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中国からの入国規制緩和でインバウンド需要は勢いづく:ポストコロナのインバウンド戦略の鍵は3つ

2023/04/18

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訪日外国人客数はこの先加速へ

4月19日(水)に政府観光局は、3月分の訪日外国人客数を公表する。昨年10月の水際対策緩和以降、海外からの旅行客は急速に戻っている。昨年9月時点での訪日外客数は、コロナ前の2019年の同月と比べて-90.9%、つまり10分の1の水準に留まっていた。しかし今年1月には、2019年同月比+55.7%と半分以上の水準にまで急速に回復した。ただし、2月には同+55.6%と回復ペースにブレーキがかかったようにも見える。

ただし、中国からの旅行客数は1-2月の平均で2019年同時期のわずか4.6%、つまり20分の1にも満たない水準に留まる中で、ここまで急速に訪日外国人客数全体が回復したのは驚異的である。コロナ前には、中国からの観光客が国別で断トツで一位だった。

ただし、中国からの入国規制については、既に緩和が始まっている。4月5日からは、中国本土からの直行便による全入国者に求めてきた、出国前72時間以内の陰性証明の提示が不要となった。さらに、新型コロナの感染症法上の分類を5類に引き下げる5月8日以降、接種証明の提示も不要となる。

こうした水際対策の解除を受けて、中国からの入国者はこの先急速に増えることが予想される。その結果、訪日外国人客数全体も再度加速的に増加するだろう。

2023年インバウンド需要は4兆9,580億円(GDP0.9%押し上げ)に

筆者は、訪日外客数がコロナ前の2019年同月の水準を取り戻す時期は、2024年2月と現時点で予想している。

さらに、2022年10-12月期の訪日外客の一人当たりの消費額と先行きの訪日外客の予測値を用いて試算すると、2023年1年間のインバウンド需要は4兆9,580億円となる。コロナ前の2019年のインバウンド需要4兆8,135億円を、早くも2023年に超える計算だ。政府が目標に掲げる5兆円も、2023年にほぼ達成できることになる。

また、4兆9,580億円のインバウンド需要によって、2023年の(名目及び実質)GDPは前年比+0.89%増加する計算だ。インバウンド需要が再び日本経済に大きなプラスの効果をもたらすのである(コラム「2023年のインバウンド需要は4.96兆円と早くもコロナ前を上回る予想」、2023年2月21日)。

進むインバウンド需要の高付加価値化

今年1-2月の訪日外客数を国別にみると、中国からの入国者数が2019年同時期の20分の1以下に留まっている一方、既に増加している国もある。ベトナムの同+43.5%、シンガポールの同+10.3%である。コロナ前の中国、韓国に集中していた国別入国者数には、ばらつきがみられるようになっている。

訪日外客数が当初の予想を上回るペースで回復していることに加えて、もう一つ予想外であるのは、訪日外客数一人当たりの消費額が、思いのほか増加していることだ。観光庁の昨年10-12月期の訪日外国人消費動向調査によると、同期の消費額、いわゆるインバウンド需要は5,952億円となった。これを同期の訪日外客数で割ると、一人当たりの消費額は21.2万円となる。これは、コロナ前の2019年15.9万円を上回っているのである(図表1)。

主要国では豪州を除けば、どの国でも一人当たりの消費額は2019年と比べて増えている。中国の観光客の一人当たり消費額は61.6万円と2019年の実に3倍近くにまで及んでいる。

旅行者消費額を費目別にみると、2019年と比べて買物代の比率が低下する一方、宿泊費の比率が高まっている。宿泊費の増加が、一人当たり消費額を押し上げている可能性があるだろう(図表2)。

図表1 訪日外客数と外国人旅行消費額

図表2 訪日外国人旅行消費額の費目別構成比(%)

ボトルネックを乗り越える鍵は?

コロナ禍での低迷を経てようやく回復してきたインバウンド需要であるが、先行き不安もある。それはボトルネックだ。

早晩、外国人観光客の宿泊不足が生じることになるだろう。また、観光業全体の人手不足も外国人観光客受け入れのボトルネックとなるだろう。こうした障害を乗り越え、持続的なインバウンド需要を日本経済の成長のけん引役にするための方策としては3つ考えられる。

第1は、高付加価値化である。外国人観光客の一人当たりの消費額を増加させれば、客数の増加ペースが鈍っても日本のGDPを押し上げる。この点については、既に見たようにその兆候は表れている。

外国人観光客の一人当たりの消費額が足元で増加しているのは、コロナ禍で長らく日本にこれなかった外国人が、その分多く消費している結果かもしれない。あるいは円安の影響であるかもしれない。こうした傾向を持続させるような取り組みを、事業者も積極的に行うことが求められる。

第2は、大都市部と比べて宿泊先の余裕が相対的に大きいと見られる地方部に外国人観光客を誘導することだ。外国人観光客は日本の大都市部の旅行に集中する傾向があるが、地方の観光資源を紹介し、また地方の観光整備を進めることが重要だ。それは、地方活性化にもつながる。

高付加価値化という「深掘り」と地方誘致という「地理的拡大」に設備投資拡大

インバウンド需要の高付加価値化という「深掘り」と、訪日外客の地方誘致という「地理的拡大」の双方を軸に、日本の観光資源の掘り起こしを進め、インバウンド需要の持続的な拡大につなげていくことが重要だ。この2つについては、観光庁も新たなインバウンド戦略として検討しているところである(コラム「2023年のインバウンド需要は4.96兆円と早くもコロナ前を上回る予想」、2023年2月21日)。

第3は、事業者に設備投資を促すことだ。ホテル建設が進めば、宿泊のキャパシティが増え、また日本経済の供給力を高め、潜在力を向上させる。そのためには、海外からの観光客の増加とインバウンド需要の増加が一時的では終わらずに、将来にわたって続くとの期待を事業者に高めることが鍵となる。

それを実現するには、様々な国、地域から外国人客を呼びこむことが重要なのではないか。コロナ前のように特定の国に偏っていては、2国間関係が悪化する際に、海外からの観光客とインバウンド需要が一気に冷え込んでしまうとの懸念を拭えないからだ。いわゆるリスク分散が必要なのである。そのためには、海外での政府の広報活動なども欠かせないだろう

足元で急増する外国人観光客が一巡する前に、このタイミングを逃さずに、3つのインバウンド戦略にしっかりと道筋をつけておくことが重要なのではないか。

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