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ファースト・シチズンズ・バンクがSVBを買収

2023/03/29

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SVBの融資債権720億ドルを165億ドルの大幅割引で買い取るスキーム

3月10日に破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれていたシリコンバレーバンク(SVB)は、ノースカロライナ州に本店を置く、資産額で全米第30位のファースト・シチズンズ・バンクを傘下に持つ銀行持ち株会社ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズグループが買収することで合意が成立した。

FDICはSVBを管理下に置いた後、直ぐに売却のための入札を実施したが、買い手は現れず、20日になって入札の締め切りを24日まで延長していた。FDICは、SVBを部門ごとに分割して売却することも一時は検討していた。大手銀行や主要地方銀行はSVBの買収に慎重であり、最終的には中堅地方銀行に買われることになった。

SVBが破綻した時点で、その総資産は約1,670億ドル、預金総額は約1,190億ドルだった。ファースト・シチズンズ・バンクは、SVBの資産のうち、有価証券の約900億ドルを除く融資債権の約720億ドルを引き継ぐ。ただし、その資産を、165 億ドルの大幅割引の価格で購入する。有価証券についてはFDICに残る。また、ファースト・シチズンズ・バンクが買い入れる融資債権に信用損が生じた場合には、FDICがその損失を分担する合意も結ばれる。

買収スキームの詳細は明らかではないが、ファースト・シチズンズ・バンクにとっては好条件での買収となったのではないか。

預金保険基金の負担は200億ドル

他方、FDICも買収の果実を一部得られる仕組みとなった。FDICは、ファースト・シチズンズ・バンクの普通株の評価益権を取得する。その潜在価値は5億ドルである。ファースト・シチズンズ・バンクの株価が582.55ドルを上回れば、FDICに利益が生じることになる。買収合意が発表された27日の株価は前日比53.7%高の895.6ドルとなった。

FDICによると、SVBの破綻によって200億ドルが預金保険基金の負担になるという。ファースト・シチズンズ・バンクの株式評価益権を通じて、その負担は小さくなる可能性がある一方、ファースト・シチズンズ・バンクが引き継いだ融資債権から生じる損失、かなりの含み損を抱えていると推察されるSVBの有価証券の売却損によって、負担がさらに膨らむ可能性もあるのではないか。

銀行預金の保護や銀行の破綻処理の原資となるFDICの預金保険基金は、現時点で1,282億ドルである。SVBの破綻によって減少する基金の額がFDICの推計に従って200億ドルだとすると、基金の15.6%が失われることになる。

この先銀行の破綻が続き、同額の負担を生む処理があと7行分なされる場合には、預金保険基金は底をついてしまう計算となる。その際には、銀行が支払う預金保険料が引き上げられ、銀行の収益が圧迫される。

預金保険料を引き上げる時間的余裕がない場合には、公的資金が投入されることで、預金保護や銀行の破綻処理が進められることになるだろう。国民負担の発生は、国民の批判を高め、大きな政治問題に発展していくリスクがある。

(参考資料)
「SVB、米中堅銀が買収へ 預金・融資・支店、受け継ぐ」、2023年3月28日、朝日新聞
「破綻のシリコンバレー銀、米中堅地銀が買収」、2023年3月28日、日本経済新聞

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