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英国のTPP加盟:中国・台湾の加盟は棚上げか

2023/03/31

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TPPは欧州地域にも広がる

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加する日本など11か国は3月31日に、英国の加盟を認めることで合意した。今後は協定の細部などを詰めたうえ、7月15〜16日にニュージーランドで開かれる「TPP委員会」で、英国は協定文書に署名する見通しだ。その後、各国議会での承認手続きなどを経て、英国の加盟が正式に発効する。

TPPは高い水準の関税の撤廃率と投資や電子商取引などの自由度の高いルールが特徴の自由貿易協定である。TPPは99%の品目について、関税を段階的に撤廃する。工業製品では最終的に撤廃率は99.9%になる。中国など15か国が参加するRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)での関税撤廃率の91%と比べて高く、より高度な自由貿易協定と言える。

英国は2020年末に欧州連合(EU)から離脱した。それによって他国と自由に貿易協定を締結できるようになったのである。そこで、EU離脱のメリットを生かす観点からも、EU以外の地域との経済関係を強化するため、英国は2021年2月にTPPへの加盟を申請した。

英国が加わることで、TPPはアジア・オセアニア・米州地域の自由貿易協定という位置づけから、欧州も含む協定へと範囲が広がる。また英国が加わることで、TPP加盟国のGDPの合計額は、11.7兆ドルから14.8兆ドルに増え、世界全体のGDPに占める比率は12%から15%に高まることになる。

英国加入の経済効果は大きくない

ただし、英国が加わることで、TPPがもたらす経済効果が大きく高まるとは言えない。アジア経済研究所の分析によると、英国の加入で最もプラスの経済効果を享受するのは英国自身であるが、2023年までの英国の実質GDPの押し上げ効果は+0.02%に過ぎない。分野別には、繊維・衣料が+0.40%、食品加工が+0.35%、自動車が+0.20%である。

日本については2023年までの実質GDPの押し上げ効果は+0.00%である。分野別には繊維・衣料が+0.09%で最大であり、それに続くのが食品加工の0.05%だ。日本経済にとって英国のTPP加入の経済効果が小さいのは、すでに2国間で経済連携協定(EPA)を結んでいるからでもある。

中国、台湾の加盟は棚上げに

今後は、TPPのさらなる拡大が焦点となる。2021年9月に中国、台湾がTPP加盟を申請した。その後には、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも申請している。TPPを主導する日本は、さらなる加盟国の拡大を進めたい考えである。

しかし、中国と台湾の加盟は容易に進まないだろう。国有企業への不透明な補助金や進出企業に対する技術移転の強要などが問題視されている中国のTPP加盟を認めれば、高度な自由貿易協定という性格が中国によって変質させられてしまうことを警戒する意見が多い。

また、日本はいずれ米国がTPPに加盟することを望んでいるが、中国がTPPに加盟すれば、それは難しくなってしまう。米国は中国経済とのデカップリングを志向しており、中国と同じ自由貿易協定に加盟するとは思えない。また、米国は自らは加盟していないながらも、TPPを中国など権威主義国、国家資本主義国に対抗する民主主義国、自由主義国の協定と位置付けているとみられ、中国のTPP加入に反対するのではないか。その場合、日本は中国のTPP加盟を認めないだろう。他方、台湾のTPP加入を認めれば、台湾を中国の一部としている中国を過度に刺激してしまうことになる。

先述のアジア経済研究所の分析によると、英国に加えて、中国、台湾もTPPに加盟する場合、2030年までに日本のGDPは0.07%押し上げられるとの計算となり、英国単独の加盟よりも大きな経済効果が期待できる。

しかし大きな問題を抱える中国と台湾の加盟問題は、棚上げされる可能性が高いだろう。

(参考資料)
「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の経済効果に関するシミュレーション分析―イギリス、中国、台湾の加入」、2021年10月25日、アジア経済研究所、熊谷聡、早川和伸
「TPP英加盟でどうなる 経済圏、インド太平洋から欧州に」、2023年3月30日、日本経済新聞電子版
「英国のTPP加盟合意 初の参加国拡大、7月署名目指す」、2023年3月31日、日本経済新聞電子版

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