銀行不安対策で公的関与はさらに強まるか
米国財務省は預金の全額保護を拡大する考え
3月19日のUBSによるクレディ・スイス買収決定を一つの契機として、足元での世界の銀行不安はやや緩和されている。ただし、先行きについてはなお不透明だ。米国とスイスの当局の対応を見ると、政府、金融当局による公的関与が強まる方向で、対策が追加的に講じられている。
当初は、公的関与、特に政府による公的資金(財政資金)の投入を避け、できるだけ民間による解決が模索されていたとみられる。しかし、スイスではクレディ・スイスの経営に対する不安、米国では中堅・中小銀行の経営不安が一気に高まったことで、政府や金融当局は関与を強めざるを得なくなっている。クレディ・スイスはUBS による買収が決まったが、政府が今後生じる損失の90億スイスフランス保証を決めなければ、UBSが買収を受け入れることはなかったのではないか。純粋に民間のディールだけで、問題解決は難しかったのだろう。
また米国では、政府がシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャー・バンクの両行の顧客預金を全額保護することを決めた。当初は、これは例外措置であると米財務省は説明していたが、25万ドルを上限とする預金保護の対象とならない資金を別の銀行の預金に移す、預金流出が一部の銀行で止まらなかった。そこでイエレン米財務長官は21日に、金融不安が今後広がった場合には、預金の全額保護などの臨時措置が他の銀行にも適用される可能性を示唆することを余儀なくされた。
ファースト・リパブリック・バンクの救済策は仕切り直し
一方、財務省がJPモルガン・チェースのダイモンCEOに呼びかける形で、JPモルガン・チェースなど主要米銀11行は16日に、経営不安に見舞われていたファースト・リパブリック・バンクに、合計300億ドルの預金を預け入れるという救済策を決めた。しかし、預金の投入という流動性強化策だけでは十分でなく、同行の経営の安定回復にはつながっていない(コラム「ファースト・リパブリックの救済策、大手行の300億ドル預金も抜本的な解決とはならず」、2023年3月17日)。
そこで、主要行は、追加の支援策の検討を始めている。預金ではなく出資(増資)によって財務基盤を立て直すことが選択肢、と20日にウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。しかし、主要行がそうしたリスクをとることに慎重な姿勢を崩さない場合には、実現できないだろう。
21日にブルームバーグは、政府が後ろ盾となって外部企業によるファースト・リパブリック・バンクの資産の買い取りを促進する可能性を探っている、と報じている。政府が主導する形で、同行の身売り、あるいは資産の切り売りが模索される可能性がある。ロイター通信は、プライベート・エクイティ(PE)企業などへの融資債権売却が選択肢に含まれていると報じている。
最終的には公的資金頼みの決着となるのか
米規制当局は、経営破綻したSVBとシグネチャー・バンクの売却促進の一助になる場合、政府による損失補填を検討する意向を持っている、と17日に英紙フィナンシャル・タイムズが関係筋の話として報じていた。その後、シグネチャー・バンクの売却は実現したが、SVBの売却はうまくいかず、いわゆる切り売りが検討されている。これは、ファースト・リパブリック・バンクについても同様である。
政府は両行の売却を促すために、スイス政府がUBSに約束したように公的資金で損失補填を行う可能性があるのではないか。これは、国民の税金の投入である。
銀行の経営不安の問題が浮上すると、政府は当初、公的資金の投入を極力避けようとするが、それでは問題が解決できないことを理解し、最終的には公的資金の大規模な投入を余儀なくされ、それが事態解決への足掛かりになる、というのが過去の典型のように思われる。
2008年のリーマンショックを受けて、各国政府は銀行の健全性を強化し、また銀行の経営不安が生じても、公的資金の投入を避けるように銀行規制を強化し、あるいはAT1債のように損失を吸収する債券を導入した。しかし足元の状況をみると、結局は、そうした取り組みは十分に成功していないように見える。
足元で欧米を中心とする銀行不安はやや落ち着きを示しているようにみえるが、大幅な金融引き締めと足元の銀行不安の影響が重なれば、欧米を中心に主要国の景気は悪化し、それが銀行の不良債権問題を深刻化させれば、銀行不安は再び強まることになるだろう。
最終的には、政府による大規模な公的資金の投入によって、ようやく銀行不安が収束していく、といった結末が待ち受けている可能性もあるのではないか。
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