行による破綻のリスクは下がる。

しかし、顧客の預金取り崩しが続けば、その分、主要行からの預金預け入れで増えたファースト・リパブリックの中銀当座預金はまた減ってしまう。

FRBがファースト・リパブリックに流動性供給を行う場合でも、主要行の預金預け入れと同様に、ファースト・リパブリックの中銀当座預金が増加し、それを同行は顧客の預金取り崩しに充てることで、債務不履行を回避できる。現象面では、FRBの流動性供給によるファースト・リパブリック救済も、主要行の預金預け入れによるファースト・リパブリック救済も同じである。

しかし、FRBの場合には、ひとたび流動性を供給した救済策を講じれば、必要に応じて何度でも追加措置を行うとの期待が高まりやすい。しかし主要行の預金預け入れでは、そこまでの信頼性はない。

抜本的な解決にはならない

買収でもなく、資本投入でもない主要行による預金預け入れでは、ファースト・リパブリックの救済策としては抜本的なものではなく、また、米国の銀行不安を解消するほどの影響力はないだろう。

FRBが連銀窓口貸出制度と12日に導入したバンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の2つを通じた銀行貸し出しは、15日までの1週間で1,648億ドル(約22兆円)に達した。特に連銀窓口貸出制度を通じた貸出は、1,528億5,000万ドルと、前週の45億8000万ドルから一気に増え、2008年の金融危機時に記録した1,110億ドルを上回って過去最高を記録した。

FRBの銀行に対する貸出の急増は、銀行不安を緩和する方向に働くだろうが、貸出が急増したこと自体は、銀行不安の深刻さの反映でもある。

(参考資料)
"Banks' Big Plan Might Solve the Immediate Problem, but Not the Bigger Ones(米銀大手の救済プラン、根本的な解決にならず)", Wall Street Journal, March 17, 2023
"Banks Rush to Backstop Liquidity, Borrow $164.8 Billion From Fed", Bloomberg, March 16, 2023

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