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シリコンバレーバンク(SVB)破綻直前の舞台裏

2023/03/28

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ウォールストリート・ジャーナル紙は、3月10日に破綻に追い込まれた米国シリコンバレーバンク(SVB)が、なぜ破綻を回避できなかったのか、破綻の前日から始まる緊迫の舞台裏を報じている。

ひとたび銀行が信用を失い、急激な預金流出に見舞われると、十分な流動性を確保しているようであっても、突然死のような破綻を回避できないことが、同行の破綻劇から教訓として得られたのではないか。

実際には、既存の各種規制、ルール、慣行などが破綻回避の妨げとなったことが確認できる。流動性危機の下で銀行が米連邦準備制度理事会(FRB)から迅速に緊急融資を受けることができる仕組みを、再度考え直す必要があるだろう。

米西海岸時間で3月9日の昼前には、SVBからの預金の引き出しが加速した。それらは、スマートフォンのアプリで極めて迅速に行われたのである。

そこでSVBは、サンフランシスコの連邦住宅貸付銀行(FHLB)に200億ドルの融資を求めた。銀行はFHLBに住宅ローン債権などの担保を預け、同行から融資を得る。ただし、SVBからの融資要請はその規模が大きすぎ、サンフランシスコのFHLBが同日中にそれを処理するには遅すぎた。

SVBは、今度はFRBの連銀貸出制度(ディスカウント・ウィンドウ)から緊急融資を受けようとしたが、それにはFRBに担保を差し入れる必要があった。そこでSVBは、FHLBに差し入れている担保をFRBに移すようにFHLBに依頼した。ところが、SVBはFHLBから別途融資を受けていたため、それに必要な担保をFHLB内に残す処理をする必要があり、FRBに移すことができる担保の額を計算するのに手間取った。

そのためSVBは、同行の証券保管銀行の一つであるバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)を通じて、FRBに担保となる200億ドルの証券を移動させることを試みた。ただし、その時は、保管口座からFRBへの移動指示を受理するBNYメロンの締め切り時間を既に過ぎていた。それでもSVBの必死な説得を受け入れて、BNYメロンはFRB及びニューヨーク連銀と調整して、担保を移す処理を完了させたのである。

ところが最後の障害は、FRBのルールにあった。FRBでは担保を移動させるには、事前にテストを行う決まりになっており、それには時間が足りなかった。FRBは、SVBを助けるために、西海岸の午後4時に設定している担保移動の締め切りを延長することはなかったのである。そのため、同日中の担保移動、そして連銀貸出は実施されなかった。

翌日の10日、BNYメロンからFRBへの担保の移動が完了し、SVBはFRBから連銀貸出を受けられる見込みとなった。しかしその時には既に遅く、急激な預金流出によってSVBの現預金は底をつき、米連邦預金保険公社(FDIC)がSVBを管理下に置いたと発表していた。こうしてSVBは突如破綻に追い込まれたのである。

3月9日にはSVBの預金残高の4分の1程度にあたるとみられる420億ドルの預金が一日で流出した。スマートフォンで瞬時に預金を取り崩す預金者に対して、SVBはFRBへの担保移転などに関わる上記の様々なルール、慣例に阻まれて、破綻を回避することができなかったのである。

今後の銀行破綻の回避、銀行システムの安定確保の観点から、SVBは大きな教訓を残したと言えるだろう。

(参考資料)
"How the Last-Ditch Effort to Save Silicon Valley Bank Failed(米銀SVB、最後の数時間 資金獲得に奔走 緊急融資を求めたが預金引き出しが加速、間に合わず)", Wall Street Journal, March 23, 2023

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