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第2回民主主義サミット:民主主義の理念だけではグローバルサウスの取り込みは難しい:監視技術の輸出管理を20か国に拡大

2023/03/31

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グローバルサウスの取り込みを狙うバイデン大統領

バイデン米大統領は3月29・30日に、2021年12月の初会合に続いて第2回の「民主主義サミット」を開催した。招待されたのは、前回よりも8か国多い120か国・地域の首脳らである。

初参加となる8か国のうち5か国がアフリカの国々だ。コートジボワール、ガンビア、モーリタニア、モザンビーク、タンザニアである。また、欧州のボスニア・ヘルツェゴビナとリヒテンシュタイン、中米のホンジュラスも招待された。中国やロシアが経済面、軍事面で関与を強めているアフリカ地域を中心に、存在感を高めているグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)を民主主義勢力に取り込む狙いがこのサミットにはある。

世界の分断を煽っていないか

バイデン大統領は、「民主主義世界はより強くなった。権威主義世界は弱体化している」として、中国やロシアを念頭に、権威主義的国家に対する民主主義的国家の優位をアピールした。ただし、世界を民主主義国と権威主義国と、敵と味方の2つに分ける論法については、世界の分断化を煽っているとの批判もある。

民主主義サミットの招待国を選ぶ基準が不透明であり、恣意的だとの批判は米国内にもある。北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、トルコとハンガリーは、前回に続き招待されなかった。メディア統制などを通じた政権の強権的な姿勢が理由なのだろう。

ただし両国は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟のカギを握る国であり、招待されなかったことの悪影響も懸念されるところだ。東南アジアでは、米同盟国タイや、シンガポールなどが招待されなかった。

民主主義の理念だけではグローバルサウスの取り込みは難しい

バイデン政権は民主主義サミットで、人権尊重、自由で公正な選挙、公平な司法制度、汚職防止などの民主主義の諸原則を確認したうえで、国際法の順守、デジタル技術の適正な利用、サイバー空間での人権擁護への取り組みを加速させる「民主主義サミット宣言」を発表した。

しかし、参加約120か国・地域のうち、この宣言への支持を表明したのは、全体の約6割にあたる73か国・地域にとどまった。米国の友好国であるインドやイスラエル、ポーランドなどは宣言の一部内容への支持を留保したのである。

民主主義の理念だけでは、グローバルサウスなどを民主主義国家の陣営に取り込むことは難しい。そこでバイデン大統領は、各国の汚職対策や報道の自由などを守る取り組みのために、今後2年間で新たに6億9,000万ドルを拠出すると表明した。いわば実利による取り込みを狙ったのである。

「輸出管理・人権イニシアチブ」でも米国は譲歩

バイデン政権はパソコンやスマートフォンから情報を抜き取る民間の「スパイウエア」が人権侵害にも使われているとして、対策強化を呼びかけている。

またバイデン政権は、民主主義の価値観の共有と中国封じ込めの双方を狙い、中国を念頭に人権侵害に使われる技術の管理に取り組むことをサミットでアピールした。初回の会合時に、米国、オーストラリア、デンマーク、ノルウェーの4か国で立ち上げた「輸出管理・人権イニシアチブ」に、今回、日本や英国、ドイツ、フランス、韓国など20か国が支持したのである。

中国は少数民族ウイグル族の動向を管理するため、監視カメラや顔認証を活用しているとされる。米政府は、民主主義国の先端技術が人権弾圧に結びつかないように、各国で輸出管理を強化することを狙っている。

ただし、最終的には、対象となる品目や国、規制の仕組みは各国が判断できるようにする、というかなり緩い規定となった。厳しい規制で中国との関係悪化を警戒する国や、貿易への悪影響を懸念する国に配慮したためである。その結果、米国が中国に対して厳格な輸出管理を行っても、他の主要国からの輸出によってその効果が減じられてしまう可能性がある。

それでも米国は、緩い規定を認めつつ、輸出管理を支持する国を拡大することを選んだのである。

各国の経済的メリットに配慮しつつグローバルサウスからの信頼獲得を目指す

米国が主導する民主主義サミットは、先進国と中ロ諸国との分断をいたずらに煽る一方、分断に根差す様々な問題の解決には貢献しないように思われる。グローバルサウスの中で、中国に対して経済面で依存度が高い国は、米国が掲げる民主主義の理念に一定程度賛同するとしても、中国に対して米国と足並みを揃えて厳しい経済制裁措置を講じることは難しい。

経済と安全保障分野は不可分であるため、日本は中国を念頭に経済安全保障政策を推進しており、特定品目での中国製品の過度の依存度低下などに取り組んでいる。しかし、そんな日本にとっても、中国は米国と並んで最大の貿易相手国であり、両国の経済関係を一気に解消すれば、日本経済には甚大な打撃が及んでしまう。政治面、経済面双方から中国封じ込めを図る米国と完全に足並みを揃えることは、同盟国である日本にとってさえも難しいのである。

米国は民主主義の理念だけでなく、各国の経済的側面に十分配慮しつつ、グローバルサウス諸国からの信頼を獲得していく真摯な姿勢が望まれるところだ。

(参考資料)
「民主主義サミット、ゼレンスキー氏「露は民主主義の敵」 宣言支持は招待国の6割」、2023年3月30日、産経新聞速報ニュース
「監視技術の輸出管理20カ国に拡大 米国、中身より数優先」、2023年3月30日、日本経済新聞電子版
「人権侵害阻止の輸出管理枠組み、日本など20カ国参加」、2023年3月30日、日本経済新聞電子版
「バイデン氏主宰、民主サミット開幕 「露の責任追及する」」、2023年3月30日、産経新聞 
「民主主義陣営結束で中ロに対抗―サミット、次回は韓国主催」、2023年3月30日、共同通信ニュース
「対中ロ 結束確認へ*米主催*民主主義サミット開幕」、2023年3月30日、北海道新聞朝刊全道

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